J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「カレーの調理音」でライブ演奏 謎の前衛アーティスト「ノイズカレー」の正体とは

   薄暗いライブハウスに響き渡る、断末魔の叫びのような音。この音を生み出しているのは、ギターでもベースでも、キーボードでもない。

   カレーだ。

   カレーの調理音で音楽を奏でているのは、ノイズミュージック・アーティストの「ノイズカレー」。調理と音楽を融合した独創的なパフォーマンスで、東京のライブシーンでひそかに注目を集めている存在だ。

   J-CASTニュースが、謎多き前衛アーティストの正体に迫った。

  • パフォーマンスをするノイズカレー(2016年、ライブハウス「WildSideTokyo」提供)
    パフォーマンスをするノイズカレー(2016年、ライブハウス「WildSideTokyo」提供)
  • パフォーマンスをするノイズカレー(2016年、ライブハウス「WildSideTokyo」提供)

ネット上に数々の演奏動画

   ノイズミュージックとは、生活上の雑音や自然音など、本来ならば音楽的要素が見出されない音を用いて、音楽を作り出すジャンルだ。

   世の中のノイズ・ミュージシャンがそれぞれの解釈で「ノイズ」を奏でる中、ノイズカレーは「カレーの調理音」に音楽性を見出した。ステージ上で野菜を切ったり、鍋で炒めたり...ノイズカレーのパフォーマンスでは、そうした音をマイクが拾い、エフェクターを通じて様々な音に変換。叫び声やBGMとともに、演奏を構成する。

   ネット上には、ノイズカレーの演奏動画の数々がアップロードされている。YouTubeに投稿された過去のライブ動画では、穏やかな調理風景が一転、轟音と発狂が入り混じるカオス空間に変貌する、圧巻のパフォーマンスを見ることができる。

   ツイッター上では、披露宴の余興だろうか、タキシードと白いドレスに身を包んだ新郎新婦の前でパフォーマンスをしている動画も確認できる。

「度肝を抜かれました」

   今から2年前の19年4月、ノイズカレーのパフォーマンスを間近で見た人がいる。世界の打楽器事情に詳しい「打楽器マニア」のサカンさんだ。当時、他の出演バンド目当てにライブハウスへ足を運んだところ、ノイズカレーのパフォーマンスに遭遇。21年5月11日、J-CASTニュースの取材に対し、当時の印象をこう振り返った。

「度肝を抜かれました。調理の音はとてもリズミカルで、まるで音楽のように聞こえる事がありますが、まさか調理する事そのものを音楽的パフォーマンスにする方がいらっしゃるとは思いもよりませんでした」

   実はノイズカレー、これまでもツイッター上でたびたび注目を集めてきた。2021年4月にアップされた演奏動画に対しては「マジで謎くて最高」「なにこれ...めっちゃかっこいいんっすけど...」「ライブハウスで見たい」「この世界は広いんだと再認識しました」などの反響が。海外ユーザーからも、

「Ohh, dinner and a show!」(なんてこった!ディナーとショーを両立してやがる!)
「dope」(イカれてるぜ)

など驚きの声が相次いだ。

   ただ、ツイッター上では定期的に話題を呼んでいるものの、その実態は長い間謎に包まれてきた。一体なぜ、このような音楽をやっているのか。J-CASTニュースは5月6日、ノイズカレー本人にツイッターのDMを通じて取材。話を聞いた。

「祭り、愛と混乱の魂の叫びを込めることが出来ます」

――これまで、どういった場所で活動されてきたのでしょうか。

ノイズカレー:主に新宿にあるWildSideTokyoというライブハウスで活動してきました。他には京都の「銭湯音楽祭」(20年1月開催)というのにお呼ばれしたり、静岡の掛川市のアートイベント「Haraizumi artdays」(19年10月〜11月開催)というのに1ヶ月弱お邪魔したりしてました。

――このスタイルに行き着く前には、どんなことをされていたのでしょうか。

ノイズカレー:ロックやパンク、オルタナティブ系のバンドをやってました。今は活動停止中です。パートはドラムです。知り合いと即興バンドをしたり、また海外の路上で空き瓶を叩いて生活してた事があったので、それをライブで、ソロでやったりしていました。

――なぜ「ノイズカレー」というスタイルに行き着いたのでしょうか。なにか理由はあるのでしょうか。

ノイズカレー:最初はライブハウスでフードを作っていました。ですが、気が付いたらステージ上でそれをやっていて、気が付いたら定期的に呼ばれ...やっていく中で進化していきました。(このスタイルに行き着いた)理由はありません。

――カレーを作ることで生み出される「ノイズ」には、どんな特徴があるのでしょうか。

ノイズカレー:家のどこからか包丁の音や掃除機、洗濯機の音が聞こえてくる様な、夕暮れのカラスの鳴き声のような、遠くで布団を叩く音が夢うつつで聞こえて来る様なアンビエント感の中、金縛りにあってUFOが降りてくる現実か分からない緊張感や、祭り、愛と混乱の魂の叫びを込めることが出来ます。

作ったカレーは「フード」として提供

――作っているカレーは、具体的にどんなカレーでしょうか。

ノイズカレー:グリーンカレー風カレー、マーボーカレー、キーマカレー、高野豆腐のベジタブルキーマカレー、トマトカレー、かぼちゃカレー、チキンカレー、ポークカレー...なんか音楽と一緒で、あまりジャンル(にこだわって)で作ってないので、具体的な名前と言われると難しいですね(笑)他には「ウマトマポークカレー」とか「ココチキスパイシータイ風カレー」とか「アボトマキーマヨカレー」とか「キノコとトマトのグリーンカレー」とか...特別カレーに詳しいわけではないので、出来てから適当に名前つけてます。

――色々なカレーを作っていらっしゃるんですね。

ノイズカレー:どの様なカレーでも作りたいと思ってますが、基本クミンやコリアンダーやクローブ始めスパイス類、エスニック系のカレーペースト等を使い、ルーは使用しないか少なめです。勢いで作っているため、工程がめちゃくちゃになることもあるので、場合によりなんでも使いますが、なるべくナチュラルなカレーを目指しています。

――出来上がったカレーは、どうするのでしょうか。

ノイズカレー:(観客に)振る舞ったり、そのままフードとして提供します。

「おいしいカレーが作りたい」 ワンマンライブへの思い

――東京都に3度目の緊急事態宣言が出されています。ライブハウスを中心に活動されているアーティストとしては大変な状況だと思いますが、どう受け止めていますか。

ノイズカレー:悩ましいですが、自分を「アーティスト」だとするのなら、日々健康的に、表現活動をしていく為に自分にできる事をやっていこうと自分を鼓舞しているところです。逆境を糧にできたら素敵だな、と思います。

――5月28日はワンマンライブを開催されます。意気込みを教えてください。

ノイズカレー:今は入場者数制限がある中ですが、なるべく多くの人に来てもらい、見て頂ける方も一緒に混乱しながらでも楽しんで貰いたい。そしておいしいカレーが作りたいです。

――今後はどういった活動をしていきたいですか

ノイズカレー:(「こういう舞台に立ちたい」などの)目標はありません。ワンマンを先ずは成功させたい。今まではあまり能動的に活動をやって来なかったので、今後はもっとアウトプットしていきたいのと、形に残るものを作っていきたいです。
(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)