高齢者に最も多い怪我といえば「転落・転倒」だろう。内閣府が毎年発表している調査結果「高齢社会白書」でも、高齢者の事故のうち転落と転倒がそれぞれ30%近くを占める。
転倒による骨折リスクなども考えられ、骨折予防のためにカルシウムを摂取しているという人もいるかもしれない。
しかし、米国臨床予防委員会(USPSTF)は2017年9月26日に発表した高齢者の転倒予防勧告草案の中で、骨折予防のためのカルシウムやビタミンD補給は推奨されないと記載したのだ。
USPSTFは各種検査や予防法、予防薬などが健康な成人や子どもにとって本当に有効なのか、エビデンス(科学的根拠)に基づき検証し勧告を発表する、米国保健福祉省の委員会だ。
検証した内容は推奨事項としてグレードが割り当てられ、
・グレードA(確かなメリットとエビデンスが確認され強く推奨される)
・グレードB(エビデンスは中程度だがメリットが大きく推奨できる)
・グレードC(特にデメリットはないがメリットもごくわずかである可能性が高い)
・グレードD(エビデンスがない、もしくはデメリットがメリットを上回っている)
・エビデンスが不十分
の5つに分類される。
今回の勧告草案ではカルシウムとビタミンDの摂取はどのように評価されたのか。
まず、「転倒予防」を目的としてビタミンDを摂取することについては、「グレードD」とされた。転倒予防効果を示す十分な証拠がないうえ、高用量のビタミンD摂取が健康被害をもたらす可能性があるためだという。
骨折予防はどうだろうか。USPSTFはビタミンDを毎日300IU、もしくは1~4か月間に10万IU摂取した人や、カルシウムを毎日600~1600ミリグラム摂取した人と非摂取者の骨折率を比較した9つの研究結果、4万2000人分のデータを分析している。
その結果、ビタミンDやカルシウム補給による骨折の減少は認められず、予防効果はないと判断。「低用量のビタミンDやカルシウム(ビタミンD400IU以下、カルシウム1000ミリグラム以下)を毎日摂取することは、骨折予防に推奨されない」と評価した。
また高用量(ビタミンD400IU以上、カルシウム1000ミリグラム以上)を摂取することについては、「エビデンスが不十分」で評価できないとされた。両者を組み合わせて補給するのも「有用ではない」としており、基本的には骨折予防効果はないというのがUSPSTFの見解だ。
今回の勧告草案に対し、パブリックコメントでは「米国医学研究所(NAM)や世界保健機関(WHO)はカルシウムやビタミンDの摂取を推奨している」との意見も寄せられている。
しかし、USPSTFは「両組織は特定の栄養不足を防ぎ、健康に過ごすための意味でカルシウムとビタミンD推奨しているもので、骨折予防のためには推奨していない」とコメント。「グレードB」と認められた有益な手段として「運動」を挙げ、次のように指摘している。
「定期的な運動は筋力や骨の強化、身体バランスの改善につながり、転倒や転倒に伴う骨折を防ぐのに効果的な手段となる可能性がある。65歳以上の健康な成人が臨床医と協力し、自分の身体機能の状態を正確に把握することが望ましい」
ちなみに、激しい有酸素運動などをする必要はなく、筋力トレーニングや体幹トレーニングなど、筋力や身体バランス強化につながる運動が推奨されるようだ。