J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

なぜサウジは初の「長編アニメ」を日本企業と作ったのか? 制作会社が明かす壮大な「国際戦略」

   世界各地で日本のアニメが注目されている。それは中東においても例外ではなかった。サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国では80~90年代から日本のアニメが人気を博しており、現在では多くの若者が「キャプテン翼(アラビア語では「キャプテン・マージド」)」などアラビア語の吹き替えの日本のアニメを見て育ってきている。

   そうした中でサウジアラビアのアニメ制作会社「マンガプロダクションズ」が、東映アニメーションと共同で、同国初の長編アニメ映画「ジャーニー」を制作した。古代アラビア半島の歴史を題材としたもので、日本では2021年6月25日からT-Joy系列の映画館で公開される。

   J-CASTニュースはマンガプロダクションズ東京オフィスPR部門に同作を制作した狙いなどを取材した。

  • サウジアラビア初の長編アニメ映画「ジャーニー」
    サウジアラビア初の長編アニメ映画「ジャーニー」
  • サウジアラビア初の長編アニメ映画「ジャーニー」
  • SNK(大阪府)での研修の様子
  • 東映アニメーションではデッサンの練習を行た
  • 東映アニメーションで手のデッサンを行っている様子

「アラブ世界に存在する様々な課題に応える為に」

   同作に携わった「マンガプロダクションズ」は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が2011年に設立したMiSK(ミスク)財団の子会社で、主にクリエイティブ業界での活動に力を入れている。具体的には、アニメやゲーム、漫画の制作や配給に加え、サウジアラビアの若者の人材育成や、クリエイティブコンテンツ業界への投資事業などを手掛けている。

   長編アニメ「ジャーニー」を制作した狙いについて、同社PR部門はこう述べる。

「サウジアラビアやアラビア半島については、多くの歴史や文化が未だ世界に充分に伝えられていないと感じている為、サウジアラビアの文化や歴史からヒントを得ると共に国際競争力のあるクリエイティブコンテンツを制作するということが、『ジャーニー』の目標でした。
『ジャーニー』は、クリエイティブコンテンツ業界における国際的なパイオニアを目指している私たちにとっても、そして親会社であるMiSK財団のビジョンを体現するという意味に置きましても、非常に重要な作品です」

   というのも、マンガプロダクションズは「アラブ世界に存在する様々な課題に応える為に生まれた会社」なのだという。

「現地の人々はもちろんのこと世界中の視聴者を魅了するようなコンテンツが不足していることや、世界的なコンテンツ制作会社と競い合える質の高い作品が無いことなどが課題だと感じております。
更に、海外のコンテンツ制作会社はアラブの文化、人々について正しく伝えることが出来ていないという現状もございます」

   そこで、同社はアニメなどのコンテンツを通してアラブの文化などを発信していくことを目指している。

最も苦労したのは「ボディーランゲージ」の違い

   そんなサウジアラビアのマンガプロダクションズと、日本の東映アニメーションが共同で制作したのが長編アニメ「ジャーニー」だ。マンガプロダクションズは「両方の精神の融合を肌で感じられるような刺激的で素晴らしい映画を制作することが出来た」と満足げに語る。

   アニメの制作現場では、どのように二国の文化が交わっていたのだろうか。マンガプロダクションは、日本の歴史や伝統を大切にする姿勢には親近感を覚えたとしている。

「国が持つ豊かな遺産や伝承を守っているという姿勢において、両国は非常に似ていると思います。私たちは家族を大切にし、目上の方や両親を尊敬し、お客様をもてなす心を大切にすると共に、伝統的な鷹狩やイスラム教における行事では贈り物を贈り合うことなども大切にしています」

   一方で、キャラクターデザイン、服装、小道具やボディーランゲージにおいては文化的違いを感じたという。中でも苦労したのはボディーランゲージだったそうだ。

「スタッフは現地の歴史家の方の助言も仰ぎながら、映画全体の独創性は保ちながらもシーン毎にそれぞれのキャラクターの正確さを常にチェックしながら、慎重に作業を進めました。
もっとも大変だったことは、日本とサウジアラビアのボディーランゲージの違いです。サウジアラビアチームは、アラビアのボディーランゲージを日本チームに理解して頂けるよう52バージョンにも及ぶビデオを作成すると共に、毎週実演も行いました」

若者の力でサウジのコンテンツ業界を盛り上げる

   またサウジアラビアと比べて日本は、クリエイティブ業界について非常に長い歴史があるという。

   そこでマンガプロダクションは2018年、日本のアニメ・ゲームの作画や制作などにインターン生を送り込んだ。アニメ・ゲーム分野の受け入れ先は、スクウェア・エニックス、東映アニメーション、SNKだった。

「私たちは、熱意のあるサウジアラビアの若者達が、彼らが理想とするキャリアパスを形成出来るよう、国際的な大企業や、確立された教育・研修、またインターンシッププログラムとの連携を図っています。 これらの機会を通して、クリエイティブ業界の様々な分野におけるサウジアラビアの若者達の知識及び技能開発や研修などの実質的なサポートを提供出来るよう努めております」

    現在は300人の学生が国際的な企業7社で、ゲーム、漫画、アニメの研修を受けているという。こうした機会で培った技術は、映画にも生きてきているそうだ。マンガプロダクションは若者たちの活躍に大きな期待を寄せている。

「『ジャーニー』は、サウジアラビアの人財やアーティストをサポートし、若者の才能に投資した結果、生まれた作品であると言えます」
「若者に可能性を与え、彼らを信じることにより、彼らは必ず成功し結果を出すことを学びました。学生達の創造性のレベルは非常に高く、そんな彼らの夢を支え、業界全体を底上げする為にも、より多くの研修や教育の機会を増やしていかなくてはならない、と思わせるようなものでした」

   そうして出来上がった「ジャーニー」については、SNS上で「気になる」、「面白そう」といった期待の声が寄せられている。マンガプロダクションは公開に向けて、こう抱負を語った。

「私たち、マンガプロダクションズはサウジアラビアの文化を世界の皆様と共有出来ること、そして、アラビア半島の歴史的な物語を紹介出来る機会を持つことが出来たことを非常に嬉しく思っています。
『ジャーニー』は明日のヒーローを鼓舞する作品として、中東及び世界の映画業界において、マンガプロダクションズの良いスタートとなるでしょう」

   同社はオリジナルアニメを作り、見た人が元気づけられるようなマンガやゲームを制作していくという。そのうえで、サウジアラビア経済の多様化に貢献出来る作品を作ることを目指すと意気込んだ。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)