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「泣き寝入り、そのままにしてはいけない」 緊急事態宣言で東京ビッグサイトのイベント直前中止、補償求め都に署名提出

   東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催予定だったイベントが、緊急事態宣言発令の影響で、直前に中止や延期を余儀なくされたことをめぐり、イベント業界関係者らが2021年6月3日、東京都に向けて損失補償を求める2万7000人分超の署名を提出した。

   署名の発起人で、イベント人材派遣を手掛けるトライフル(東京都千代田区)代表の久野華子さんは、中止を余儀なくされたイベント団体の1つである一般社団法人日本ホビー協会の荒木武美智専務理事とともに、署名提出に先立って東京都庁記者クラブで会見を開いた。

  • 「東京ビッグサイトの突然の使用禁止により発生した損失の補償を求めます」というオンライン署名を提出した
    「東京ビッグサイトの突然の使用禁止により発生した損失の補償を求めます」というオンライン署名を提出した
  • 「東京ビッグサイトの突然の使用禁止により発生した損失の補償を求めます」というオンライン署名を提出した
  • 左から都議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)、日本ホビー協会の足立浩さんと荒木武美智専務理事、トライフル代表の久野華子さん
  • 署名の発起人でイベント人材派遣を手掛けるトライフル代表の久野華子さんと、一般社団法人日本ホビー協会の荒木武美智専務理事
  • 会見での荒木武美智専務理事
  • 会見での久野華子さん

準備期間もなくイベントが中止に

   新型コロナウイルス感染症拡大に係る3回目の緊急事態宣言の発令が発表されたのは4月23日夜。これに伴い東京都産業労働局商工部が管轄するイベント会場・東京ビッグサイトは、期間中にイベント開催予定だった主催者らに無観客イベントのみ会場を貸し出すとした。

   2日後の4月25日は赤ブーブー通信社が主催する同人誌即売会「SUPER COMIC CITY GYU!!2021」、4日後の27日から29日にかけてはリードエグジビションジャパンのIT展示会「Japan IT Week」と、一般社団法人日本ホビー協会によるハンドメイドイベント「日本ホビーショー」の開催が予定されていたが、いずれのイベントも開催を目前にして中止や延期を余儀なくされた。

   久野さんはこのような形での延期・中止により発生した損失の補償を求め、4月29日から「東京ビッグサイトの突然の使用禁止により発生した損失の補償を求めます」というオンライン署名活動を実施した。準備期間なく会場が事実上の使用禁止を強行したこと、イベントの開催基準が不明瞭であったこと、行政からの補償が不十分でイベント関係業が経済的に困窮していることを問題視しているという。

   政府は、多大な混乱が生じてしまうと主催者が判断する場合には、直ちに無観客化・延期などをしなくてもよいという「例外措置」を認めていた。しかし東京ビッグサイトで開催されたイベントについては、例外措置が適用されなかった。久野さんたちは、東京都と東京ビッグサイトに対して損害の補償を求めている。

   そして6月3日、集まった2万7321人分の署名を東京都に提出した。

日本ホビー協会の訴えた窮状

   日本ホビー協会は、東京ビッグサイトが示した開催基準を基に準備を進めてきた。4月25日の夕方から会場設営を行う予定だったため、荷物は既に発送済みだった。あとは会場を設営するのみの状態だったとして、荒木専務は当時をこう振り返る。

「ビッグサイトから連絡があったのは24日の0時半過ぎでした。政府の示した例外措置もありましたのでイベントは開催できるものと思っていましたが、『無観客であれば開催できる』という連絡をいただきました。無観客でしたら会場を借りる必要はありませんし、実質的な中止要請と受け取りました」

   署名発起人の久野さんによれば、東京ビッグサイトが連絡したのは主催者のみであり、施工会社やケータリング業者など関連業への通知などは行われなかったという。中止の連絡が間に合わず搬入のために既に会場に到着していた業者もあったとして、通知方法も問題だと語った。

   さらに荒木専務によれば、本件による日本ホビー協会の損失額は約1億7000万円に上るという。さらにこうした窮状を伝える窓口がないことも問題視している。

「協会が一番困っていることは、こういった状況、意見を受け付けてくれる窓口が全くないことです。4月27日に各省庁の窓口に電話して、東京都産業労働局、経済産業省のクールジャパン政策課、内閣官房、コロナに関連して情報発信する各省庁に電話で問い合わせをしました。しかし結果としては、緊急事態宣言の補償は決まっていないとたらい回しにされました。
こうした状況をどこに伝えたらいいのか分かりませんでした。そこで今回、意見を陳情できるということでありがたく出席させていただきました」

