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令和に「駅の伝言板」設置続々 平成には「いたずら書き」「通行の妨げ」で迷惑モノ扱いも...なぜ再注目?

   かつて駅に設置されていた「伝言板」が、再び注目を集めている。実際にチョークで書き込める大型伝言板や、スマートフォンで入力したメッセージがデジタルボードに表示される「デジタル伝言板」など、首都圏の駅で復活するケースが相次いでいるのだ。

   かつては利用客の連絡手段や待ち合わせ場所として機能していた駅の伝言板だが、平成に入ると携帯電話などの普及を受け撤去が進んだ。いたずら書きの多さなどから迷惑モノ扱いされた時代もあったなか、なぜ今脚光を浴びているのか。

  • 駅の伝言板、令和になぜ復活相次ぐ?(PR TIMES提供)
    駅の伝言板、令和になぜ復活相次ぐ?(PR TIMES提供)
  • 駅の伝言板、令和になぜ復活相次ぐ?(PR TIMES提供)
  • 2022年~23年の年末年始、池袋駅に設置された伝言板(PR TIMES提供)
  • JR東日本の駅に設置されたデジタルボード「街あわせくん」は伝言板機能を備えている(ジェイアール東日本企画提供)

巨大伝言板に「なつかしい」「久々に見た」写真撮る人も

   「大切な人への思いを、伝言板に書いてみませんか」――。2022年〜23年の年末年始、東京・池袋駅構内に大型の伝言板が設置された。「両親へ いつもありがとう」「来年も元気に過ごそう」など、チョークで思い思いの言葉が記された。

   設置したのはプレスリリース配信サービスを運営するPR TIMES(東京都港区)。同社のプロジェクト担当者は23年1月6日、J-CASTニュースの取材に「訪れた人が懐かしさや物珍しさから立ち寄って参加いただけるように、そして、大切な人への思いを伝える手書きのメッセージの温もりを肌で感じられる場を作りたいと考えました」と設置理由を説明する。

   両親や恩師への感謝の言葉、友人への激励などのメッセージが多く寄せられ、設置した1週間で約1000人の書き込みがあった。通行人の中には写真を撮る人や「なつかしい」「久々に見た」と口にする人もいたという。

   同社は22年12月下旬から1月初旬まで、実際に寄せられた直筆のメッセージをデザインした「伝言板ポスター」も全国47都道府県の駅に掲示していた。担当者は手書きの伝言板について「メールや電話と比べて特定の誰かに向けて瞬時に届けることに適したツールとは言えない」としつつ、「手書きで届けるものだからこそ、その方の生の声を温度とともに伝えることができる」と魅力を語る。

コンサート告知、アイドル応援...「デジタル伝言板」には自由な投稿

   現代ならではの形で復活を遂げた伝言板もある。JR東日本グループの広告代理店・ジェイアール東日本企画(東京都渋谷区)は、22年9月1日からJR総武線の4駅(錦糸町、亀戸、小岩、市川)に、伝言板機能を備えたデジタルボード「街あわせくん」を設置している。

   スマートフォンやパソコンから専用サイトにアクセスし、駅を選んでメッセージを投稿すると、各駅の「街あわせくん」にメッセージが表示される仕組みだ。利用料は無料で、アカウント登録もいらない。「街あわせくん」は伝言板機能のほかに、有料の広告機能も備えている。

   同社の広報担当者は23年1月5日、取材に「リアルな駅空間で、同じ街に暮らす人々のメッセージ、想いが感じられ、市民に愛されるデジタルサイネージにしたいと考え(伝言板を)復活させました」と話す。サービス開始から約4か月で2000件を超えるメッセージが寄せられたという。

   投稿内容も様々で「市民コンサートの告知や推しアイドルへの応援メッセージ等、当初わたしたちが予想していなかった様々な方面でご活用・反響をいただいています」と説明する。J-CASTニュース記者が22年12月上旬に亀戸駅の「街あわせくん」を確認すると、サッカーW杯で躍進した日本代表を応援するメッセージが目立っていた。

   「街あわせくん」は23年3月末まで「実証実験期間」と位置づけ、その後は「実証実験期間のご利用状況・ニーズを鑑み、JR東日本の各駅への拡大を検討していく予定」とした。

末期は「九割が目的外の落書き」の駅も...姿消した伝言板

   かつては多くの駅に設置されていた伝言板。鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏は1月11日、J-CASTニュースの取材に伝言板が果たしてきた役割を次のように説明する。

「駅の伝言板は20世紀初頭、国鉄、私鉄の主要駅に設置が始まったと伝えられています。自動車交通の発達以前、人と貨物、荷物は鉄道駅を中心に回っていました。人やモノが集まり、各地へと向かっていく駅は、自然と情報の中心地にもなります。通信手段は手紙、電報くらいで電話すら普及していなかった当時、鉄道利用者が連絡を取る手段として、拠点となる駅に伝言板が置かれたのは自然な流れだったと言えるでしょう」

   駅の伝言板は連絡手段だけではなく、待ち合わせスポットとしても機能した。しかし、平成に入ると携帯電話が普及。いつどこにいても連絡を取り合えるようになると、伝言板の役割は奪われ、全国の駅から姿を消していった。そんな「末期」の状況について、枝久保氏は「伝言と関係ない書き込み、いたずら書きも多かったと言います」とする。

   実際に、1996年12月5日の読売新聞東京版の朝刊には「次々姿消す駅の伝言板 若者たちのいたずらの場 携帯電話の普及も一因」という記事が掲載された。営団地下鉄(現:東京メトロ)表参道駅では「三か所ある伝言板の内容は九割が目的外の落書き」だったという。新宿や池袋、渋谷といったJR東日本のターミナル駅では、通勤時間帯の通行の妨げになることなどを理由に、伝言板が撤去されたとした。

   末期は伝言とは関係ない書き込みが目立っていたことについて、枝久保氏は「伝言板が本来の『個人的なコミュニケーション手段』としての役割を失っていく中で、『公衆に向けたメッセージ(自己顕示欲の発露)』としての役割が注目された結果と言えるでしょう」との見解を示す。

   そして、今回伝言板を「復活」させた2社の取り組みからは、本来の「個人的なコミュニケーション手段」としての役割と、末期に注目された「公衆向けメッセージ」としての役割が、それぞれ見いだせるとする。

「PRTIMESが年末年始に実施した、実際の伝言板を池袋に設置するキャンペーンでは、『たったひとりの、あなたに届け。』をキャッチコピーとしているように、伝言板本来の『個人的メッセージ』を重視しています。一方、ジェイアール東日本企画(jeki)が昨年9月から展開する『デジタル掲示板』サービスは、伝言板ふうのデザインとしながら『公衆向けの宣伝』という位置づけです。鉄道事業者が『迷惑』と思っていた形のサービスが公式に提供されるのは興味深いところです」

   「昭和・平成レトロ」ブームとも言われる中、伝言板の価値が見直されているようだ。