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安倍首相を悩ませた潰瘍性大腸炎 他人の便を移植する驚きの治療

   順天堂大学は2016年12月1日、国指定の難病「潰瘍性大腸炎」に対する新しい治療法の有効性を世界で初めて確認したと発表した。研究成果は米医学誌「Inflammatory Bowel Disease」(電子版)の2016年11月22日号に掲載された。

   潰瘍性大腸炎は、安倍晋三首相(62)の持病としても知られる。順天堂大学が開発した治療法は、健康な人から大便を提供してもらい、それを患者の腸内に移植する「便移植法」に抗生剤を併用するという驚きの方法だ。

  • 安倍首相も潰瘍性大腸炎の持病と闘っている
    安倍首相も潰瘍性大腸炎の持病と闘っている
  • 安倍首相も潰瘍性大腸炎の持病と闘っている

若者の発症者は毎年1万人ずつ急増中

   潰瘍性大腸炎は難病の中でも発症率が非常に高く、最近若い世代に急増している。毎年約1万人ずつ患者が増え続け、2015年度には合計約17万人に達した。大腸の粘膜に原因不明の炎症や潰瘍ができ、激しい便秘、下痢、血便、腹痛などの症状を引き起こす。何十年も続く症状に苦しむ人が多い。

   順天堂大学の発表資料によると、「潰瘍性大腸炎は症状の増悪(悪化)と寛解(鎮静)を繰り返し、治癒がない疾患であり、新規薬物療法の登場で治療効果は飛躍的に向上したものの、長期使用での副作用のリスクもあり、改善については未だに不透明」という。

   そこで研究チームが行なったのは「便移植法」だ。腸内には1000種類以上の腸内細菌が棲みついており、体の健康や免疫システムに影響を持っている。従来の研究では、潰瘍性大腸炎の患者は腸内細菌のバランスが非常に悪く、「バクテロイデス」という種類の細菌が増えると潰瘍性大腸炎の症状が改善することがわかっている。つまり、原因は不明だが、「バクテロイデス」が治療のカギを握っているわけだ。また、3種類の特定の抗生剤を投与すると、腸内細菌の状態がバランスのとれたものになることも確認されている。

健康な人の腸内細菌を便と一緒に体内に

   研究チームは、2014年7月から2016年3月にかけて、潰瘍性大腸炎の患者41人を次の2つのグループに分けて臨床試験を行なった。

(1)3種類の抗生剤だけを投与する20人。
(2)3種類の抗生剤を投与した後、健康な人の大便を移植する「抗生剤便移植併用法」の21人。

   「抗生剤便移植併用法」をさらに詳しく説明すると、こんな方法だ。

(1)患者の乱れた腸内細菌の状態をリセットするために、3種類の抗生剤をカプセルや錠剤で飲む。
(2)腸内細菌の量が極限までに減り、腸内がクリアになる。
(3)健康な人(ドナー)の大便200グラムを、生理食塩水で処理し、約400ミリリットルの溶液にする。この溶液を大腸内視鏡を使って患者の肛門から盲腸付近へ注入移植する。

以上の治療を行ない、4週間後に「抗生剤単独法」グループと、「抗生剤便移植併用法」グループの腸内細菌の状態を比較した。その結果、腸内細菌の状態が健康な人と同じ状態に回復したのが、「抗生剤単独法」では全体の68.3%、「抗生剤便移植併用法」では83.4%にのぼった。この結果について研究チームは、発表資料の中でこうコメントしている。

「潰瘍性大腸炎の治療効果は長期間の観察が必要ですが、今回、抗生剤と便移植法を併用すると、有効な治療法になりうる可能性を示すことができました。潰瘍性大腸炎は若い患者が多く、従来の治療法では、強い副作用がある免疫抑制剤やステロイドなどが長期使用されるケースが多いため、副作用の少ない根本治療が望まれます。私たちは安全性が高く効果的な腸内細菌治療法の確立を目指していきます」

昭恵夫人も「政治家なんてやめて」と泣いた闘病生活

   ところで、安倍首相はどんな治療法を続けているのだろうか。第1次安倍内閣の2007年9月12日、安倍首相は衆議院本会議の代表質問の直前に突然「退陣会見」を行ない、翌日、慶応義塾大学病院に緊急入院した。のちに自ら「潰瘍性大腸炎で体調を崩していた」ことを明らかにした。その後はみるみる体調を回復して首相の座に返り咲いた。

   2016年1月25日付読売新聞によると、世耕弘成官房副長官が長野市内の講演で、「首相の潰瘍性大腸炎は完全に治ったわけではない。薬でうまく抑えている。首相は大変元気だ」と語ったと報道している。側近が首相の健康問題に言及するのは極めて異例だ。

   実は、安倍首相自身も持病についてかなり赤裸々に語っている。日本消化器学会の会報「消化器のひろば」(2012年秋号)の誌面で、主治医の日比紀文・慶応義塾大学教授と「潰瘍性大腸炎を克服する」という題で対談している。主治医が相手ということもあって、率直に闘病生活を告白している。それによると、首相の潰瘍性大腸炎は10代の頃からだ(要約抜粋)。

安倍「中学3年の時、腹痛の後に下痢と血便が続き、便器が真っ赤に染まってびっくりしました。高校生になっても年に1回同じ症状になりました。神戸製鋼所に入社してから症状が悪化して、会社の病院で診療を受け潰瘍性大腸炎とわかりました」

その後、政界に入っても症状は悪化する一方だった。

安倍「選挙のたびに症状が出るのです。選挙カーの中で脂汗をかきながら便意を我慢しました。点滴だけの生活が続き、体重が65キロから53キロに減り、政治家の進退を賭け、3か月入院したこともあります。妻の昭恵は涙ながらに『政治家なんか辞めて』と訴えるし、身近な人から病気を公表して引退を勧められました」

そんな首相にとって、現在、劇的に症状を抑えている薬というのが――。

安倍「アサコール(サラゾピリンなどと同じ5-ASA製剤の1つ)という薬が画期的に効いて寛解状態が続き、精神状態も本当に楽です。この40年間で初めて『何もない』状態です」

   第1次内閣で首相として海外を訪問した時は、おかゆと点滴で栄養補給しながら回る有様だったという。現在も対談の中で「寛解維持」の状態であることは認めている。首相にとっても、順天堂大の研究成果は朗報だろう。