J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

赤レンガの洋館跡残る「長府苑」に宅地化の懸念 下関市が三菱重工から買い取り意向示す

   大正時代に作られた赤レンガの洋館跡などがある山口県下関市内の施設「長府苑(ちょうふえん)」について、所有者の三菱重工が民間への売却へ動き、宅地化を危惧した市が公園として整備するため買い取り交渉をしていることが分かった。

   施設内では、すでに別の赤レンガ倉庫が取り壊され、周辺から今後を心配する声が出ている。どんな状況になっているのか、市などに取材した。

  • 和風建築物も見える長府苑の入口付近(グーグルのストリートビューから)
    和風建築物も見える長府苑の入口付近(グーグルのストリートビューから)
  • 和風建築物も見える長府苑の入口付近(グーグルのストリートビューから)
  • 取り壊される前の赤レンガ倉庫(グーグルのストリートビューから)

洋館跡とは別にある赤レンガ倉庫は取り壊される

   長府苑は、海運業で巨額の富を築いた田中隆氏(故人)が、イギリスの著名な建築家アレクサンダー・ネルソン・ハンセル氏に設計を依頼し、大正時代に作られた。その後、三菱重工が買い取り、同社の下関造船所が管理している。

   下関市によると、約1万6000平方メートルの敷地内に、赤レンガの壁だけが残った洋風建築「西洋館」や和風建築「和館」、庭木に囲まれた芝生の日本式庭園などがある。

   西洋館については、山口県が1997年度に近代化遺産として調査し、国の文化財に登録されなかったものの文化的な価値があると判断された。また、和館は、県が2010年度に近代和風建築として調査し、同様な判断をされている。

   ところが、22年12月になって、三菱重工が早期に民間へ売却しようと計画していることが分かった。

   23年3月16日の市議会総務委員会で市が説明したところによると、同社は1月の公募で売却を予定し、複数の業者が手を挙げている状況だった。しかし、売却されると宅地化する可能性があり、一帯の風情ある町並みを保存しようと、市が買い取りに動いた。土地を先行取得するため、総額4億円の土地取得特別会計予算案が3月定例議会に提出され、賛成多数で原案通り可決された。

   その後、6月5日になって、西洋館とは別にある赤レンガ倉庫が取り壊され、更地になっていると、J-CASTニュースに読者からメールで情報提供があった。読者は、長府苑が売却されると聞いており、宅地化されないか心配だと訴えていた。

「洋館などの建物や芝生庭園を残して公園に整備したい」

   西洋館などに文化的価値があるとされたが、長府苑は、今度どうなってしまうのだろうか。

   下関市の公園緑地課は6月6日、取材に対し、次のように説明した。

「西洋館などの建物や芝生庭園を残して都市公園に整備したいと考えており、三菱重工と交渉中です。取得したい意思を示しましたので、一定の理解を得たと考えています」

   取り壊された赤レンガ倉庫については、老朽化が激しくいつ壊れてもおかしくない状態だったため、三菱重工が倉庫を解体したと明らかにした。「倉庫は、西洋館とは別物で、文化的価値はないと考えています」と説明した。

   市の文化財保護課は同日、倉庫について、近代化遺産などの調査対象にリストアップされていなかったと取材に答えた。

   長府苑売却の情報が出た22年12月に市が倉庫を見に行くと、長年使われておらずツタに覆われた状態になっていたという。解体されたことについては、「ツタを取り除くなどしないと価値については分かりませんが、所有者の財産権を制限できませんので、その意向なら仕方がないと考えています」と話した。

   三菱重工の広報部は6日、「資産売却の個別案件については、回答を差し控えさせていただきます」と取材に答えた。赤レンガ倉庫を取り壊したことについても、特にコメントはしないとしている。

(J-CASTニュース編集部 野口博之)