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葬送、鬼滅、推しの子...アニメで「初回拡大放送」相次ぐ なぜ30分越え?識者が期待する可能性

   2023年秋から放送開始予定の新作アニメ「葬送のフリーレン」の初回が2時間にわたって放送される。ツイッターでは、30分を超える初回放送が相次いでいると話題になった。

   J-CASTニュースの取材に対し、アニメコラムニストの小新井涼さんは7月6日、初回拡大放送は「新たな視聴者層にアプローチできるかもしれません」と期待を寄せる。

   (※以下、一部アニメのネタバレを含みます。)

  • 初回拡大放送を行うメリット、「【推しの子】」が体現(画像:アニメ「【推しの子】」公式サイトより)
    初回拡大放送を行うメリット、「【推しの子】」が体現(画像:アニメ「【推しの子】」公式サイトより)
  • 初回拡大放送を行うメリット、「【推しの子】」が体現(画像:アニメ「【推しの子】」公式サイトより)

金曜ロードショーで異例の「テレビアニメシリーズの初回放送」

   アニメ「葬送のフリーレン」は、「週刊少年サンデー」で連載中の同名のマンガを原作とする。初回放送は9月29日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放送される。6月30日に公式ツイッターで発表された。

   発表を受けて、ツイッターでは「最近のアニメは初回30分越えがトレンドなのか」などと話題になった。例として挙げられるのが、4月から6月にかけて放送された「【推しの子】」で初回放送は90分、「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」は60分だった。さらに7月放送界の「ライザのアトリエ」、4月から放送が続いている「ポケットモンスター」の新アニメシリーズも、初回は60分だった。

   取材に対し小新井さんは、「アニメファンにとって初回放送が30分を超えることは珍しくない」と話す。初回拡大放送が今回ほど話題にならなかった作品もある。これまで拡大放送されたアニメの多くは、すでに作品人気が高く、ファンの期待に応える形だったという。

   「葬送のフリーレン」が大きな注目を集めたのは、2時間という放送時間に加え「金曜ロードショー」という番組内で放送される点だと推測する。

「これまで金曜ロードショーでは、『ルパン三世』の完全オリジナルストーリーを放送するなど、オリジナルアニメを放送することはありました。しかし連続テレビシリーズの初回をこの枠組みで放送するというのは、聞いたことがありません(編注:日テレも、同枠でテレビアニメシリーズ初回を放送するのは史上初だと広報している)」

   さらに「金曜ロードショー」で放送されることによって、普段からアニメを見ているわけではない視聴者層にもアピールできると期待する。

初回拡大放送を行うメリット、「【推しの子】」が体現

   初回拡大放送にはどのようなメリットがあると考えられるか。小新井さんは、視聴者の「1話切り」を防ぐことができると説明する。

「どのアニメを見るか決めるために序盤だけ見る人々がいます。以前までは3話までで判断する『3話切り』が多かったと思われますが、昨今はアニメの数が増えたことで『1話切り』(現在は『0話切り』さえ)も増えてきました。
初回拡大放送では、作品が盛り上がる場面まで見たうえで、視聴継続を判断してもらえると思います」

   このメリットを強く実感したのが、「【推しの子】」だという。小新井さんは、「初回拡大放送が効果的に受け取られた作品」だと話す。

「作品のメインビジュアルの真ん中に描かれている『星野アイ』が退場してしまうという、衝撃のシーンまで描き切ることで、作品の核となる主人公らの目的が明かされました。この1話ラストで作品に引き込まれた人も多いと思います。この初回拡大放送は、その後の盛り上がりにも大きく貢献したと考えられます」

   人気に応えるために行われた拡大放送とは一線を画するという。さらに「推しの子」はテレビ放送される前に、映画館で先行上映も行われた。

「映画並みの長さとなったことで、放送前後に劇場での上映にもっていくことができる。人々がその作品に触れる機会が増えます」

   「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」の第1話も、映画館で「上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」と題したワールドツアー上映を行っている。前シリーズ「遊郭編」のクライマックスと最新シリーズの1話を組み合わせた内容だ。

   先行上映された内容が、放送前にネタバレとして大きく話題になることもなかった。後にテレビやサブスクリプションで見ることができる内容を、わざわざ映画館で見る人は限られているためと推測する。

「先行上映を見るのは、元々作品をよく知っているファンが多いと思います。その方々はこれから初めてその作品に触れる人々が楽しめるよう、ネタバレしようとは思わないはずです。先行上映は客層との組み合わせがマッチしていると思います」

   さらに小新井さんは「ある程度の興行収入があれば、それがアニメのプロモーションにもつながるのではないか」と考察する。

「実際に『ワールドツアー上映『鬼滅の刃』上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』は、先行上映としては異例の大ヒットを記録し、度々興収記録がニュース記事にもなっておりました」

今後も初回拡大放送は増える?

   デメリットとしては、制作スケジュールがイレギュラーになる可能性がある点だ。小新井さんは「外部から制作状況を想像した考察」であると前置きし、こう話す。

「初回拡大放送を行うことで従来とは異なる放送スケジュールになります。一般的なテレビアニメは1シーズンで12回の放送を行うことが多いですが、『【推しの子】』は1話を拡大した分、11話までの放送でした。

構成や編成などがトリッキーになる分、従来のアニメとは異なる見せ方、工夫が求められる点が大変そうだと感じます」

   また初回放送が長尺となることで、原作未読の視聴者の参入ハードルが高まることはないのか。小新井さんは、次のように答える。

「1話にさえ触れれば大きな効果を持つアニメも現れました。その1話にどうやって触れてもらうかに、初回拡大放送によるインパクトが貢献すると思います。一方でその1時間や2時間が長いと感じて離れてしまうとしたら、それは放送時間の長さというよりは、その作品が合う合わないの問題になってくると考えられます」

   それでは今後、初回拡大放送は増えるのか。小新井さんは「これまでも30分を超える拡大放送は行われてきており、今後も作品にもよるが行われるのではないか」と答える。

   アニメーション表現はマンガよりも進みが早くなりやすいので、「原作のストックを考慮したうえで初回拡大放送するか否かという判断も必要になる」という。マンガを原作とするアニメのすべてで実施するのは難しいと推測する。

   小新井さんは初回拡大放送の持つ可能性に期待も寄せている。

「深夜帯アニメが、初回拡大放送をゴールデンタイムに行うことで、新たな視聴者層にアプローチすることもできるかもしれません。例えばアニメ『呪術廻戦』は深夜帯の放送予定ですが、2期の放送開始を目前に劇場版『呪術廻戦 0』をゴールデンタイムで放送しました。今後、この枠で初回拡大放送を行う可能性もあるのではないでしょうか。
トリッキーな30分超え放送によって視聴者層の広がり方が変わるかもしれません。新たな挑戦や変化に期待しています」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)