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フェイクニュース拡散容疑は「まったくデタラメ」 ミャンマーで拘束の日本人記者が訴えたこと

   クーデターが起きたミャンマーで治安当局に拘束されたフリージャーナリストの北角裕樹さん(45)が2021年5月21日にオンラインで記者会見し、現地での拘束の様子を語った。

   北角さんの逮捕容疑は「虚偽のニュース(フェイクニュース)を広めた」というものだったが、当局側は取り調べや裁判で「虚偽のニュース」の内容に言及することはなかったという。そのため、北角さんは逮捕の狙いを「外国人記者に対する脅し」だとみている。さらに、刑務所での拘束中はペンを使うことが許されず、濃いコーヒーと鳥の羽を使ってメモを残そうとしたことも明かした。

  • ミャンマーから記憶したフリージャーナリストの北角裕樹さん。拘束中はペンが使えず、コーヒーを使って書いたメモをカメラに向かって示した(写真は日本外国特派員協会の配信動画から)
    ミャンマーから記憶したフリージャーナリストの北角裕樹さん。拘束中はペンが使えず、コーヒーを使って書いたメモをカメラに向かって示した(写真は日本外国特派員協会の配信動画から)
  • ミャンマーから記憶したフリージャーナリストの北角裕樹さん。拘束中はペンが使えず、コーヒーを使って書いたメモをカメラに向かって示した(写真は日本外国特派員協会の配信動画から)

「非常にずさんな、不当な罪状で拘束してくるので」

   北角さんは4月18日に自宅で拘束され、5月14日に解放。その日のうちに帰国し、14日間の隔離期間中だ。日本外国特派員協会主催の記者会見に、自宅からオンラインで参加した。

   自らにかけられた「フェイクニュース拡散」の逮捕容疑について、

「まったくデタラメで、私は記者の倫理に従って仕事をしていただけだと考えている」

などと否定。裁判や取り調べの際、「何がフェイクニュースなのか」「どの記事を書いたからいけなかったのか」「どのビデオを撮ったから、これが間違いである」といった、容疑の立証に必要な論点について当局側から言及がなかったという。そのため、当局が北角さんを逮捕した狙いについて

「証拠に基づいて何に問題があった、ということではなく、元々外国人記者に対する脅しとして、私を逮捕したと考えている」

と推測した。

   ミャンマーには日本人4人を含む10人程度の外国人記者がいるという。自らの逮捕については「脅しとしての象徴的な面がある」ため「これで、どんどんと外国人記者がつかまっていく、とは思っていない」とみる一方で、

「非常にずさんな、不当な罪状で拘束してくるので、リスクはあると言わざるを得ない」

とも話し、警戒していた。

取り調べで机をドンと強く叩かれて...

   北角さんは、刑務所のVIPエリアにある独房で拘束されていた。拷問は受けていないが、脅しのような言葉を受けることはあったという。

「取り調べの際に、机をドンと強く叩かれて『外国人が、この国で好き勝手なことができると思うな。お前のことを刑務所に送ることだってできるんだぞ』というような脅しの文句があった」

   政治犯の中には拷問を受けた人もいたようだ。北角さんは拘束中に政治犯と会話する機会があったといい、聞き取った内容も明かした。政治犯の多くは刑務所に移送される前に軍の施設で取り調べを受けるが、その際に(1)目隠し、後ろ手で手錠をされ、コンクリートの上に跪かされる(2)容疑を否認するようなことを言うと棒で殴られる(3)延々と取り調べが続き、夜も眠らせてくれない(4)トイレにも行かせてもらえず、失禁すると、それを理由に殴られる、といった行為があったという。

ODA全面停止は「大きなメッセージにはなる」

   北角さんにとって「苦しかった」ことのひとつが、ペンと紙を持つことが許されなかったことだ。それでも拘束の様子を何とかして記録しようと試行錯誤したことも明かされた。

「私としては、どうにかしてこの状況を記録しようとして、何回も頭の中で考えたり、そこにあるモノを使って、何とかペンの代わりになるものを使えないかと探していて、お茶のガラをスプーンの柄の部分で書いてみたり、泥を使ってみたりとか、いろいろしたが、最終的には、ブラックのインスタントコーヒーを非常に濃くしたものを鳥の羽で書く、というのが一番文字が書けるということがわかったので、それで紙の切れ端にメモを取っていた」

   日本とミャンマーの関係をめぐっては、茂木敏充外相が5月21日付の日本経済新聞のインタビューで、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)の停止も辞さない考えを示している。日本は、金額を明らかにしていない中国を除けば、ミャンマーにとって最大の支援国だ。経済的援助の打ち切りを示唆することで、国軍側に事態の改善を促す考えだ。

   北角さんは次のように話し、ODA見直しを歓迎した。

「それで問題が解決するとは思わないが、大きなメッセージにはなるとは思う」
「日本はミャンマーの民主主義、民主化を促進するために多額のODAを投入してきたわけだが、この体制で一気に逆戻りしているので、効果がすでに現れないものについては、見直すというのは当然のこと」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)