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SNS普及で「恋愛のハードル」上がった? 識者が見た「20代男性の4割がデート未経験」の原因

   20代独身男性の約4割がデートをしたことがない――。内閣府の「令和4年版男女共同参画白書」で発表された調査結果が、「若者の恋愛離れ」を示すものだとして、大きな話題となった。

   この調査結果から見えてくるものは何か。若者の恋愛をテーマにした著書を持つ社会学者の大森美佐・東京家政大学助教に話を聞いた。

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  • 20代女性の約5割、20代男性の約7割が「配偶者・恋人はいない」 と回答(「令和4年版男女共同参画白書」 より)

20代男性の7割が「配偶者・恋人いない」

   2022年6月14日に内閣府が公表した「令和4年版男女共同参画白書」によれば、20代独身男性の約40%、30代独身男性の約35%が、中学卒業以降にデートの経験をしたことがないという。また、20代女性の約5割、20代男性の約7割が、「配偶者・恋人はいない」と回答している。

   この調査結果をめぐって、ツイッター上では、若者がデートや恋愛をしない理由について、大きな議論が巻き起こった。

   収入が少ないなどの経済力の低下を指摘する声が相次いだり、1人でも充実した時間を作ることができるといった恋愛に対する価値観の変化を指摘したりする声などが上がっていた。

   話題は多くのメディアでも取り上げられた。そのうち中国新聞は7月7日にウェブ配信した記事で、「結婚はぜいたく品」「恋愛は面倒」などと話す若者への取材を通じて、その恋愛観を探っていた。

   調査結果はなぜ注目を集めたのか。22年2月20日に『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか』を上梓した大森氏は7月19日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように答えた。

「それは長期に続く超少子化問題が背景にあると考えます。欧州諸国では、非嫡出子の割合が過半数を超える国もある一方で、日本ではいまだに『恋愛→結婚→出産』という嫡出規範が根強く、若者たちに恋愛してもらわなければ、結婚もしないし、出生数も増えないという危機感があります。そのような危機感も世間を賑わす要因になっているのではないかと考えます」

   今回の白書に限らず、これまでも国立社会保障・人口問題研究所による独身者調査などをはじめとした調査報告書が出るたびに、メディアを通して「若者の恋愛離れ」が大きく取り上げられて話題となる風潮は2000年代以降ずっと続いているのだという。

   しかし、若者の恋愛のあり方に対する世間の反応にはバラツキがあるのではないかと、大森氏は指摘する。

「特に、80年代・90年代の恋愛至上主義の時代を生きた世代からすれば、『恋愛しないなんて信じられない』『今の若者は大丈夫だろうか』と驚き、注目を集めるでしょうが、若者たちからすれば、『恋人がいないのは自分だけではないんだ』と安堵感を覚えるのではないかと思います」

「コミュニケーションのあり様の変化」

   2000年代以降、繰り返しメディアで取り沙汰されているという「若者の恋愛離れ」。

   大森氏は、経済力の低下や恋愛・結婚に対する意識の変化のほかに「コミュニケーションのあり様の変化」を、その要因の一つに挙げている。

「コミュニケーションツールの発展やSNSの普及によって、私たちの生活は便利さと豊かさを享受するようになりましたが、一方で、コミュニケーションが過密になりすぎ、人間関係が四六時中監視されるような社会にもなりました。さらに、対人関係においては、『社会的』であること(互いに空気を読み合い、傷つけ合わない優しい関係を築くこと)が求められ、高度なコミュニケーション能力が求められています。未婚化や交際経験のない若者の増加について、『対人関係能力の低下』についても問題視されますが、私自身の見解としてはむしろ逆で、『社会的でありすぎることによって、社会から撤退する』というパラドックスが、恋愛関係にも起きているのではないかと考えます」

   「社会的でありすぎることによって、社会から撤退する」――。空気が読めて、コミュニケーション能力が高い人でも、同性/異性同士の友人関係を大切にするからこそ、「デート」に発展しにくいという若者たちも多くいるのではないかと、大森氏は述べる。

「また、日本ではジェンダーによる役割期待から依然として男性から女性にアプローチすることが求められます。若者のコミュニケーション特性と重ね合わせて考えてみても、特に日本の男性にとって、友人という境界線を超えて、アプローチすることは超えるべきハードルが高いのだろうと思います」

調査で見えた「『コスパ』重視の恋愛観」

   比較的社会的資源に恵まれた高学歴・正規雇用者の20代男女を対象に行った大森氏のインタビュー調査でも、恋愛が面倒だという意見や、「コスパ」重視の恋愛観が見られたという。

「『コスパ』というのは、デートにかかる費用だけではなく、時間や相手にかける精神的なコミットメントなどさまざまな要素が含まれます。経済成長が停滞し、生活が苦しくなる中で、時間もお金も、精神的な余裕も有限であるからこそ、生活に直接的には影響しない恋愛の優先順位が低くなるのは当然の意識だろうと思います」

   経済力が低下する中で恋愛の優先順位が下がることは当然であるとしつつも、2015年に行われた国立社会保障・人口問題研究所の第15回出生動向基本調査で、「結婚」が持つ意味は依然として大きく、愛情や精神的な充足よりも生殖(子どもをもつこと)に価値を置く傾向が高まっていることが明らかになったという調査結果を踏まえ、大森氏は次のように述べた。

「恋愛を面倒なものとする若者たちでも、時間的経過とともに、自身の結婚適齢期(子どもを持つ時期)に合せて恋愛市場へと回帰する様子も調査では確認できました。しかし、経済的な余裕がない若者にとっては、そうした依然として変わらない結婚観、そして結婚と恋愛、さらには生殖の位置付けによって、結婚のみならず、恋愛のハードルをますます高めているのではないかと考えます」