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W杯日本代表にも使われた「戦犯」 元の意味と異なるが...一体いつから?専門家に聞く用法の拡大

   サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で日本代表が2022年12月6日未明(日本時間)の決勝トーナメント1回戦・クロアチア戦に敗れると、ツイッターでは特定の選手名をあげながら「戦犯」と指摘する声が相次いだ。

   ここでの「戦犯」とは、広辞苑第7版で「戦争犯罪人の略」と定義されているような本来の意味ではもちろんなく、「負けた原因を作った人」という意味で使われているのが特徴だ。果たしていつから、こうした使われ方をするようになったのか。

  • 12月6日のクロアチア戦で日本代表は敗れ、決勝トーナメント敗退となった(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)
    12月6日のクロアチア戦で日本代表は敗れ、決勝トーナメント敗退となった(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)
  • 12月6日のクロアチア戦で日本代表は敗れ、決勝トーナメント敗退となった(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

メディアにも登場する「戦犯」の言葉

   このような「戦犯」の使われ方はツイッターにおける個人的な情報発信に留まらない。6日3時台にはサッカーメディア「FOOTBALL TRIBE」が「三笘薫ら戦犯扱いに反発噴出『PK下手と批判やめろ』クロアチア戦黒星も健闘」との見出しで試合を報じたほか、4時台には「東京スポーツ」が「【FIFAワールドカップ】日本代表MF南野拓実(モナコ)は〝戦犯〟なのか――」の一文で始まる記事を配信し、クオーテーションマーク付きながら「戦犯」という言葉を使用した。

   同様の使われ方は、11月27日に行われたグループステージの日本対コスタリカで日本が敗戦した際にもよく見られた。メディアでも「PRESIDENT ONLINE」が、「勝てば『日本万歳』、負けると『戦犯叩き』...W杯で『にわかサッカーファン』が大量発生するメカニズム」とのタイトルで記事を配信したほか、野球解説者のG.G.佐藤さんが「日本代表の誇りを胸に戦っている選手に戦犯という言葉を使わないであげて」とツイートして拡散されるなど、「戦犯」という言葉が多用された。

   本来とは違う意味で、スポーツの試合に負けた際に盛んに使われる「戦犯」だが、果たしていつからそのような使われ方をするようになったのか。J-CASTニュース編集部は「三省堂国語辞典」の編集委員として知られる日本語学者の飯間浩明氏に意見を聞いた。

「スポーツで『戦犯』と言うことは十数年前から把握しておりました」

   まず、飯間氏は「戦犯」の用例について以下のように解説した。

「スポーツで負けた原因を作った人を『戦犯』と呼ぶことは多いですが、私の携わる『三省堂国語辞典』では2014年の第7版からこの意味を載せています。さらにその前、2008年の第6版では、『A級』という項目に『チーム敗北のA級戦犯』という例を入れています。ですから、スポーツで『戦犯』と言うことは十数年前から把握していたわけです」

   飯間氏はそのような用法は2000年以前から存在したと指摘しつつ、用法はスポーツに留まらないと指摘する。

「20世紀の文献を見てみましょう。1997年の雑誌にはテロ事件を防げなかった責任者を『戦犯』、1988年の本にはカタカナ言葉を広めた百貨店が『戦犯ものです』と記されています。スポーツに限らず、責任者を非難して『戦犯』と言っていたんですね」

   飯間氏は本来の意味とは違う用法で使われ始めた時期について、次の見解を示した。

「過去の雑誌のデータベースを見ますと、1980年代に責任者の意味の『戦犯』はけっこう使われています。たとえば、『週刊サンケイ』1982年10月28日に〈『戦犯は誰だ!』 巨人主力選手の勤務評定〉という記事が出ています。このあたりが、私が確認できる中では古い例です。さらにずっと前の時代には、『戦犯』は『戦争犯罪人』という元の意味の印象が強く、『敗北・失敗の責任者』という意味では使いにくかったのではないでしょうか」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)