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ドライブ・マイ・カー濱口監督が実感した「日本映画の現実」 アメリカ人は「基本的に関心ない」

   第94回米アカデミー賞で日本映画として13年ぶりに国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」。2022年4月5日に濱口竜介監督・主演俳優の西島秀俊さん・プロデューサー山本晃久さんによる受賞記念会見が東京・千代田区の日本記者クラブで行われた。

   村上春樹さんの同名小説が原作の「ドライブ・マイ・カー」は日本をはじめ各国の俳優が出演し、様々な言語が飛び交う多言語映画でもある。俳優のセリフは字幕で各国の観客にも伝えられているが、濱口監督は日本では馴染みのこの「字幕」の習慣が海外でも広まってほしいと語った。

  • 左から山本晃久プロデューサー、濱口竜介監督、西島秀俊さん(写真:つのだよしお/アフロ)
    左から山本晃久プロデューサー、濱口竜介監督、西島秀俊さん(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 左から山本晃久プロデューサー、濱口竜介監督、西島秀俊さん(写真:つのだよしお/アフロ)

「字幕によってどれだけ多くの国の映画を楽しむことができているか」

   主人公の舞台演出家・家福悠介(西島秀俊さん)は妻を亡くした喪失感を抱えたまま、広島国際演劇祭での仕事で愛車のドライバー渡利みさき(三浦透子さん)と広島に向かう。

   広島で舞台「ワーニャ伯父さん」の演出を担当する家福だが、この劇の稽古場面は日本・韓国・フィリピン・台湾・ドイツなど各国から集まった俳優で演じられ、それぞれの母語で台詞が飛び交う。それらのセリフは、字幕で翻訳されて上映された。

   非英語圏で製作された映画が米国映画界で評価されるための「言語の壁」はあるか。これを聞かれた濱口監督は、

「今回、国際長編映画賞にノミネートされた『The Worst Person in the World』(邦題:わたしは最悪)のヨアキム・トリアー監督のチームとはとても楽しく交流ができたと思います。そのヨアキム・トリアー監督は、我々の映画は字幕の映画をこの国(米国)に届けるための仲間なんだと仰っていました。それは本当に素晴らしい考え方だなと思っています」

   と話し、続けて

「字幕が障壁になるということはアメリカでは前提としてよく言われたんですが、日本では字幕で映画を見るっていうのは全く普通のことだし、字幕によってどれだけ多くの国の映画を楽しむことができているかを考えると、壁っていうよりは橋のようなものだと思っています」
「字幕が役者さんの演技、特に声をちゃんと保存してくれて、役者さんの感情をすごく直接的に伝える。その補助をしてくれるという風に思っています。なので字幕の映画は本当にもっともっと広まってほしいし、そのために自分たちの映画を作り続けていきたいと思っています」

   と、字幕によって海外でも伝えていける表現が広がっていく可能性があることに言及した。

現代邦画には厳しい目線

   現地アメリカで感じた、日本映画への関心の度合いを聞かれた濱口監督は、「これははっきりと言わなくてはいけないと思いますけど」と前置きしつつ、現地で感じた日本映画への厳しい目線を話す。

「日本映画に対する関心は、現代に対しては基本的にないと思います、『素晴らしい日本映画沢山あったね』と語られることはとても沢山あるのですが、現代の日本映画が特にアメリカで知られているかというと、是枝(裕和)さんなんかは別ですけど、基本的にはそこまで現代の日本映画が注目されているとはいえない状況なんだなと実感しました」

   ただし、日本を含めたアジアへの関心はあるとして

「今回『ドライブ・マイ・カー』が選んでいただいたみたいにアジア映画全般に対する関心がどうも高まっているらしいということは現地の方たちからも聞いています。『イカゲーム』(註:2021年配信開始の韓国ドラマ)というNetflixのドラマのヒットもあって、アメリカの観客の目線は『今アジアに何か面白いものがあるんじゃないだろうか』という目線で探しているんだ、というところはありました。
しかしそれが特に日本に向かっているわけではないと思うのですが、ぜひ観客の好奇心をうち貫くような作品が出てくることを願っています。目線は向けられている。あとはその目線に応える作品があるかということだと思います」

   と今後に期待を寄せて会見を終えた。