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那須川天心はボクサーとして成功できるか キックから転向の「強みと課題」を識者に聞いた

   キックボクシング界の「神童」こと那須川天心(帝拳、24)が、東京・後楽園ホールで行われたプロボクシングのB級(6回戦)プロテストに合格した。2023年4月8日に東京・有明アリーナでプロデビュー戦を予定しており、日本バンタム級4位・与那覇勇気(真正、32)とスーパーバンタム級6回戦を行う。

  • 那須川天心選手(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)
    那須川天心選手(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)
  • 那須川天心選手(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

「試合勘、相手との距離感は優位に働く」

   プロボクシングの長い歴史の中でキックボクシング(ムエタイ)から転向して世界王者となった例は数多くある。なかでもタイではムエタイ王者がボクシングに転向して成功を収めるケースが多く、プロ3戦目で世界王者になったツワモノもいる。

   日本では元K-1 WORLD GPスーパーバンタム級王者の武居由樹(大橋、26)がボクシングに転向し世界王者を目指している。22年8月には東洋太平洋スーパーバンタム級王座を獲得し世界ランクにも名を連ねている。ここまでプロ6戦全勝全KOと完璧なレコードを誇る。

   那須川は以前からプロボクシングのジムでスパーリングなど実戦的な練習を行っており、ボクシング関係者の評価は高い。一方の武居もプロ5戦目で東洋太平洋王座を獲得するなど次期世界王者候補に挙がっている。

   那須川、武居は新たな舞台で世界の頂点に立つことはできるのか。J-CASTニュース編集部はプロボクシングTMKジムの金平桂一郎会長(57)にキックボクシングからボクシングに転向した選手のメリットや課題を分析してもらった。

   金平会長は「キックボクシングからボクシングに転向するというのは昔からあり、決してレアケースではありません。成功例もありますが失敗した例もあります」と前置きし、ボクシングに転向する上でのメリットを解説した。

「蹴りがあるなしに関わらずリング慣れしていることですね。蹴りがないことで間合いが若干違うところがありますが、リング慣れというのは何物にも代えがたい財産だと思います。那須川、武居両選手に言えます。ボクシングはパンチだけなのである程度の調整が必要になってきますが、試合勘、相手との距離感は優位に働くと思います」

「練習のスタミナと実戦のスタミナは全く違う」

   さらに「アマチュアボクシング出身選手との違いは一概には言えないが、戦い慣れている点でいえば一緒です。ムエタイはムエタイのキックボクシングはキックボクシングの独特の間合いがあるが、ボクシングの間合いに早くアジャストできればチャンスも早く来る。ムエタイのケースで言えば、タイのジムはムエタイとボクシングを兼ねたジムが多いので、練習でボクサーとスパーリングをすることが日常的にありますから」と続けた。

   ムエタイ出身のセンサク・ムアンスリン(タイ)はプロ3戦目でWBC世界スーパーライト級王座を獲得し、世界王座獲得の史上最短記録を作った。辰吉丈一郎(大阪帝拳)、西岡利晃(帝拳)、長谷川穂積(真正)らと拳を交え日本でも人気のあったウィラポン(タイ)は、ムエタイ王者からボクシングに転向しプロ4戦目で世界王座を獲得している。

   金平会長はキックボクシングなど異種格闘技の選手がボクシングに転向するにあたり「転向前にいかにボクシングの練習をしてきたかというのが大きな要素」とし、「近年は垣根が低くなりキックボクシングの選手たちがボクシングのジムに普通に行って練習をしています。我々の業界がウエルカムになっていますし、選手は相当アジャストしやすくなっている。環境の変化は大きいと思います」と解説した。

   一方、課題としてラウンドが増えることによるスタミナを挙げた。3ラウンドが主流のキックボクシングに対してボクシングは4ラウンドからスタートし戦績が上がるごとに6ラウンド、8ラウンド、10ラウンドと増えていく。東洋太平洋、世界タイトル戦は12ラウンドで行われる。

   金平会長は「ボクシングとはラウンド数が圧倒的に違います。練習でスパーリングを何ラウンドやろうとも試合とは異なる。練習のスタミナと実戦のスタミナは全く違いますから。実際の試合ではヘッドギアもないしグローブも小さくなるので打たれれば効きます。緊張感も違う。アマチュアで実績を残した選手がプロのリングで大成しなかったケースもあります。スタミナと経験値。これがひとつの課題になると思います」と説明した。

   スポーツ紙などの報道によると、那須川が所属する帝拳ジムの本田明彦会長(75)は、1年以内に日本タイトルを取れると自信を見せているという。