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ジャニーズ会見、新聞社はどう受け止めたのか 社説は違い鮮明、「メディアの責任」触れない大手紙も

   ジャニーズ事務所が2023年10月2日に記者会見して社名変更や補償後の廃業を発表したことを受け、新聞各紙も社説で相次いで取り上げた。

   取り組みの一部を評価する社もあるものの、現時点での対応は不十分だとする論調が大勢で、立ち位置には微妙な違いが出た。一連の問題をめぐっては、メディアがジャニー喜多川氏=2019年に87歳で死去=による性加害事案を積極的に報じなかったことで被害が広がったとの指摘が根強い。ただ、この点に明示的に触れた社説は少数派で、いくつかの地方紙が言及した程度だった。

  • 多くの新聞の社説が、ジャニーズ事務所の記者会見について取り上げた
    多くの新聞の社説が、ジャニーズ事務所の記者会見について取り上げた
  • 多くの新聞の社説が、ジャニーズ事務所の記者会見について取り上げた
  • ジャニーズ事務所の会見では記者のあり方にも注目が集まった

朝日新聞「メディアや広告に関わる業界全体で過去を検証し...」

   社説は10月3日から4日にかけて掲載。4日時点で、全国紙では読売新聞以外の全紙が扱った。

   比較的厳しい論調だったのが朝日新聞で、「再出発への道は遠い」の見出し。冒頭部分で

「現状ではとても『再出発』とはいえないのではないか」

と断じた。特に問題視しているのが

「事務所の社長を、喜多川氏らに近く旧体制の中心的存在ともいえる東山紀之氏が引き継いだこと」

で、補償会社や新会社が「ジャニーズの資産や権利、人的関係などを引き継ぐ可能性もある」として「看板を掛け替えるだけでは意味がない」と批判した。過去の問題が隠蔽されてきた経緯が明らかになっていない点も問題視し、

「とりわけ過去を最も知るはずの白波瀬傑・元副社長には、東山氏が言うとおり、説明責任がある。まだ調べるべきことはいくらでもあるはずだ」

とも主張した。

   一方で、メディアとの関係については

「スポンサー企業は次々に契約の打ち切りや見直しなどを進めているが、メディアや広告に関わる業界全体で過去を検証し、引き続きジャニーズの改革と被害者救済の行方に注視していく必要がある」

とするにとどめた。

   朝日新聞では、ジャニーズ所属タレントを紹介する連載企画「ジャニ担!」「突撃ジャニーズWEST」を展開していた。子会社の朝日新聞出版の週刊誌でも、たびたび所属タレントを表紙に起用してきた。

   毎日新聞も、

「名前を変えても、重大な人権侵害を起こした企業の社会的責任が変わるわけではない」

などと朝日と同様の指摘。早急な補償への対応と、透明性の高いガバナンスの確立を求めた。メディアについては

「今回の方針転換は、所属タレントの広告起用を見直す企業の動きや、NHKと民放各局から取り組みが不十分だと指摘されたことが大きく影響した。取引企業や放送局には、新体制による補償や人権状況の改善を注視し、毅然(きぜん)とした対応を取ることが求められる」

と論じるにとどめ、放送局との関係のみに言及。子会社の毎日新聞出版が発行する「サンデー毎日」も、たびたび所属タレントを起用してきたが、10月8日号(9月26日発売)の誌面で、当面の起用を見合わせることを明らかにしている。

日経「ステークホルダーとして問題に切り込み、被害を早く止める手立てはなかったか」

   2紙と違う方向性だったのが産経新聞だ。前社長の藤島ジュリー景子氏が「ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたい」と手紙で述べたことを「強い悔恨と覚悟が伝わる言葉だった」として評価している。ただ、補償の中身や新会社のあり方については「不明な点が多すぎる」として、進捗状況を社会と共有する中で「覚悟の評価は、その過程で判断するしかない」とした。メディアのあり方については

「将来の廃業を約束した『スマイルアップ』と、マネジメントを担う新会社の一挙一動を注視し、これを報じることはメディアの責務でもある」

と言及し、過去のメディアとの関係には触れなかった。

   日経新聞は、メディアはステークホルダーのひとつだとして、

「メディアを含む企業がステークホルダー(利害関係者)として問題に切り込み、被害を早く止める手立てはなかったか。自らに改めて問う必要があるだろう」

などと論じた。さらに、

「国際的な視点に立てば、ジャニーズ問題は特定の業界のできごととは決して言えない」

として、エンターテインメント業界だけでなく、すべての日本企業で人権問題への対応が求められていることに言及。欧米の投資家の間では日本企業の人権意識の乏しさが意識されつつあるとして

「株主の存在も意識すべき」

と論じた。

沖縄タイムス「被害を助長させてきたともいえ、その検証が必須」

   過去にメディアが積極的に性被害事案を報じてこなかった点に、明示的に触れたのはブロック紙や地方紙だ。例えば北海道新聞は、

「メディアの責任については、性加害問題を調査した事務所の外部専門家の報告書でも、『マスメディアの沈黙が被害を拡大させた』と厳しく指弾されていた。番組などで起用する一方で疑惑を放置していたとすれば、暗黙のうちに性加害に加担していたことになりかねない。関係者への聴取や契約実態の調査は不可欠だ」

とした。沖縄タイムスは

「度々明るみに出る事実に、テレビや新聞などのメディアは実体に迫ってこなかった。人気タレントを擁するジャニーズ事務所の影響力を前に『沈黙』を続けてきたとされる。被害を助長させてきたともいえ、その検証が必須である」

と、新聞を含めて検証が必要だとの立場だ。

   神戸新聞は、新聞も批判されていることに触れつつ、「テレビ各局」の検証が必要だとした。

「テレビ各局は内部関係者の聞き取りなどを始めているが、徹底的に検証した上でその公表を急ぐ必要がある。特別チームは、新聞などの報道機関も『極めて不自然な対応をしてきた』とし、その結果被害が拡大したと批判した。性加害は許されない暴力であり、人権侵害である。その点を、私たちも肝に銘じたい」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)