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宝塚歌劇の2021年を振り返る 増えた「日本物」と斬新演出、有料配信も定番に

   昨年はコロナ禍で長期休演を余儀なくされた宝塚歌劇だが、2021年は休業要請に伴う4月26日~5月10日の休演期間を除いて1年を通して作品が上演できた。生オーケストラや新人公演も再開され、コロナ前の姿を取り戻しつつある。

   21年の公演を振り返りながら、一年のトレンドを読み取ってみよう。

  • 宝塚大劇場
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「桜嵐記」「柳生忍法帖」...目立った日本題材の公演

   2021年の公演ラインナップは、「日本物」が目立った。

   大劇場公演では前年の緊急事態宣言により公演延期になっていた「桜嵐記」が5月から珠城りょうさん・美園さくらさんの月組トップコンビ退団公演として上演。秋から冬にかけては星組「柳生忍法帖」(宝塚9月18日~11月1日、東京11月20日~12月26日)、続いて花組「元禄バロックロック」(宝塚11月6日~12月13日、東京22年1月2日~2月6日)を上演している。

   21年1月の雪組「fff」から花組「元禄」までの8公演中3公演が日本物であり、例えば2019年は月組「夢現無双」だけであったのに比べると多い。

   「桜嵐記」は上田久美子氏の脚本・演出で、楠木正行を主人公に南朝の衰亡を描いた重厚な歴史絵巻となり、珠城さんのラストステージを飾った。

   日本史の中ではやや知名度の低い南北朝の争乱を舞台に選んだが、楠木正行の知名度が宝塚ファンの間で急上昇、たまたま歴史系出版社の戎光祥出版社が行っていた「南北朝武将総選挙」で楠木正行が1位、次期トップの月城かなとさんが演じた正行の弟・楠木正儀が2位にランクインする出来事も起きた。

   星組「柳生忍法帖」は山田風太郎の小説「忍法帖」シリーズより舞台化。原作にあったエログロ要素を排除しつつも1時間40分で起承転結をまとめ上げ軽快な活劇に仕上がった。

   トップスターの礼真琴さんは剣豪・柳生十兵衛を眼帯姿の野性的なメイクで演じ、ドラマやマンガで描かれてきた柳生十兵衛の風貌も再現してみせた。またこの公演で退団した愛月ひかるさんが敵方のラスボス・芦名銅伯を金髪蒼白の風貌で妖しげに演じたことも観客の記憶に残った。

「忠臣蔵」を斬新演出でアレンジ

   12月の花組「元禄バロックロック」は演出の谷貴矢氏の感性が発揮されたSFファンタジーだ。大筋は赤穂浪士の仇討ちが軸になるが、本作の舞台・エドは史実の江戸時代とは似ても似つかぬ西洋文化が流入した国際都市で、舞台衣装も和洋折衷で前衛的ですらある。

   本作が大劇場公演初登板となる谷氏が過去に「義経妖狐夢幻桜」(2018)「出島小宇宙戦争」(2020)で培ってきた和風ファンタジーの世界が展開されている。宝塚でも戦前から何度か舞台化されている「忠臣蔵」を斬新な演出でアレンジした。年が明けた2022年1月2日からは東京宝塚劇場での公演が始まる。

   それぞれ着想も時代も異なる「桜嵐記」「柳生忍法帖」「元禄バロックロック」だが、日本物の舞台表現の奥深さも示した作品になった。

   その他、31年ぶりに再演された月組博多座公演「川霧の橋」(10月11日~11月3日)では山本周五郎原作の人情芝居を舞台で描き、22年3月からは雪組大劇場公演「夢介千両みやげ」が上演予定で、江戸芝居の上演が相次いでいる。

   日本物が目立つ中でも花組「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」、星組「ロミオとジュリエット」、宙組「プロミセス、プロミセス」と海外ミュージカルも途絶えることなく上演されている。

若手演出家が開花した「夢千鳥」

   前出の本公演の他にも宝塚バウホールや地方公演などで作品が上演されたが、大きな反響があった1作が宙組・和希そらさん主演のバウホール公演「夢千鳥」(4月22日~25日)だった。栗田優香氏が初めて脚本・演出を担当し一本立ちを果たした。和希さんが竹久夢二を演じつつ、夢二を主人公にした映画を撮ろうとする映画監督の白澤優二郎を一人二役で演じる難役に挑んだ。

