J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「発禁処分を受けたと誤解される」 知られざる「不健全図書類」の実態...マンガ家ら改称熱望

   東京都条例によって指定される「不健全図書類」をめぐり、改称を希望する声がマンガ家たちを中心に上がっている。

   指定された図書類は、東京都内の18歳未満の青少年に対し販売や貸付けなどをすることを禁じられている。実際に自著が不健全図書に指定されたマンガ家は、18歳以上の成人への販路も激減するなど発売頒布禁止処分(発禁処分)に近い扱いを受けていると訴える。

   危機感を抱いたマンガ家のうち2人は2023年2月2日、東京都議会を訪問し、議員らに「『不健全な図書類』の改称に関する陳情」に賛同するよう呼びかけた。J-CASTニュースは、陳情の様子を取材した。

  • マンガ家の森川ジョージさん(左)、星崎レオさん(右)
    マンガ家の森川ジョージさん(左)、星崎レオさん(右)
  • マンガ家の森川ジョージさん(左)、星崎レオさん(右)
  • 陳情先にサインを贈る森川ジョージさん
  • 森川ジョージさんのサイン入り陳情書(大会派順)
  • 森川ジョージさんと鈴木純氏(自民党)
  • 左から和泉なおみ氏(日本共産党)、星崎レオさん、戸谷英津子氏(日本共産党)、森川ジョージさん
  • 陳情を受ける白戸太郎氏(都民ファーストの会)

「健全や不健全とは、何をもって定めているのでしょうか」

   不健全図書類は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に基づき、東京都健全育成審議会が青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると判断した際に指定される。前都議・栗下善行氏は22年12月12日、「『不健全な図書類』の呼称に関する陳情」を都議会に提出した。ちばてつやさん、福本伸之さん、真島ヒロさん、つくしあきひとさん、村田雄介さんら多くのマンガ家が賛同している。

   約30年にわたりマンガ「はじめの一歩」を連載し、日本漫画家協会の常務理事を務める人気マンガ家・森川ジョージさんも、この陳情に賛同したマンガ家の1人だ。2月9日の都議会文教委員会で陳情が審議されるのに先立ち、委員会に所属する各委員や会派に対し、次のように訴えて回った。

「健全や不健全とは、何をもって定めているのでしょうか。線引きの基準が分からないのに、『不健全』と指定されたマンガは売りにくくなってしまう。時代によって人々の考えも変わる。僕だってボクシングのマンガを描いていて、暴力的だと言われ指定される可能性もある」

   22年4月に自著が不健全な図書類に指定されたマンガ家・星崎レオさんも同席し、次のように陳情の趣旨を伝える。

「成人向け相当の内容であるなど誤解を与えない表現に変えてほしいです。『不健全』というおどろおどろしい呼称によって、発禁処分を受けたのではないかと誤解を受けています。指定されてからは、そのマンガがアマゾンでも取り扱われなくなりました」

   大手通販サイト・アマゾンでは成人向け作品をレーティングの上で販売可能だが、不健全図書類に指定された本は規約により出品が禁じられる。星崎さんは「不健全図書類」という名称が、取り扱いを忌避させているのではないかと推測する。

「マンガ家だけが不利益を被る制度である」

   大手コンビニチェーン各社では19年、相次いで成人誌の取り扱い停止を発表した。こうした状況を踏まえて、森川さんは次のような疑問を呈する。

「都としてはこの制度をどのように運用したいのか分かりません。おそらく子供たちに健全な本を読んでもらい、害のありそうな本を避けたいという思いからだと思いますが、実際にこれまで指定したマンガを子供たちが手に取っていたのでしょうか。子供たちにどのような影響を与えたのでしょうか。それは害だったのでしょうか」

   不健全図書類に指定される対象は書籍、雑誌、文書、図画、写真、ビデオテープなど多岐にわたるが、実際にはマンガへの指定に集中している。少なくとも過去5年度分の一覧を見ると、マンガ以外が指定された例はなく、森川さんは「マンガ家だけが不利益を被る制度である」と訴える。

   近年は女性向けに描かれたボーイズラブ(BL)作品が、「著しく性的感情を刺激し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」として、指定される傾向が続く。BL作品を多く手掛ける星崎さんは、偏りがあると感じている。

「女性が性的な漫画を読むことを是としていないように思います。女性に性表現を提供することも認めてほしいです」

   森川さんも「女性向け漫画のジャンルは多岐にわたり、関心も広がっています。そういったマンガを読んでいる人々に対する理解も必要なのではないか」と頷いた。

陳情を受けた都議の反応は

   取材中、森川さんと星崎さんは、自民党と日本共産党、都民ファーストの会の担当者に陳情を行った。

   自民党の鈴木純氏は、「個人としては陳情を断る理由がない」と話す。

「不健全図書類の指定については、これまであまり話題になってこなかったと思います。『不健全図書類』という名前が18歳以上への売り上げにも影響してしまうのであれば、見直しが必要だと感じます」

   日本共産党の和泉なおみ氏、戸谷英津子氏、藤野章子氏は、現段階で党としての方針は示せないとしながらも、約40分に渡ってマンガ家の声に耳を傾けた。都民ファーストの白戸太郎氏は、「時代錯誤な条例は一つ一つ見直していく必要がある」などと話した。

   星崎さんは、多くの党が陳情に対して好意的だったと手ごたえを述べた。取材後も、立憲民主党、ミライ会議、公明党を回ったという。

「立憲民主党は、迎えてくれた人数も多く、好意的に感じられました。阿部祐美子都議は役所との具体的な交渉の段階まで考えていらっしゃる様子でした。ミライ会議も好意的に感じられました。公明党は、面会自体は朗らかな空気感。趣旨は理解できるが、今回はご期待に添えないかも知れないという返答でした」

   陳情を受けた議員の間からは、広範にわたる都条例全てを把握することは難しいなどと前置きしたうえで、陳情を受けるまで不健全図書類を指定する制度やその実態について知らなかったといった声が多く上がった。

    取材に対し、「『不健全な図書類』の呼称に関する陳情」を発起した栗下前都議は、陳情を通して不健全図書指定の実態について広く知ってもらいたいと述べる。制度自体に注目を集め、内容についても再検討してほしいという。また他の都道府県でも不健全図書やそれに類する有害図書を指定する条例があるとして、この動きが全国的に広まってほしいと願った。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)