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JAL釜山&高雄線、40年の歴史に幕 LCCに押され「コロナ後」も回復見込めず

   コロナ禍で厳しい経営を迫られる日本航空(JAL)は2021年5月7日、中期経営計画(21~25年度)を発表した。「コロナ後」の需要回復を見据えた内容で、23年度にはEBIT(利払い・税引き前損益)をコロナ前の水準を超える1700億円、最終年度の25年度には約1850億円への引き上げを目指す。

   ただ、「コロナ後」もビジネス需要の完全な回復は望みにくい。そのため、主力の航空事業では、比較的回復が早いとみられる観光需要を取り込もうと、格安航空会社(LCC)事業に力を入れる。そんな中で打ち出された方針のひとつが「低収益路線の運休」。対象は成田と韓国・釜山、台湾・高雄を結ぶ路線だ。現地の拠点も閉鎖が決まっており、競合するLCCの台頭に押される形で、約40年に及ぶ歴史に事実上幕を下ろす。

  • 日本航空(JAL)は1967年から釜山に乗り入れてきた。21年7月の成田線運休で現地拠点を閉鎖する
    日本航空(JAL)は1967年から釜山に乗り入れてきた。21年7月の成田線運休で現地拠点を閉鎖する
  • 日本航空(JAL)は1967年から釜山に乗り入れてきた。21年7月の成田線運休で現地拠点を閉鎖する
  • 記者会見で中期経営計画を発表する日本航空(JAL)の赤坂祐二社長(写真左)。成田-釜山、高雄の2路線について「ちょっと中期(経営計画の期間)中の回復が見通せないなと思っている」などと述べた
  • 釜山・金海国際空港にある日本航空(JAL)の発券カウンター。成田便の運休で閉鎖予定だ(2013年撮影)。

2025年度のフルサービスキャリアの売り上げは「コロナ前」から微減

   機内食や座席指定に追加料金がかかることが多いLCCに対して、こういった料金が元々運賃に含まれている、JALのような従来型の航空会社は「フルサービスキャリア」(FSC)と呼ばれる。中期経営計画では、FSCのコスト削減策が打ち出されているが、それでも25年度のFSC事業の売り上げは「コロナ前」の19年度と比べて微減するとみている。

   コスト削減策として、老朽化が進む主力大型機のボーイング777型機を退役させ、燃費がいい最新鋭機のエアバスA350型機の導入を進める。これに加えて「低収益路線の運休とコードシェアの活用」も掲げている。

   この「低収益路線」にあたるのが成田-釜山、成田-高雄線だ。現時点で両路線はコロナ禍で減便されており、釜山線は運休、高雄線は週1往復の運休が続いてきた。これが7月からは「当面の運休」になる。

   JALの赤坂祐二社長は記者会見で、国際線がコロナ禍による減便や運休で「かなりすでにネットワークを毀損(きそん)してしまっている」とした上で、

「中期(経営計画の期間)が、これを少しずつ戻していくというフェーズになるので、基本的には、最終的に25年ぐらいまでにはネットワークについては回復をさせたい」

と述べた。

2路線は「ちょっと中期(経営計画の期間)中の回復が見通せない」

   ただ、運休が決まった2路線は例外で、赤坂氏は

「ちょっと中期(経営計画の期間)中の回復が見通せないなと思っている」
「この2路線は、ちょっと、この中期が難しいかな(と思っている)。ただこれは、『運休』と申し上げているので、マーケットの状況にもよるが、いずれは何とか回復できれば、環境が整えば...、そういう風には思っている」

などと述べている。限りなく「廃止」に近いニュアンスをにじませた。

   両路線の歴史は長い。JALが初めて釜山に乗り入れたのは1967年9月開設の福岡線。71年4月開設の大阪(伊丹)線に続いて、成田線は79年7月に開設された。福岡、大阪線はすでに運休しており、今では成田線がJALにとっては唯一の釜山路線だった。

   高雄線は、JALが台湾乗り入れのために立ち上げた日本アジア航空(JAA、08年にJALに吸収合併)が成田から台北を経由する便として81年7月に開設。2005年11月には成田からの直行便が運航されていた。

   釜山は人口ベースで韓国第2の都市で、高雄も17年に台中に抜かれるまでの長い間、台湾第2の都市だった。成田と両都市を結ぶ路線は、JALが10年に経営破綻し、国際線の事業規模を4割縮小した際も継続されてきたが、環境の変化を乗り越えることはできなかった。

   JAL広報部によると、運休にともなって両空港の空港・貨物・営業の事務所を閉鎖する。経年機の退役を進めるなどの機材計画の修正による「機材数縮小に伴って」運休を決めたとする一方で、

「コロナ以前から年々LCCがシェアを伸ばし徐々にマーケット環境が悪化しており収益性に課題があったことから、コロナ後もLCCの供給が拡大し、厳しい競争環境が見込まれることが想定されることも影響しています」

とも説明している。

フルサービスキャリアの需要減をLCCの成長で補う

   中期経営計画では、FSCの需要減はLCCの成長で補う。25年度のLLC事業の売上高は、19年度比で倍増させたい考えだ。JALが関係するLCCは3社あり、それぞれの得意分野で観光需要の取り込みを目指す。

   1社目が完全子会社で中距離の国際線を担うジップエア。現時点では成田からホノルル、ソウル(仁川)、バンコク(スワンナプーム)の3都市を2機体制で結んでおり、24年度までに10機に増やす。アジアや米西海岸にも就航し、低価格帯の需要を掘り起こしたい考えだ。2社目が豪カンタス航空と共同出資し、近距離国際線と国内線で運航するジェットスター・ジャパン。拠点の成田空港を中心とした国内線の需要を取り込む。3社目が、すでに5%程度出資している中国系の春秋航空日本。6月に出資比率を51%超に引き上げて連結子会社する。日本との直行便が開設されていない中国の人口1000万人超の都市との路線を開設するなどして、中国からの訪日客需要を狙う。

   中期経営計画と同時に発表した21年3月期連結決算(国際会計基準)の純損益は、2866億円の赤字(前年は480億円の黒字)で、12年の再上場後では初の赤字に転落。売上高は前期比65%減の4812億円。22年3月期の業績予想は未定とした。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)