   竹久夢二の生涯を、現代の価値観では放埓にも見える女性遍歴も含めて描き、耽美な夢二の世界を表現した本作は、豪華なドレスもない大正時代のシンプルな着物やスーツでも重厚な脚本で観客を惹きつけたが、公演期間中に緊急事態宣言発令で千秋楽前に中断となってしまった。

   しかし無観客上演を収録したディレイ配信がRakuten TVとU-NEXTで実現。舞台を観られなかったファンの記憶にも残り、フィナーレも含めて栗田氏の手腕に期待が高まった公演だった。

   また千秋楽公演や新人公演のネット有料配信も恒例化し、プレミアチケットだった公演も映像で気軽に鑑賞できるようになったことも2021年の変化だろう。ただ、5月の緊急事態宣言による休業要請で花組「アウグストゥス/Cool Beast!!」の大劇場千秋楽(5月10日)も無観客となり、華優希さんと瀬戸かずやさんのサヨナラショーが無観客開催になってしまったことはファンにとっては痛恨の出来事だった。

LDHコラボ・「王家に捧ぐ歌」新ビジュアルの衝撃

   2022年は既に大劇場公演7作、その他の公演9作の内容が発表済みだが、ラインナップの中でファンをざわつかせたのが星組御園座公演「王家に捧ぐ歌」(2月8日~27日上演予定)と、ドラマ「HiGH&LOW」の舞台化となる宙組大劇場公演「HiGH&LOW -THE PREQUEL-」(8月以降上演予定)である。

   「王家に捧ぐ歌」はオペラ「アイーダ」を原作として2003年に初演、壮大なミュージカルナンバーが親しまれ宙組で再演もされた作品だが、何の前触れもなくビジュアルを一新。「アイーダ」同様の古代エジプトではなく、現代風の衣装を着た礼・舞空コンビのビジュアルが解禁されている。果たしてどんな舞台になるのか、ファンは期待と不安を持って初日を待っている。

   12月24日に発表が飛び込んできた宙組「HiGH&LOW」は2015~16年に日本テレビ系で放送されたドラマ「HiGH&LOW」シリーズの前日譚を描く。EXILE TRIBEが演じたHiGH&LOWの世界観がLDH JAPANと宝塚のコラボにより舞台化される。

   併せて宙組トップスター真風涼帆さん主演のライブ「FLY WITH ME」(6月10~12日東京ガーデンシアター)の上演も発表された。こちらにも演出面でLDH JAPANが歌劇団の野口幸作氏とともに演出に携わる。野口氏は過去に自身が演出したショーでGENERATIONS from EXILE TRIBEの「Hard Knock Days」を使ったことがあるが、男性的な「HiGH&LOW」の世界が宝塚の男役たちとコラボの上でどんな相乗効果を舞台にもたらすかが見どころだ。

   また、外箱公演では雪組「ODYSSEY」(東京国際フォーラム)、月組「Rain on Neptune」(舞浜アンフィシアター)と、ショー中心で構成された公演が発表済みだ。ショーだけの公演は花組柚香さん、星組礼さんも経験しており、ショーで通しの外部公演もトレンドとなっている。

   その他、「HiGH&LOW」以外の大劇場公演に目を向けると宙組「NEVER SAY GOODBYE」、星組「めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人」、月組「グレート・ギャツビー」はいずれもその組やトップスターにゆかりのある演目の再演・リメイクとなる。

   「NEVER SAY GOODBYE」は現トップ真風さんの初舞台公演(06年)で、「めぐり会いは再び」は当時若手スターだった礼さんが13年に同作で演じたルーチェを主人公としたスピンオフ作品になる。「グレート・ギャツビー」は91年に雪組で初演、08年に月組で再演されており、4度目の上演になる22年は両組に在籍した月城さんが主演する。

   雪組と月組でトップコンビが交代し、花組の瀬戸さん・華さん、星組の愛月さん、そして男役を極めた専科の轟悠さんといったスターたちの退団もあったが、再来年の2024年に迎える創立110周年に向け、着実にエンタメを供給してくれている。

【J-CASTニュース編集部 大宮 高史】