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75歳で尊厳死容認、カンヌ受賞の話題作「PLAN 75」 早川監督が込めた「希望のようなもの」

   第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)の次点に当たる特別表彰を受けた「PLAN 75」(プラン 75)の試写会が2022年6月7日に東京・丸の内の日本外国特派員協会で開かれ、早川千絵監督らが記者会見した。

   作品名の「プラン 75」は、超高齢化社会を背景に、75歳以上の人に対して政府が生死の選択権を与える制度。倍賞千恵子さん演じる主人公が経済的にも困窮し、制度を利用して死を選ぶか葛藤する様子を描く。脚本を作成する間に世界はコロナ禍に突入し、「さらに人々の不安を煽るような映画を今作るべきなんだろうか」という思いを抱く中で製作が進んだ。そんな状況でも「何か希望のようなもの」を込めた作品だ。

  • 日本外国特派員協会で会見する「プラン 75」の早川千絵監督
    日本外国特派員協会で会見する「プラン 75」の早川千絵監督
  • 日本外国特派員協会で会見する「プラン 75」の早川千絵監督
  • 水野詠子プロデューサー
  • ステファニー・アリアンさん。作品では「プラン 75」関連施設で働く役柄だ
  • 作品は6月17日から新宿ピカデリーなどで上映が始まる
  • 「プラン 75」の一場面。倍賞千恵子さん演じる主人公が経済的にも困窮し、制度を利用して死を選ぶか葛藤する様子を描く。 (c)2022「PLAN 75」製作委員会 /Urban Factory/Fusee

「この映画は安楽死・尊厳死の是非を問う映画ではない」

   今作品は早川監督にとって長編デビュー作で、脚本も担当。是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」(18年)のうちの1本を長編化した。早川監督によると、

「短編のときは問題提起をすることまではできたが、それ以上に、長編にしたときに問題提起をするだけでは足りないのではないか、ということで、その点で脚本を作るのを、とても悩んだ」

といい、脚本の作成に約3年を費やした。その間に世界はコロナ禍に突入し、「現実はフィクションを超えてしまったな」という思いも抱いた。そんな中で作品の着地点を模索した。

「すでに世界中でこんなに厳しい状況が続いている中で、さらに人々の不安を煽るような映画を今作るべきなんだろうか、というので、とても悩んだ。ただ、その中で、この長編で、何を言うべきか、どんどんテーマをそぎ落としていって、やはりここに何か希望のようなもの、私たちがどのようにこれからの社会を望むか、という願いのようなものを込める必要があるな、というのに気付いて、今の形になった」

   記者から、行政ではなく高齢者の側から自発的に希望する「85歳の尊厳死」の是非について問われた早川監督は「この映画は安楽死・尊厳死の是非を問う映画ではない」。この点について「見た方は伝わってらっしゃるかなと思うのですけれども...」とも付け加え、「人が死に対してどういう姿勢で臨むかというのは、本当に個人的なもので、他人が何か言えることではないと思う」などと話した。

「生きていること自体が尊い」「全ての生命を全肯定したい」

   水野詠子プロデューサーは、

「生きていること自体が尊いということを前面に、メッセージとしてお伝えしたかった」
「何か誰かが、人の命に線引きをするということ自体がおかしいのではないかとことを考えつつ、全ての生命ということを全肯定したいという思い」

などと説明した。

   作品には、「プラン 75」関連施設で働くフィリピン人女性も登場する。早川監督は、その意図を「日本を外国の方から見た視点を入れたかった」と説明。フィリピン人コミュニティーの「困っている人がいたらすぐに助ける精神、思いやりの精神」が今の日本では失われているとして、

「それと対照的に描くために、フィリピンから来ている介護士の方と、日本にあるフィリピン人のコミュニティーを描くことは、本当に大事なこの映画の要素だった」

と話した。

   施設で働く女性を演じたステファニー・アリアンさんは、

「監督がすごくフィリピン人の描写や、ひとりの人間としての描写についてリアリティーを持たせるということに、とてもこだわってくださったのが、すごくうれしかった」

と笑顔を見せた。上映は6月17日から新宿ピカデリーなどで始まる。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)