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麻生氏「立憲共産党」批判のフェイク 「どこの国も共産党がリーダーシップ取る」→1年前に反例あり

   麻生太郎前財務相(自民党副総裁)が衆院選(2021年10月31日投開票)の応援演説で「立憲共産党」という言葉を連発し、波紋を広げている。

   立憲民主党と共産党の協力関係を揶揄する狙いがあるとみられ、10月23日の演説では、かつての中国国民党と中国共産党との協力体制「国共合作」を引き合いに「どこの国でも共産党と組んだら共産党がリーダーシップを取っている。みんな同じです」と主張した。共産党は、かつては約30年間にわたって中国共産党との関係を断絶し、今でも人権問題では中国に批判的だ。共産党と中国共産党を同一視して批判する主張は反発を呼ぶ可能性もある。

  • 麻生太郎前財務省(自民党副総裁)。新百合ヶ丘駅前の演説でも、立憲民主党と共産党の関係を「立憲共産党」だと批判した
    麻生太郎前財務省(自民党副総裁)。新百合ヶ丘駅前の演説でも、立憲民主党と共産党の関係を「立憲共産党」だと批判した
  • 麻生太郎前財務省(自民党副総裁)。新百合ヶ丘駅前の演説でも、立憲民主党と共産党の関係を「立憲共産党」だと批判した
  • 新百合ヶ丘前で演説する野田佳彦元首相(立憲民主党最高顧問)。解散総選挙のスケジュールを批判した

「どこの国でも共産党と組んだら共産党がリーダーシップを取っている。みんな同じです」

   麻生氏は10月23日午後に新百合ヶ丘駅前(川崎市)で行った演説で、今回の衆院選が政権選択選挙だと説明する中で、立憲と共産の関係について「立憲ナントカ党が連立を組みました。どこと?共産党。立憲共産党になったんだな」と表現した。さらに麻生氏は、両党の政策面の違いを指摘。立憲と共産は、仮に政権交代が起きた際は連立政権を組むのではなく、共産が「限定的に閣外協力」することで合意しているが、現実的には不可能だとする主張を展開した。

「じゃあ聞こう。共産党は日米安保条約反対、自衛隊は違憲、天皇制反対。じゃあ、そういう政党と一緒になったら、内閣はどうするんです?『いや、内閣には入れないんです』(と立憲は主張している)。選挙だけ世話になって、(与党に)なった途端に『あんたら入れない』って、できると思う?選挙で散々世話になっといて、そして、いざなったら『あんたら入れない』。そういうようなことができると思ってるのが、まず間違いなんですよ!」

   さらに、第2次国共合作後に第2次国共内戦が起こり、中国共産党による中華人民共和国が成立した経緯を引き合いに、仮に立憲民主党が政権を獲得したとしても共産党に乗っ取られると主張した。

「その上で共産党と組んだ世界中(の事例を)見て下さい。中国だって国民党と組んだ共産党は国共合作で国民党を乗っ取ったわけだろ?中国の歴史はそういう歴史じゃないですか。1940年代の歴史ですよ。したがって、どこの国でも共産党と組んだら共産党がリーダーシップを取っている。みんな同じです。そういう国になりますか?」

立憲公式も苦言「批判するなら政策にしませんか」

   共産党は1960年代後半、文化大革命を批判したことをきっかけに中国共産党との関係を断絶。約30年が経過した98年、中国側が文革時の対応への反省を表明したことで両党の関係は正常化した。ただ、中国のシナ海・東シナ海での覇権主義、尖閣諸島をめぐる動き、香港やウイグルでの人権問題については、今でも共産党は中国に批判的だ。

   「どこの国でも共産党と組んだら共産党がリーダーシップを取っている」という麻生氏の主張も、裏付けは不明だ。例えば20年1月にスペインで発足した連立政権は、中道左派・社会労働党(PSOE)と左派の政党連合、ウニドス・ポデモス(UP)で構成しており、UPを構成する政党のひとつがスペイン共産党(PCE)だ。PCEメンバーが84年ぶりに入閣したが、22人いる閣僚のうち2人過ぎず、現時点で「共産党がリーダーシップを取っている」状態だとは言えない。

   「立憲共産党」という単語は、10月22日に京王線府中駅近くで行った演説での発言を日刊スポーツが「麻生太郎氏が痛烈『あちらは立憲共産党』 応援演説で野党共闘批判」の見出しで報じたことで拡散され、一時期はツイッターで「トレンド」に入った。23日午後に立憲の公式アカウントも反応し、記事を引用しながら

「麻生さん、批判するなら政策にしませんか。『立憲共産党』という政党はありません。共産党さんにも失礼です」

と麻生氏を批判した。共産党の公式アカウントも24日午後に記事を引用し、「これを『痛烈』だと感じているのであれば、相当古いですね」。報道姿勢を批判した。

翌日には野田元首相が演説も...野党共闘への言及なし

   麻生氏が演説した新百合ヶ丘前では、野田佳彦元首相(立憲民主党最高顧問)も10月25日夕に演説し、主に解散総選挙のスケジュールを批判した。

   投開票日が現行憲法下では初めて衆院議員としての任期満了後になることを「憲政の常道に反すると思いませんか?」などと指摘。岸田文雄首相が選挙を理由に国際会議の対面での出席を見送る見通しになっていることも問題視した。開催が迫っている国際会議は、10月30日にローマで開幕する20か国・地域首脳会議(G20サミット)と、11月1日に英北部グラスゴーで開幕する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)首脳会合の2つ。野田氏はそれぞれについて、次のように述べた。

「米国のバイデンも、中国の習近平も韓国の文在寅も、ロシアのプーチンも、英国のボリス・ジョンソンも、みんな集まってくるのに、日本の総理大臣は投票日だから出席できない。おかしいと思いませんか?外務大臣経験者でしょ、岸田さんは!国益を考えてないんですか?」
「世界の首脳みんな出てくるのに、岸田さんはオンラインで参加予定です。グレタさんが怒ると思いますね!『日本はやる気があるのか』と」

   その上で、衆院議員の任期満了や国際会議のスケジュールが以前から分かっていたにもかかわらず、今回の衆院選のスケジュールになったことを改めて非難した。

「なぜこんなことになったんですか?民主主義の原則を踏みにじり、国益を損なう。理由は簡単です。9月に自民党総裁選挙を、だらだらだらだらだらだら、やったからじゃありませんか!」
「党利党略のエゴだと思いませんか?」

   ただ、世界の首脳のスケジュールは流動的だ。G20サミットについては、プーチン大統領のオンライン参加をロシア政府が発表したほか、中国の習近平主席についても、対面では出席しない方針を米ブルームバーグが報じている。COP26首脳会合についても、岸田氏が対面参加の方向で調整していることが相次いで報じられている。

   なお、野田氏の演説では、野党共闘の意義に関する言及はなかった。新百合ヶ丘駅がある神奈川9区では、立憲前職の笠浩史氏、自民前職の中山展宏氏、共産新人の斉藤温氏、維新新人の吉田大成氏が出馬。野党の候補者一本化ができなかったことが影響している可能性もある。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)