   またイベント中止の影響は金銭の損害に留まらない。

「日本ホビーショーは2年連続中止となり、結果的に参加者様を裏切ってしまう事態になりました。ホビーショーに出展するために会員になる方が多いのですが、今回の中止を受けて脱会される会員さんが続出しております。一時は法人・個人合わせて430人ほど会員さんがいらしたのですが、今は370を切っています。会費収入も大幅に減る見込みとなっております」

   報道陣の質問に対し荒木専務は、今後の状況によっては損害賠償を求めることも検討すると明かした。

リアルな展示会を存続させたいという想い

   久野さんは、東京都に対しイベント中止に伴う損失額の補償を約50%まで引き上げることを望んでいる。

「現在発表されている緊急事態宣言発令に伴うイベント中止によって発生した損失に対する国の補償は最大2500万円であり、適用される対象も限られています。不十分な部分については東京都が補償を行うことがのぞましいと私たちは考えています。イベント開催が難しい状況が続き、補償もないとなると失業者が増え、業界自体が潰れてしまいます」

   久野さんは、イベントの年間経済波及効果は7500億円以上にものぼり、約5万人の雇用を生み出していると訴える。イベントが開催されないことで、イベントの人材派遣会社や警備会社、施工会社、造作業者、ケータリング会社などの関連業や、会場周囲の飲食店やコンビニエンスストア、交通機関、宿泊企業など多様な産業に影響が出るのではないかと危惧している。

   久野さんら会見出席者はこの会見後、署名提出までの間にJ-CASTニュースの追加取材に応じた。

   昨今はオンラインイベントも注目されてきているがその実情について、久野さんはオンライン化が厳しい分野もあると語る。

「オンラインで収益を上げている企業は、以前から準備をしていたようなオンラインとの親和性が高いところです。リアルの転換で収益を上げているのではなく、元からやっていたものの需要が高まったものとみています。
雑貨や化粧品、ハードウェアなど直接見ないと分からないものについてはリアルに対する期待が大きく、オンライン化が進みにくい分野です。リアル展示会再開への要望も大きいです」

   また一般社団法人日本ホビー協会事務局員の足立浩さんは、イベントは産業の起点であるとし、その開催意義を語った。

「業種や業態が変わったとしても、イベントは新しいものを知ってもらう、人々のつながりができる、産業の起点ともなる場所です。次の購買を作るきっかけの場となります。1社が発表するのではなく、いろんなコンテンツが一か所に集まって個人も企業も一緒に学び合える場所です。別の表現で言えば『シェア』できる場所です。
しかしこうした状況が続けば、出展者のマインドも冷え込んでしまい、来場者も減って悪い循環になってしまいます。日本ホビーショーだけでなく産業全体がしぼんでいってしまうのではないかと危惧しています」

「急な要請にご協力頂き感謝しています」

   2万7321人分の署名は18時半過ぎ、都庁の一室で東京都産業労働局の担当者に提出された。提出には日本ホビー協会の関係者と記者会見に出席した一部のメディア、都議会議員の栗下善行氏(立憲民主党)が立ち会った。

   栗下都議は、署名を通して今回の問題が知られることを望むと話す。

「この問題は深刻さの割に知られていないために、このまま見過ごされようとしているように感じます。これまでは損害があった事業者であっても、東京ビッグサイトとの関係悪化を恐れて声を挙げづらかったと思います。この署名の賛同者の中にはそういった人々もいたと思います。
この署名は、声を挙げられない事業者の方々の背を押したものだと思います。行政の窓口が見つからないまま泣き寝入りせざるを得ない人々を、そのままにしてはいけないと思います」

   東京都の担当者は署名を受け取り、「急な要請にご協力頂き感謝しています」とし、こう述べた。

「4月25日から始まる緊急事態宣言の決定が23日の夜に行われたことで、ご案内の通り都有施設などにおきまして無観客あるいはオンラインでの開催をお願いしました。無観客あるいはオンラインでの開催ができないということで、やむを得ず中止または延期のご決断をしていただいた皆様においては大変ありがたく感謝しております」

   また苦しい状況で対応したことについては、「都としましても国の制度や東京都独自の支援金等を活用しながらご対応させていただければと存じます。どうぞよろしくお願いいたします」と述べた。

   署名提出後、J-CASTニュースは東京都の担当者に、東京ビッグサイトで開催予定だったイベントに例外措置が認められなかった理由を尋ねた。東京都の担当者はこう語る。

「今休館している都立施設に加えてそれ以外の都立施設等についても、無観客の場合を除いて休館することとしていました。民間の方々にもかなり厳しい状況の中で我慢していただいており、都立施設等においては範になるような行動をしなければいけないということです」

   この都の方針に基づき民間企業にも影響が出てしまったことなどについては、「総務局総合防災部が定めた方針に従ったものであり、私が回答する立場ではありません」とした。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)