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臭いと見た目で病気を見抜く 人間には脳が危険を回避するための機能がある

   「派手な色のキノコは避ける」「腐敗臭がするものは避ける」など、人間は有害なものを回避するために視覚や嗅覚を活用している。

   しかし、スウェーデンの医科大学、カロリンスカ研究所マッツ・オルソン教授らの研究チームが「米国科学アカデミー紀要」2017年6月13日号に発表した論文によると、毒や腐敗だけでなく臭いや外見で誰かが病気にかかっていることまで見分けられるという。

  • 妙に人に避けられていたら感染症かも…?
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微弱な毒素を注射して体臭を収集

   臭いと病気には密接な関係があることはよく知られている。例えば副鼻腔炎やのどに炎症がある人は口臭が強まる。また、がんや糖尿病などにも独特の臭いがあることは以前から指摘されており、犬を使って臭いをかぎ分け、がんの検査や部位判定に応用しようとする試みもあるようだ。

   オルソン教授らは人間の進化の中で主な死因のひとつが感染症だったと指摘。感染予防手段が確立されるようになるまでは、感染源、つまり病気になっている人から回避することが重要であり、そのためには相手に触れずに情報を得られる臭いや外見が病気の判断要因になっていると推測した。

   そこで、健康な22人の男性被験者を2グループに分類し一方には生理用食塩水を、もう一方には「エンドトキシン」という免疫系を刺激し炎症などを引き起こす成分を注射し、それぞれの体臭サンプル(実験時に被験者が着用していた衣服)と顔写真を撮影した。エンドトキシンを注射されたグループは発熱や体の痛み、疲労感など典型的な感染症の症状を数時間示したという。

   こうして用意した体臭サンプルと顔写真を前述の22人とは別のモニター役の女性被験者30人に渡し、臭いを嗅ぎながら写真を見て「非常に魅力的」「魅力的ではない」「とても不健康」から評価するように求めた。

   事前にどちらの被験者が健康で、どちらが不健康なのかといった情報はモニター役に知らされておらず、この評価は純粋に体臭と顔写真だけで判断したものだ。さらに、評価の際にはfMRI装置を取り付けてもらい、脳がどのような反応を示しているかも測定している。

   まず好感度の評価では、エンドトキシンを投与され疑似的に病気になっている被験者は低く評価され、生理用食塩水を投与された被験者は高く評価されるという結果となった。エンドトキシン投与被験者の体臭は顔がモニター役の好みでも、評価を低くする傾向もあったという。

   さらに脳の反応を分析したところ、エンドトキシン投与グループを評価する際は嫌悪感や不安感が強く、脳の運動機能に関係する部分も強く反応しており、体臭と外見に反応して脳が無意識に避けるよう働きかけていることも確認された。

気になる病気のときの体臭とは

   これらの結果から、オルソン教授らは人間の脳がわずかな情報から相手の健康状態を読み取る能力は非常に高く、感染症にり患している対象から逃れようとする生物的本能が働いていると見なせるとコメントしている。

   ただし、その対象が自分と緊密な関係にある場合は回避行動ではなく、看護しようとする意識が働くようだ。オルソン教授は具体例として「風邪をひいて苦しんでいるわが子にキスをして看病をする母親はいるが、見ず知らずの相手が風邪をひいていたら離れたくなる」としている。

   気になるのは感染症になった人の体臭だ。避けたくなるほどの異臭なのかと思いきや、論文によると臭いの強弱が異なり、エンドトキシン投与グループは健康なグループに比べてやや体臭がきつくなっていたのだという。