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「我々はファッションを売らない」 1着105円の激安古着店・たんぽぽハウスが貫く「哲学」

   数多くの古着店がひしめく東京の街にあって、独自の存在感を見せるチェーンがある。「1着税込み105円」という破格なラインアップが目を引く「たんぽぽハウス」だ。

   チェーンを展開するヴァンベール(東京都中央区)の羽田健一郎社長は「我々はファッションを売らない」と言い切る。来るものを拒まない「生活密着型古着チェーン」の哲学とは。

  • 破格の古着が特徴「たんぽぽハウス」の店内
    破格の古着が特徴「たんぽぽハウス」の店内
  • 破格の古着が特徴「たんぽぽハウス」の店内

古着街・高円寺で異彩放つ

   レディース105円、メンズ105円、キッズ105円――。

   店内に並ぶ値札の数々。ここは100円ショップの「ダイソー」でも「セリア」でもない。東京と千葉に17店舗を展開する古着チェーンの「たんぽぽハウス」だ。最大の特徴はその「安さ」。公式サイトには「ワンコインでトータルコーディネート」のキャッチコピーが踊る。バラエティー番組の激安コーディネート企画で、店が舞台になることもある。

   2021年4月22日、記者はJR中央線の高円寺駅(東京都杉並区)近くにある「たんぽぽハウス高円寺店」を訪れた。高円寺といえば、数多くの古着店が集積する激戦区として知られるが、中でもたんぽぽハウスの存在は異彩を放っている。

   個人経営の店にファッション好きな若者が集うのとは対照的に、たんぽぽハウスの主要な客層は主婦層。この日も買い物カゴを片手に、掘り出し物を探す女性客の姿が多く見られた。

たんぽぽハウス高円寺店の外観
たんぽぽハウス高円寺店の外観
「我々は『ファッション』を売らない。売るのは『生活密着型の古着』です」

   たんぽぽハウスを展開するヴァンベールの羽田社長は、4月20日、J-CASTニュースの取材に対し、チェーンの位置付けをこう語った。

   同社のルーツは1889年(明治22年)に創業した「羽田久之助商店」。櫛やかんざしなど、人々が身につける「小間物」の問屋だった。高度経済成長期以降は卸売業として大手雑貨店とも取引関係を持ち、やがて小売にも進出。婦人向け衣料などを販売する店「ヴァンベール」を東京・江戸川区に開いた。付近には安価な衣料品を取り扱う大型スーパーが立地。「我々のような小さい店は、ジャスコよりも安く売らなければならなかった」と、当時の熾烈な価格競争を振り返る。

「みんな、自分に必要だと思った服を買いに来る」

   どうすれば、圧倒的な集客力を持つ大型店に勝てるのか。転機となったのは2000年代初頭。羽田社長は「ブックオフ」や「ハードオフ」など、当時成長を遂げていたリサイクルショップチェーンのビジネスモデルを学ぶ機会があった。

   店にノウハウを持ち帰り、さっそく実行に移した。当時のパート社員に「捨てる寸前だった古着」を持参させ、店の端で売り出したのだ。「『古着』ってちゃんと書いてあるし、サイズも何も適当だった。でも、売れたんですよ」(羽田社長)。その後は、利用客から寄せられた古着を買い取り、店の自転車置き場で販売。高い利益率を出したことから、「たんぽぽハウス」としての本格的な古着ビジネスへシフトした。

メンズ、レディース、キッズまでさまざまな衣類を扱っている
メンズ、レディース、キッズまでさまざまな衣類を扱っている

   ユニクロやしまむらなど、ファストファッション店が存在感を増していった2000年代以降の日本。たんぽぽハウスのビジネスモデルは、一般的な古着チェーンでは扱わないような安価な衣料品や、多少状態の悪いものであっても積極的に買い取り、大量に販売するというものだ。羽田社長は、高価なブランド物を扱う他のチェーンと比べても価格帯が低いという意味で「言うなれば、我々は『古着界のしまむら』です」と語る。

   消費者の節約志向の高まりもあり、コロナ前までは業績好調を維持。17年には国内外の観光客で賑わっていた浅草、19年には古着激戦区の高円寺に出店するなど、勢いに乗っていた。そんな中、思いがけない需要も生まれた。

「例えば、穴の空いたツイードのジャケットを『サバゲー』の利用者が買っていったり、レディースの衣料を『女装趣味』の人が買っていったりする。世の中のファッショントレンドとは全く関係ない。みんな、自分に必要だと思った服を買いに来るんです」

「古着界のしまむら」が新店を出した場所は...

   ただ、新型コロナウイルスの影響は大きかった。20年4月に出された緊急事態宣言の影響で、上野広小路や浅草など、東京の中心部に近い好立地店で客足が減少。数年前に出店したばかりの浅草店は、20年9月に閉店を余儀なくされた。羽田社長は「(チェーンの)売り上げは半分になり、赤字になった」と語る。

   しかし、踏まれても起き上がるのが「たんぽぽ」だ。21年春には東京と千葉に1店舗ずつ新店を出店。いずれも商業施設のテナントとしての出店で、うち1店舗の「西友東陽町店」は「しまむら」が営業するすぐ近くに店を構えた。

「ショッピングセンターでは、大手チェーンが出店していた区画で『空き』が出るようになってきている。(これまでは都心部の路面店が多かったが)採算ベースに乗りそうなところがあれば、そうした場所(施設内)にも出店するという方向にシフトしています。普通の衣料品店だったら、しまむらさんの横には入りたがらない。でも、うちなら大丈夫です」

   コロナ禍で厳しい情勢が続く中、「今は生き延びることが第一命題」だと語る羽田社長。チェーンの現在地、そして未来を、どう見ているのだろうか。

「たんぽぽハウスは大げさに言えば、『生活インフラ』だと思っています。自分たちの古着を使わなくなったら、リサイクルすればいくらかでもお金になる。子供を育てる親にとっては、子供の服が安く買える。人々の『生活』に密着した業態ですから、丹念にやれば東京や千葉以外の地域にも進出できる可能性もある。それは僕の時代の後になっているかもしれない。じっくり、少しずつでも、大きくしていければと思います」
東京・日本橋の本社で作業をする羽田社長
東京・日本橋の本社で作業をする羽田社長

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)