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東大のサブウェイが急きょ閉店撤回 「学校のために」異例の決断の背景

   日本の最高学府・東京大学。「赤門」で有名な本郷キャンパス(東京都文京区)の中には、サンドイッチチェーンの「サブウェイ」が出店している。ローストビーフを大量に挟んだ限定メニューで人気だったが、オンライン授業の増加などコロナ禍の煽りを受け、客足が減少。2022年2月に閉店することが決まっていた。

   しかし、大学関係者などから閉店を惜しむ声が相次ぎ、一転して春から営業を継続することになった。J-CASTニュースは2022年3月22日、店長に思いを聞いた。

  • サブウェイ東京大学工学部2号館店の松村多輝子さん
    サブウェイ東京大学工学部2号館店の松村多輝子さん
  • サブウェイ東京大学工学部2号館店の松村多輝子さん

「学生のノリ」で生まれた名物メニュー

   「お店、やってるんですか?」――。取材中、店の前を通りがかった学生が、サブウェイの担当者に尋ねていた。春休み期間のため営業を休止していた3月下旬、取材に訪れたこの日は、特別に店の明かりを点けてもらっていた。

   しかし本来ならばもう、店に明かりが灯ることはなかったかもしれない。

   全国169店舗(22年3月30日時点)を展開するサブウェイ。うち9店舗が大学のキャンパスの中にある。その中の一店舗、東京大学工学部2号館店は2006年に開店。18年からは、都内で飲食店経営を手がけるサトリアーレ(東京都江戸川区)がフランチャイズ運営を行っている。

   工学部がある東大本郷キャンパスには、生協運営の食堂や「スターバックス」「ドトール」「タリーズ」といったカフェチェーン、明治36年創業の老舗洋食店「日比谷松本楼」など、様々な飲食店が出店している。野菜を使ったサンドイッチが売りのサブウェイには「健康志向」の学生が多くやってくると、店長の松村多輝子さんは語る。

   同店には名物メニューがある。ローストビーフを大量に挟んだ「デストロイヤー」シリーズだ。英語で「破壊者」を意味する、健康志向とは裏腹な印象のこのメニュー。どんな経緯で生まれたのだろうか。

ローストビーフを10枚挟んだ「デストロイヤー」(日本サブウェイ提供)
ローストビーフを10枚挟んだ「デストロイヤー」(日本サブウェイ提供)
「東京大学工学部2号館店ではスタンプカードを配布しており、スタンプがたまるとサンドイッチ1個が無料になるという特典がございます。当時スタンプがたまった一人の学生さんが来店し、一番高いローストビーフのサンドイッチを注文した上で、さらにローストビーフをトッピングしました。あまりのボリュームだったので、周りにいた人たちやスタッフも『これはすごい。名前をつけて販売しよう』と盛り上がり、限定メニューとして商品化することになりました」(日本サブウェイの広報担当者)

   「学生のノリ」をきっかけに生まれたデストロイヤー。最初はローストビーフ10枚の「デストロイヤー」だけだったが、その後15枚の「キングデストロイヤー」、20枚の「ゴッドデストロイヤー」、そして25枚の「インフィニートデストロイヤー」が登場した。その見た目のインパクトから、メディアにも頻繁に取り上げられている。

ローストビーフを25枚挟んだ「インフィニートデストロイヤー」(日本サブウェイ提供)
ローストビーフを25枚挟んだ「インフィニートデストロイヤー」(日本サブウェイ提供)

学生の足遠のいたコロナ禍、一時は閉店を決断

   店舗前の広場には椅子が置かれ、学生たちが談笑している。サブウェイに通っていたという工学部の学生は、J-CASTニュースの取材に「お店の目の前にあるオープンスペースでの学友との語らいは、大学の時間が多くない昨今において貴重な時間でした」と話す。

サブウェイ東京大学工学部2号館店。店の前は広場になっている。
サブウェイ東京大学工学部2号館店。店の前は広場になっている。
店に通い詰めた学生たちはやがてキャンパスを離れ、社会へ羽ばたいていく。「通常の店舗のように人目に付く場所ではないので、どちらかといえば『学校の一部』になっていますね。スタッフの年齢層が高いこともあり、ある意味、子供を見守るような感覚で、お客さんと接しているかもしれません」(松村店長)

   かつてはお昼時になると学生たちで賑わいを見せていたサブウェイだが、コロナ禍で状況が一変する。20年春からオンライン授業が始まり、学生の足がキャンパスから遠のいた。緊急事態宣言の発出もあり、長期休暇中の休業も合わせ、年に半分ほどしか営業できなくなった。

「昔のような活気がなくなってしまいました。店を開けていても、お客さんが来ない。2年経って、それに慣れてしまいました。今後どうなってしまうのだろう、これでやれるのか、続けていけるのか。自分たちではどうすることもできない状況が続いていました」

   こうした状況を鑑み、運営会社は営業の継続が難しいと判断。22年2月18日での閉店を決定し、今年1月初めに「閉店のお知らせ」を店の前に掲示した。「ずっと働いてきたお店がなくなるのは寂しくて、悲しいことでした。ただ、『営業はできないけど、お店はまだある』という状態が続くのも、それはそれで辛い部分がありました」(同上)

   閉店の張り紙はツイッター上で拡散され、店に思い入れのあるユーザーから「嘘でしょ!?!?そんな...」「悲しい」「サブウェイのない工学部なんて」などの声が集まった。当時、閉店の報を聞いた工学部の学生は、取材に「とても悲しかった」と振り返る一方で、「対面授業が少ない時世だったので、仕方ないとも思っていました」と運営方針に理解を示した。

「これからも利用」営業継続に学生安堵

   閉店決定後、松村店長は利用客から「毎日のお昼の場所がなくなるのは悲しいです」と言われたという。大学職員からは、閉店を惜しむ声がツイッター上で広がっていることを伝え聞いた。「自分の知らないところでも話題になっていたのには驚きました」

   各所から寄せられた閉店を惜しむ声。運営会社は、ある決断をする。

「閉店が決まったあと、いろいろなお声をいただきました。学内で店舗を経営しているという面はありますが、『学校のためにやっているお店』という側面もある。学生や職員さんなど色々な人にお昼ご飯を届けている、ということを重視しての決定でした」(松村店長)

   1月下旬、それまで掲示していた閉店のお知らせを剥がし、新たに「営業継続のお知らせ」を張り出した。

「『当店は2022年2月18日に閉店』と掲示しておりましたが、営業継続の見込みが立ちましたことをお知らせ致します。閉店のお知らせをしたにもかかわらず、継続のお知らせをすることになりお客様にはご心配、ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません。永年に渡るご愛顧に心から感謝を申し上げると共に、これからもお客様のご期待に添えるよう、スタッフ一同、日々精進して参ります」

   営業継続の知らせを聞いた工学部の学生は、取材に「嬉しかったです。これからも利用させていただきます」と話す。別の学生も「学校に行くモチベーションの一つになりました」と喜んだ。

   春休みの後、授業が始まる4月4日から営業を再開する。店長は「4月は一番学校が賑わう時期。せっかく学校に来られた人のためにも、存在意義のある店でありたいと思います。また私たちと一緒にお店を盛り上げたいというメンバーも募集しておりますので、ご興味のある方はお店までお問い合わせください」と意気込んだ。

サブウェイ東京大学工学部2号館店の松村多輝子店長
サブウェイ東京大学工学部2号館店の松村多輝子店長

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)