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東京五輪「始まれば盛り上がる」はどこまで本当? 心理学博士に見解を聞いてみた

   開会式を明日に控えた東京オリンピック。新型コロナウイルスの流行が収束しない中での開催となったことにはいまだ異論は多く、ツイッター上では「#東京五輪を中止せよ」とのハッシュタグが付けられたツイートや、「途中で中止とかはありそうな気がしてきたな、五輪」といった声が上がり続けるなど、競技が始まってなお五輪への風当たりは強い。

   しかし、その一方で、「いざ始まれば、反対していた人たちも五輪開催を喜ぶ」といった見方をする向きもある。はたして、その見立てはどこまで現実になるのだろうか。J-CASTニュースが識者の意見を聞いた。

  • この盛り上がりは再び起きるか(写真は2013年の招致決定時、AP/アフロ)
    この盛り上がりは再び起きるか(写真は2013年の招致決定時、AP/アフロ)
  • この盛り上がりは再び起きるか(写真は2013年の招致決定時、AP/アフロ)

「手のひら返し」は本当に起きるのか

   「週刊文春」(2021年4月22日号)に掲載されたのは、「『始まれば盛り上がる』菅が狙う9・9解散」との見出しの記事だ。

   記事では、コロナ対策に苦慮する菅首相が起死回生を狙ってオリンピックを強行し、その勢いで衆議院を解散し、選挙に突入する目論見であると報道。「『始まれば盛り上がるから』首相は側近らの前でこう口にしている」との一文もあったためか、記事は大きな反響を呼んだのだった。

   このような状況もあってか、ネット上では

「オリンピック反対とか言ってる人見てて思う。いざ始まれば誰よりも応援してるんだろうなぁ~って」

   といったツイートや、

「無観客五輪でもいざ始まれば日本中が熱狂するでしょう」

   とのツイートもあるほど。確かに、東京オリンピックが近づくにつれ、テレビの五輪特集が増えるなど、開幕への機運は高まっているようにも思える。

   だが、これらのネットユーザーが訴える「いざ五輪が始まれば手のひら返しが行われる」などということは、本当に起こり得るのか。J-CASTニュースは20日、経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏の見解を聞いた。

日本人は「騒ぐきっかけ」を探している

   まず、鈴木氏は、五輪が始まっただけでは国内の空気は変わらないと指摘しつつも、日本人選手の金メダルラッシュが始まると、それまでの様相が一変するのではないかと指摘する。

「あくまで私の感覚ですが、メダル獲得数で言うと、金メダル5個目獲得が目安になるのではないかと思います。

『金メダル5個到達』をきっかけにして、開催反対派の心に変化が起き、それまで反対していたにもかかわらず、『やって良かった』と言う人がでてくるのではないでしょうか。ただ、コロナの患者数が大幅に増加したり、選手村でパンデミックが起きた場合は、5個よりも多くないと手のひら返しは起きないように感じられます。もちろん、開催賛成派は最初からお祭り騒ぎとなります」

   また、これに関連して鈴木氏は開催反対派の一部が、次のような複雑な心境を抱いているのではないかと推測した。

「コロナ流行以来、日本人は自粛続き。これにより、日本人は『騒ぐきっかけ』を探しています。また、特に自粛を要請されているのは『飲酒』という行為ですが、この状況を例えるなら、『酒を飲むことを禁じられているが、あと少しで飲めるようになる人間』。すなわち、20歳の誕生日や成人式を目前に控えた若者です。

そこに、成人式......ではなくオリンピックが開幕した場合、それすなわち『騒ぐきっかけ』であり、我慢を終わらせる絶好の機会とも言えます。ということは......身もふたもないことを言ってしまうと、開催反対派の中に『五輪開催をきっかけにして自粛をやめてやろう』と考えている人が一定数いてもおかしくないわけです」

『節操のなさ』は、同時に『変わり身の早さ』でもある

   このように、金メダルラッシュの発生をきっかけに手のひらを返す層は一定数いると指摘した鈴木氏。こんな指摘をされてしまっては「節操がない!」と言いたくもなるが、これらの層をただ単に批判するのは間違いだとも指摘した。

「日本は災害多発国であり、古来より、日本人は数々の災害に苦しめられてきました。しかし、その度に日本人はその『変わり身の早さ』によって、その都度、復興を成し遂げてきたと言えるでしょう。

つまり、『節操のなさ』は同時に『変わり身の早さ』でもあり、それすなわち、一瞬にして手のひらを返す人たちというのは『立ち直りが早い人たち』でもあるのです。

有史以来、さまざまな災厄から復興を遂げてきた我が国ですが、この『立ち直りが早い人たち』が日本の復活に寄与してきたという面は否定できず、そう考えると、手の平を返すという行為は決して褒められるものではありませんが、悪い面ばかりというわけでもないのです」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)