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タモリ「異例の沈黙」はなぜ称賛されたのか 背景に「視聴者の不満」識者が指摘

   タレントのタモリさんは2022年3月18日放送の報道特番「タモリステーション」(テレビ朝日系)に出演した。自身の冠番組でありながら番組中ほとんど言葉を発さず。それにもかかわらず、放送後にはネット上で称賛の声が相次いだ。

   識者は、ワイドショーなどで「的外れ」なコメントをする芸能人コメンテーターに不満を持つ視聴者にとって「沈黙を貫くタモリさんの態度はひときわ誠実なものに見えたのでしょう」と分析する。

  • 冠番組での「無言」が称賛集めたタモリさん(2015年撮影)
    冠番組での「無言」が称賛集めたタモリさん(2015年撮影)
  • 冠番組での「無言」が称賛集めたタモリさん(2015年撮影)

「チャンネル間違えたかと思った」

   「タモリステーション」はタモリさんをMCに据え、旬な話題を掘り下げる特別番組だ。22年1月28日に放送された第1回では、米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手を特集。タモリさんは少年時代の憧れだったという福岡ソフトバンクホークス・王貞治会長と共演し、積極的に質問をぶつけていた。

   3月18日放送の第2回では「~欧州とロシアの狭間で ウクライナ戦争の真実~」と題し、緊迫化するウクライナ情勢を特集。ロシアによる侵攻の背景やウクライナの現状を専門家の解説とともに、生放送で掘り下げるという触れ込みだった。

   太平洋戦争終戦直後の1945年8月22日に生まれたタモリさん。教養バラエティ「ブラタモリ」(NHK総合)では、毎回豊富な知識で専門家を驚かせているだけに、どんなことを語るのか注目されていた。

   しかし、タモリさんは番組冒頭であいさつを終え、ポーランドで取材する大越健介キャスターを「気をつけて取材してください」とねぎらった後、一切無言に。番組では現地ウクライナの映像や軍事の専門家による解説、各国からのリポートなどが放送されたものの、それにタモリさんが口をはさむことはなかった。

   約2時間の生放送が終わろうとしている頃、テレビ朝日・大下容子アナウンサーからコメントを求められると、タモリさんはようやく口を開いた。

「こうしている間も、大勢の人がウクライナで亡くなっているわけですね。というより、殺されているわけですから...色々ありますけど、一日も早く平和な日がウクライナに来ることを祈るだけですね」

   冠番組にもかかわらず、ほとんど口を開かなかったタモリさん。ツイッター上の視聴者からは「タモさん一言も喋ってない」「タモさんはなんでおるん?」「チャンネル間違えたかと思った」と困惑の声が聞かれていた。

東国原氏が絶賛「ある意味遺影の様だった」

   しかし、それ以上に目立っていたのが、「聞き役」に徹したタモリさんへの称賛だった。

「凄みを感じた」
「専門家の話を聞く事に徹した。そのわきまえた姿勢こそが素晴らしい」
「ただただ平和を願うだけ。それでいいんだ」

   ワイドショーにコメンテーターとして出演する機会も多い元宮崎県知事の東国原英夫氏は3月19日、ツイッターで「驚いた。タモリさんが何も喋らない。2時間生OAで、確か3カ所程で一言二言。ハシビロコウの様に動かず、ある意味遺影の様だった。しかし、その存在感は半端無く、『沈黙』が逆に『雄弁』を物語っていた」と評した。

   お笑い評論家のラリー遠田氏は3月23日、J-CASTニュースの取材に、「タモリの沈黙」が称賛を集めた理由をこう分析する。

「最近、芸能人がコメンテーターを務める番組が増えていて、社会問題や芸能ニュースについてコメントをしている光景をよく見かけるようになりました。そんな専門的な知識を持たない芸能人のコメンテーターが、訳知り顔で的外れなことを言ったりすることに対して、潜在的に不満を抱えている視聴者も増えているのかもしれません。そういう人たちにとっては、沈黙を貫くタモリさんの態度はひときわ誠実なものに見えたのでしょう」

「誰もが沈黙することを許されているわけではない」

   一方で、遠田氏は「しゃべらないだけなら誰でもできる」とし、「タモリさんがここまで絶賛されたのは、これまでの仕事ぶりによってタモリさんが多くの視聴者から揺るぎない信頼を得ていたからでしょう」と、タモリさんが築いた「信頼」が称賛を生んだ要因だったと分析する。

「『あのタモリさんがやっていることだから何か深い意味があるに違いない』と思われていること自体が、タモリさんの偉大さを表していると思います。この放送以来、すべての情報番組で芸能人コメンテーターが一斉に沈黙して、ウクライナ問題について何もしゃべらなくなった......などということは起こっていないのが何よりの証拠です。『タモリの沈黙』だから価値があるのであって、誰もが沈黙することを許されているわけではないのです」