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手足3本失った僕が思う「障害者の就活の難しさ」 情報隠さずオープンに...当事者が企業に望むこと

   20歳の時に事故で右手と両足を失った山田千紘さん(31)は2023年1月、東京都内で開催された障害者と企業のマッチング支援イベントに足を運んだ。自身も障害者になった後の就職で苦労し、転職した経験がある。イベントを経て改めて思ったのは、「障害者雇用の実例」を知ることの大切さだった。山田さんが語る。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • フルタイムで仕事をしている山田千紘さん
    フルタイムで仕事をしている山田千紘さん
  • フルタイムで仕事をしている山田千紘さん
  • 山田千紘さんは「TOKYO 障害者マッチング応援フェスタ」を訪れた

障害当事者としてすごく有意義だった

   東京都などが主催した、障害者と企業のマッチングを支援する「TOKYO 障害者マッチング応援フェスタ」へ1月末に行きました。僕自身がいま就職活動をしているわけではないけど、障害の当事者として学びの機会になると思ったのが大きな理由です。

   就職相談ブースや、講演、セミナー、各種支援策の紹介など様々な形で情報提供していました。僕は参加していないけど、多くの企業が出展した就職面接会もありました。障害の種類や程度によっては難しい仕事もある中で、いろんな働き方のバリエーションが示されており、求人票だけでは分からない情報がたくさんありました。

   障害当事者としてすごく有意義でした。僕がこのイベントの存在をインスタグラムやツイッターで共有したら「名古屋でもあったらいいな」「仕事で行けないけど、うらやましい」とか、参加を希望する声が届きました。現地への移動が難しいためリモートで参加するという人もいました。取り組みが全国に広がればいいなと思います。

   いま仕事をしている障害者の中でも「自分に合っている仕事って何なんだろう?」と模索している人はいるはず。そういう人も、こうした場所で新しい情報を得ることで、選択肢が広がっていくと思います。

障害のある人がどういう働き方をしているか、情報がなかった就活

   以前この連載でも話しましたが、僕自身が手足を3本失った後に就職活動して、最初に入った会社は障害者雇用枠での採用でした。入社前、実際に会社で障害のある人がどういう働き方をしているかという情報は得られませんでした。障害のある自分が入社して、どういうキャリアを歩んでいけるのか、分からない状態で入社しました。

   働き始めると、同期とは違うレールに乗っていて疎外感がありました。成長が期待されていないのかなと違和感を抱き、転職を決めました。

   転職して入った今の会社では、すごく働きやすい環境を提供してもらっています。会社に感謝しているし、働きがいも湧きます。そんな経験もあるから、入社前、応募するかどうかを決める入口の段階で、「どんな障害者がどんな働き方をしているか」を知ることはとても大事だと思っています。

   一口に障害と言っても、身体、精神、知的などいろんな障害があります。手足がないとか、言葉で上手くコミュニケーションが取れないとか、それぞれの障害当事者に合った働き方ができるよう選択肢を広げていくのも、企業に求められることだと思います。

障害者雇用の実例をオープンに

   だから、障害者の雇用では「うちの企業はこういう人材を求めていて、今までこういう障害のある人材を雇用してきた」という実例をオープンにすると、マッチングの精度が上がるんじゃないかと思っています。求人票や会社サイトを見ても、障害者が具体的にどう働けるかはイメージしづらい。「どういう障害者を雇用してきて、どういう部署でどんな経験をして、結果どうなったか」までオープンにしてもらえると、すごくありがたいです。

   障害は十人十色あるからこそ、自分と同じ障害がある人がどうやって働いているかという情報が、そもそも多く得られません。「こういう障害の人がこういう働き方をしている」という実例が少しでもオープンになるだけで、障害当事者の僕としては全然違います。「自分も働けそう」「自分にはできないかも」「キャリアアップできるかも」と具体的なシミュレーションがしやすくなります。

   難しいかもしれないけど、成功例だけでなく、上手くいかなかった事例まで見せることができたら、さらに良い判断材料になります。企業側としても、雇用した障害者が定着しなかった経験があるなら、そうした同じような「失敗」を繰り返さずに済むメリットがあるのではないかと思います。

   一方で、障害者自身もより良いマッチングのためには自分をさらけ出さないといけません。ただでさえ会社側からすると、全員の障害をすぐに理解することは難しい。「こういう障害があって、これはできませんが、あれはできます」とか、できることとできないことをしっかり説明し、理解してもらう必要があります。バリバリ働きたいか、体調の関係で休まないといけないことがあるか、といった働き方の面もそうです。いざ入社してから、「思っていた働き方と違う」となるくらいなら、前もって自分のことをちゃんと理解してもらっておいた方がお互いのためになります。

   会社側も、働きたい障害者側も、マッチングの「精度」を上げるためにやれることはたくさんあります。そのためにはお互いが歩み寄ること、そして知ろうとする意識、知ってもらおうとする意識を持つことが、まず大事なことだと思います。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)