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「和菓子離れ」の時代にコラボ殺到 仙台銘菓・喜久福が貫く「こだわり」

   「和菓子離れ」が叫ばれる昨今。そんな状況にあって、強い存在感を放つスイーツがある。お茶の井ヶ田(仙台市)の「喜久福」だ。抹茶生クリームやずんだなどの餡を包んだ大福で、1998年の発売以来、仙台土産や「お取り寄せグルメ」として支持を得てきた。

   最近では人気アニメに登場し、有名お菓子とのコラボ商品も開発されるなど、全国的な知名度も高まっている。企業からのコラボ依頼が殺到する仙台銘菓のこだわりとは。

  • お茶の井ヶ田のお菓子「喜久福」。抹茶、生クリーム、ずんだ、ほうじ茶の4種類を販売している(お茶の井ヶ田提供)
    お茶の井ヶ田のお菓子「喜久福」。抹茶、生クリーム、ずんだ、ほうじ茶の4種類を販売している(お茶の井ヶ田提供)
  • お茶の井ヶ田のお菓子「喜久福」。抹茶、生クリーム、ずんだ、ほうじ茶の4種類を販売している(お茶の井ヶ田提供)

「お茶離れ」きっかけに開発

   喜久福はあんこや生クリームなどの餡を、宮城県産のもち米「みやこがね」使用の餅で包んだお菓子。柔らかな口当たりと、優しい甘さが特徴だ。味は「抹茶生クリーム」、「ずんだ生クリーム」、「生クリーム」、「ほうじ茶生クリーム」の4種類で、季節限定でチョコやイチゴなどの味も登場する。

   販売するお茶の井ヶ田は1920年創業の老舗お茶店で、宮城県内を中心に販売店「喜久水庵」など50店舗を構える。喜久福を発売したのは98年。主力製品であるお茶の消費量が低迷する中、「食べるお茶」をコンセプトに開発された。当時の開発経緯について、お茶の井ヶ田店舗開発部マーケティングチームの藤野敦さんは5月24日の取材に、こう説明する。

「96年に『抹茶の大福』を販売したものの、表面にまぶした抹茶が光や熱で変色し、売れ行きは今ひとつでした。そこで、生産工場のスタッフが抹茶のクリームを大福の中に入れるアイディアを発案し、『喜久福』が誕生しました」

   和と洋の要素を併せ持った「新感覚スイーツ」として、販売開始直後から口コミで評判が広まり、地元住民の支持を獲得。2000年代以降はメディアで「仙台名物」「お取り寄せグルメ」として取り上げられ、全国的にも知られるようになった。

   通常販売している4種類の中で、不動の人気一位は「抹茶」。しかし、最近は仙台名物でもある「ずんだ」の人気が高まっているという。「『ずんだシェイク』が注目を集めるなど、ずんだというものが全国的に認知されるようになってからは、シェアが上がってきています」(藤野さん)

「呪術廻戦」に登場で反響

   仙台ローカルからその名が全国に広まった喜久福。さらに認知度を高めたのが、人気作品「呪術廻戦」(原作:芥見下々さん)への登場だ。

   週刊少年ジャンプ2018年15号(集英社、18年3月12日発売)掲載の原作第2話「秘匿死刑」で、呪術高専の教師・五条悟が買ってきた仙台土産として描かれた。このとき、五条がおすすめしていたのは「ずんだ生クリーム」だった。

   当時、お茶の井ヶ田の社内では「うちの商品が載っている!」と話題になったという。集英社に感謝の手紙を送ると、18年7月発売のコミックス第1巻では、芥見さんが手紙と喜久福の現物を受け取ったことを報告している。

   その後も作品との関係は続き、20年10月からのテレビアニメ放送開始に合わせてコラボ商品を発売。アニメ第2話にも喜久福が登場した。21年12月の映画化の際には、再びコラボ商品を販売している。

「コラボにあたっての戦略は、基本的にはありません。もともと我々も、自分たちから『作品に描いてください』と芥見先生にお願いしたわけではなく、あくまでも芥見先生ご自身が描いてくださったという経緯があります。ですので、基本的には我々から『こういうことをやりたい』『ああいうことをやりたい』というのは一切言っていません。版権元の企業さんから『こういうのやってもらえませんか?』というオーダーをいただいて、ファンの方に喜んでもらえるなら、一緒にやらせてくださいというスタンスでやってきました。今後もそういうお声がけをいただけるのであれば、(コラボは)続くと思います」(藤野さん)

