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愛媛の老舗麦味噌店が「味噌と名乗れなくなりそう」と悲鳴 保健所から突如指導...一体何があったのか

   愛媛県宇和島市内の老舗の麦味噌メーカーが、保健所の指導を受けて、味噌と名乗れない見通しになったとツイッターで明かし、県に伝統文化の存続を求める要望書を提出した。

   大豆を原材料に含めないと味噌と表示できないというのがその理由だ。なぜ麦だけだと味噌と名乗れないのだろうか。

  • 井伊商店の公式サイト
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「『宇和島麦みそ』文化の存続」と題した要望書を愛媛県に提出

   このメーカーは、1958年(昭和33年)に創業した「井伊商店」だ。

   「当店の麦味噌が『味噌』と名乗れなくなりそうです」。井伊商店の井伊友博さんは2022年10月26日、ツイッターでこう切り出した。創業当時から製法は変えていないにもかかわらず、8月末に保健所などの職員が来て、指導の文書を手渡されたとした。

   井伊さんは、「納得出来なかった」として、同様な指導を受けた他の2メーカーとともに、愛媛県に対して、「『宇和島麦みそ』文化の存続」と題した要望書を25日付で提出したことを明らかにした。

   要望書の画像も投稿しており、それによると、県の宇和島保健所の職員らが8月25日に来て、「原材料に大豆を含まない麦味噌は、麦味噌と表示できません」「パッケージにも『味噌』の二文字は使用できません」と言われたという。これに対し、創業時から麦と塩だけの味噌を作っており、味噌と名乗れないことに大変困惑しているとし、伝統製法が消えて客も混乱するため、麦味噌を地域の特産品として残してほしいと訴えている。

   この投稿は、3万件以上リツイートされる反響を集めており、激励の声も含めて様々な意見が寄せられている。

   味噌については、海外の発酵食品との差別化のため、日本農林規格(JAS)の中に、食品表示法に基づく「食品表示基準」と同じ作り方による規定が3月末に新たに定められた。このことから、JASに規定された影響ではないかとの見方も出た。

今回初めて指導に「気づかなかったとしか言いようがない」

   食品表示基準では、「みそ」について、第2条の別表3で、「大豆若しくは大豆及び米、麦等の穀類を蒸煮したものに、米、麦等の穀類を蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたもの」などとなっている。「麦みそ」についての記述もあり、「大豆を蒸煮したものに、大麦又ははだか麦を蒸煮してこうじ菌を培養したもの」などとしている。

   今回の指導について、宇和島保健所の生活衛生課は10月27日、J-CASTニュースの取材に対し、食品表示法違反のほか、景品表示法違反(優良誤認)に基づくものだと説明した。

「味噌は、大豆を使わないと名乗れないと食品表示基準に決まっています。7月25日に行った食品収去検査で、味噌の表示事項を調べていて違反が分かりました。JASの規定とは関係ありません」

   前出の要望書にあった3業者のほか、宇和島市内などの2業者にも、食品表示法などに基づく指導を行ったとした。ただ、3業者のうち1業者は、「麦味噌風発酵調味料」とうたっており、これは食品表示法違反にはならないとした。

   なぜこれまで指導していなかったのかについては、「それは分かりません。気づかなかったとしか言いようがありません」と述べるに留まった。

   なぜ大豆を使っていないと麦味噌と表示できないかについて、消費者庁の食品表示企画課は10月27日、次のように取材に説明した。

消費者庁は、「麦味噌でなく味噌なら、大豆なしでも表示可能」

「食品表示基準が作られた昭和時代は、農水省が担当でしたので、調べないと分かりませんが、味噌が伝統的に大豆を基本としていたからだと思います」

   ただ、味噌の表示については、「色々な味噌が地方にあって全部網羅することは無理ですので、名称の規制はかかっていません。大豆を使っていなくても、味噌と名乗ることはできます」と答えた。

   景品表示法について5業者を指導した愛媛県南予地方局の総務県民課は10月27日、取材に対し、「麦味噌風発酵調味料」と表示した業者について、パッケージの表には「味噌」と表示してあったので、景品表示法違反としたと説明した。消費者庁が大豆を使わなくても味噌と名乗れるとしたことについては、「そのことは知りませんでしたので、コメントできないです」と答えるに留まった。

   井伊商店の井伊友博さんは同日、取材に次のように話した。

「これまで指導があれば改善していましたが、何も言われないまま今に至っています。今回、保健所が突然来て、びっくりしており、どうしようかと考えています。要望書を出した愛媛県から電話が来て、法律に従うので裁量の余地がないとのことでした。パッケージを変えれば、お客様も戸惑うのではないかと思い、何かがおかしい気がしますが、11月11日までの期限に改善報告書を出すようします。しかし、食文化を残していただきたいので、これからも動いていきます。報告書を出すまでには、何らかの結論を出したいと考えています」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)