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アスリートを悩ませる甲状腺疾患 「橋本病」で引退決意した野球選手

   甲状腺は、のどぼとけの下にある臓器で、体の新陳代謝に必要な甲状腺ホルモンを分泌する役割を果たしている。正常に分泌されないと、体にさまざまな不調をもたらす。

   特に「体が資本」のアスリートにとっては、甲状腺の疾患は選手生命を脅かしかねない。

  • 今浪選手がプレーした本拠地・神宮球場
    今浪選手がプレーした本拠地・神宮球場
  • 今浪選手がプレーした本拠地・神宮球場

心臓病にも間違えられる症状

   ひとりのプロ野球選手が、ユニホームを脱ぐ決断をした。東京ヤクルトスワローズの今浪隆博選手(33)だ。内野のユーティリティープレーヤーとして活躍したが、今季限りで引退する理由として複数のスポーツメディアが報じたのが「橋本病」という病気。本人自ら病名を挙げて、「今の僕の体では戦えない」と話したという。

   橋本病は「慢性甲状腺炎」とも呼ばれる。甲状腺疾患専門の医療機関、伊藤病院(東京都渋谷区)のウェブサイトの説明を見てみよう。甲状腺の腫れ(甲状腺腫)が、診断の糸口になることが少なくない。橋本病と診断される人の10%は明らかな甲状腺機能低下症があり、約20%は「血液検査をして初めて甲状腺ホルモンの不足があることがわかります」。残り70%は甲状腺機能が正常だ。今浪選手の場合、甲状腺機能低下症を明かしていた。

   具体的な症状は、むくみ、皮膚の乾燥、寒さに弱くなる、食欲がないのに体重が増える、心臓の動きがゆっくり静かになり、脈の数が少なく弱く感じられる、無気力になり頭の回転が鈍くなる、といったものだ。こういった症状のため心臓病、腎臓病、肝臓病に間違われたりもするという。

   橋本病は「自己免疫」の異常が原因で起きるが、何がきっかけかは不明とのこと。治療は、甲状腺ホルモンの不足を補うための薬を使う。程度によっては、回復までにある程度、安静が必要で、ほかの臓器に問題が生じている場合は入院もあると、同病院では説明している。

   今浪選手は引退に際して、医師の診断結果が「正常」と出ても、自身は「正常ではないと感じることが多かった」と話したという。ただでさえ人並み外れた体力が必要なプロ野球選手。病魔と闘う日々を送る中で、苦渋の決断を下したのだろう。

競泳・星奈津美はバセドウ病を克服

   甲状腺の病気ではもうひとつ、「バセドウ病」が知られている。甲状腺専門医による治療を行う「せきや内科クリニック」(東京都豊島区)のサイトを見ると、「甲状腺を異常に刺激する物質が体内で作られ、この物質が原因で甲状腺ホルモンが大量に作られてしまう病気」とある。甲状腺ホルモンが不足する橋本病とは逆の症状だ。

   甲状腺腫や眼球突出が特徴で、過剰なホルモン分泌により「安静にしている時も、走っている時と同じくらいエネルギーを消費している状態」「とにかく疲れやすい」という症状が多い。原因は不明で、治療には投薬、場合によっては手術となる。

   競泳女子選手として2012年のロンドン五輪、16年のリオ五輪と連続で、200メートルバタフライ銅メダルに輝いた星奈津美さん(27)は、激しい運動量が必要な競泳で、バセドウ病を克服したうえでメダリストとなった。

   2016年5月18日付のスポーツニッポン電子版によると、高校1年生でバセドウ病と診断され、薬を服用しながら競技を続けてきた。ロンドン五輪後に行われた2014年9月の仁川アジア大会で体調が悪化、帰国後の10月に甲状腺ホルモンの数値が悪化していたという。翌11月に手術し、甲状腺を全摘出して完治した。これが、リオ五輪での2大会連続銅メダル獲得につながったといえよう。