企業からコラボ依頼殺到も...譲れぬ「こだわり」

   人気作品への露出で知名度が上昇する中、今年3月には「チロルチョコ」とコラボした「チロルチョコ<喜久福抹茶生もち大福>」、5月にはロッテのアイス「雪見だいふく」とコラボした「喜久水庵監修 雪見だいふく×喜久福」が相次いで発売された。いずれも相手企業からの熱心なアプローチにより、実現したコラボだった。

ロッテとコラボした「喜久水庵監修 雪見だいふく×喜久福」(ニュースリリースより)
ロッテとコラボした「喜久水庵監修 雪見だいふく×喜久福」(ニュースリリースより)

   特に、雪見だいふくとの「大福コラボ」は発表後からネット上で話題に。5月17日の発売開始直後は、販売店の冷凍庫がすぐに空になるほどの売れ行きだったという。「雪見だいふく自体も多くのファンがある商品。我々は『おんぶにだっこ』のような状況ですが、地元のお客様に「喜久福が雪見だいふくになった!』と喜んでくださっているのが何よりもうれしいですね」(藤野さん)

   実は2商品の他にも、コラボの依頼が各社から寄せられているという。しかし、商品化については慎重に判断している、と藤野さんは話す。

「コラボ商品は盛り上がるので面白いですが、商品イメージを植え付けてしまうところもあります。世の中には喜久福を食べたことがない方がまだまだ多いと思いますし、そういった方が、もし先にコラボ商品を召し上がって、あまり美味しくなかった場合に『じゃあ喜久福も期待できないな』となってしまうと良くない。そういった意味で、コラボは慎重に取り組んでいかなければいけないと思っています」
チロルチョコとコラボした「チロルチョコ<喜久福抹茶生もち大福>」(ニュースリリースより)
チロルチョコとコラボした「チロルチョコ<喜久福抹茶生もち大福>」(ニュースリリースより)

   今回コラボしたチロルチョコは、餅風味のチョコで小倉風味ペーストと抹茶チョコ、生餅を包んでいる。雪見だいふくも、餅で抹茶アイスとこしあんを包んでいる。いずれも喜久福の「抹茶生クリーム」をイメージさせる商品だ。「喜久福の要素をきちんと体現できるようなコラボだったらやっていこう、というルールを今は定めているところです」

4月からは「のむ喜久福」も登場

   昨今、お菓子業界では「和菓子離れ」が叫ばれている。総務省統計局の家計調査によると、1世帯あたりの和生菓子(ようかん、饅頭、その他和生菓子)への年間支出額は、07年に1万543円だったのが、21年には8602円まで減少している。

   21年2月には「宝まんぢゅう」で知られた創業66年の宝万頭本舗(仙台市)が自己破産。22年5月16日には「相国最中」などで知られる創業74年の紀の国屋(東京都武蔵村山市)が廃業したばかりだ。(その後、スイーツ販売を手がける企業が紀の国屋の元従業員を雇い、新ブランド「匠紀の国屋」を立ち上げたことを発表している)

   和と洋の要素を混ぜ合わせ、ロングセラー商品になった喜久福。藤野さんは「古くからある商品はとっつきにくかったりする。今風にアレンジすることで、まだまだ伸びていくのでは」とし、和菓子が生き残るためには「変化が必要」だと話す。

   実際に、喜久福も「変化」を続けている。今年4月から一部店舗で販売をはじめたのは、その名も「のむ喜久福」。「お茶離れ」を機に「食べるお茶」として開発された喜久福が、再び「飲む」に戻ってきたのだ。喜久福の抹茶生クリーム味をほうふつとさせるドリンクで、「飲んだ瞬間に『喜久福!!』と感じていただけるような飲み心地を目指した」という。

「のむ喜久福」の販売ポスター。公式サイトでは「飲み心地や味わいはお客様のご想像にお任せさせていただきます」と意味深に紹介されている(お茶の井ヶ田提供)
「のむ喜久福」の販売ポスター。公式サイトでは「飲み心地や味わいはお客様のご想像にお任せさせていただきます」と意味深に紹介されている(お茶の井ヶ田提供)

   藤野さんは喜久福の将来について「『あ、それ仙台のやつでしょ』ではなくて、『それおいしいやつだよね』と言われるような、みんなが知っているお菓子になればいいなと考えています」と語る。「仙台土産」が「国民的お菓子」になる日は来るだろうか。

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)