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【男と女の相談室】腰痛の隠れた主犯はタバコだった もっと激しい首の痛みにも関与

   ズキンズキンと泣きたくなる痛みが襲ってくる腰。ひょっとしてアナタはタバコを吸っていないだろうか。実はタバコはアナタが思っている以上に腰に悪いヤツなのだ。

   腰痛専門クリニックに通う患者の8割は喫煙者という統計がある。最近は、腰ばかりか首の激痛にもタバコが関わっている研究が出たほどだ。

  • タバコの悪行の歴史に新たな1ページが
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1日20本を8週間吸い続けると腰の骨ボロボロ

   2012年、日本整形外科学会と日本腰痛学会が合同で「腰痛診療ガイドライン」をまとめた。その中で、生活習慣の中で特に気を付ける危険因子としてあげた2つが「運動不足」と「喫煙」だった。一般からみると危険因子に入りそうな「肥満」が、「腰痛との間に(医学的な)相関関係はない」として外されたことを考えると、いかにタバコがよくないかわかる。

   腰痛専門医のウエブサイトを見ると、腰痛には大きく分けて2つの原因がある。1つ目が、腰椎間板ヘルニアなど腰回りの骨の異常からくるもの。こういった疾患は腰痛全体の約15%だ。残りのほとんどは原因がはっきりしない腰痛で、多くは筋膜性腰痛と診断される。その大半は血流が不十分なこと、つまり血のめぐりが悪いことから起こる。そして、タバコは腰椎間板ヘルニアと血流悪化という両方の原因の隠れた「主犯」的存在なのだ。

   従来から、腰痛患者に喫煙者が非常に多いためタバコが関係しているとみられてきたが、メカニズムはわからなかった。2002年に松崎浩巳・日本大学教授がウサギの実験で、初めてニコチンが腰椎間板を破壊する恐ろしい仕組みを解明した。

   タバコを1日20本吸う人間と同じ血中濃度になるように、ニコチンを溶かした液体を4~12週間ウサギに与えた。そして、ウサギを解剖して腰椎間板の変化を調べた。すると、8週間以上与えると腰椎間板に亀裂が走ったり、中が空洞になったりして弾力を失い、指で押すと簡単につぶれることがわかった。

血の巡りを悪くさせ、コラーゲンも減らす

   なぜ、腰椎間板がボロボロにもろくなるのだろうか。

   椎間板は、背骨と背骨の間にありクッションの役割を果たす。椎間板には血管がないので、栄養分は周囲の毛細血管から吸収する。タバコを吸うと一酸化炭素が血管内に溶け込んで赤血球にくっつく。すると赤血球が酸素を運べなくなり、酸素不足になる細胞組織が多くなって、腰椎間板の成長が阻害される。

   もう一つはニコチンの毒素の悪影響だ。ニコチンは血管を収縮させる作用があるため、腰椎間板周辺の毛細血管までも収縮させ、栄養分が行き渡らなくなる。また、腰椎間板はコラーゲンで作られる。コラーゲンはビタミンCの働きでできるが、ニコチンはビタミンCの消費を促進する作用があり、コラーゲンを減らしてしまうのだ。

   腰椎間板は、バームクーヘンのように輪が重なった形をしており、中に水分を含むゼリー状物質が詰まっている。ニコチンの悪影響で輪の部分に亀裂が入ってゼリーが飛び出し、周辺の神経を刺激して激痛が走るのが腰椎間板ヘルニアだ。こうしてタバコは、腰椎間板ヘルニアを発症させるだけでなく、血流も悪くするので二重に腰痛の原因を作るわけだ。

   2016年2月、タバコは首の激痛である「頸椎椎間板ヘルニア(頸椎椎間板変性疾患)」をも引き起こすという研究が、米エモリー大学の医師らによって米国物理療法専門医会で発表された。頸椎椎間板ヘルニアは腰椎間板ヘルニアと症状は似ているが、脳に近い分、痛みはもっと激しいといわれる。これまでもタバコとの関係が疑われていたが、立証した研究はなかった。メカニズムは腰痛とまったく同じだ。

   エモリー大学のミッチェル・リービット医師はこう語っている。

「今回の研究は、タバコの有害作用の新しい1ページを開くもので、患者に禁煙を説く医師の援護射撃になります。数々の悪影響が指摘されている中で、これ以上何が必要だというのでしょうか」