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知らないと恥をかく!? 「初音ミク」の基礎知識

   「初音ミク(はつねみく)」のブームが続いている。J-CASTニュースでも“初音ミク現象”をたびたび取り上げているし、この名前に見覚えがある人は多いだろう。だが、その正体を知る人はいまだに少ないというのが筆者の実感だ。周囲に聞いてみても、「バーチャル・アイドル?」「アニメのキャラクター!?」などと、決して間違いではないが、正確とも言えない答えが返ってくる。今回は、そんな"彼女"の実像に迫ってみたい。

初音ミクの「正体」とは?

製品パッケージに掲載された「初音ミク」のイメージ・キャラクターは“バーチャル・アイドル”となった
製品パッケージに掲載された「初音ミク」のイメージ・キャラクターは“バーチャル・アイドル”になった

   詳しい説明は後にするとして、とにかく彼女は歌が唄える。その模様は動画音声共有サイトなどで簡単に視聴でき、「ニコニコ動画」では「初音ミク」に関して9000件以上の投稿がある。曲のジャンルは多岐にわたるが、市販楽曲も多く、著作権問題が指摘されているのも事実だ。ここでは、1914年の文部省唱歌「故郷(ふるさと)」を歌う彼女を紹介しておこう。

   上手いのか下手なのか、なぜか妙に引きつけられる不思議な歌声。この声は声優の藤田咲さんのものだが、もちろん実際に唄ってはいない。ヤマハが開発したソフトウェア「VOCALOID2」によってバーチャルに合成されたものだ。

   このソフトの入力画面に、メロディと「あ」「い」などの歌詞を入力していくと、その通りに歌声を合成してくれる。コンピュータが、かつては再現不可能と言われた"究極の楽器"、人間のボーカルを作り出す。筆者などは、そのことに、ただひたすら感心してしまった。

ピアノロール型の入力画面に歌詞を入力していく。強弱などの微調整も可能
ピアノロール型の入力画面に歌詞を入力していく。強弱などの微調整も可能

   とはいえ、何も無いところから自由自在に声を編み出せるわけではない。あらかじめモデルとなる人の声を収録した「歌声ライブラリ」が必要になる。

   今年8月下旬、DTM(デスクトップミュージック)関連ソフト会社のクリプトン・フューチャー・メディア社が「VOCALOID2」本体に、藤田さんの「歌声ライブラリ」を収録して売り出した。極めて平板に表現すれば「VOCALOID2 (透明感のある)日本語女性ボーカル編」ということになるが、それに「初音ミク」という人目をひく名前をつけたのである。製品パッケージには、「声」と連動したアニメ・キャラクター風のイメージ・イラストを前面に押し出し、親しみやすく擬人化した。このイラストも人気を博し、ネット上でさまざまに翻案されている。

   なお、12月にはミクの妹分にあたる「鏡音リン(かがみねりん)」も登場予定。こちらは声優の下田麻美さんの力強い声が特徴だという。さらに英語で唄える「SWEET ANN」もいる。

初音ミクの意外な「弱点」

初代VOCALOIDの「MEIKO」。キャラクターとしての個性はミクよりも薄い
初代VOCALOIDの「MEIKO」。キャラクターとしての個性はミクよりも薄い

   「初音ミク」の心臓部、言わば“本体”にあたる「VOCALOID」だが、実は、かなり以前から市場に存在している。初代VOCALOIDを採用した、ミクの姉「MEIKO」がクリプトンから発売されたのは2004年。その後の「VOCALOID2」では、新しい信号処理手法が導入されるなど改善がなされたという。MEIKOの音声とくらべると、やはり「2」のミクのほうが自然で、進化のほどがうかがえる。

   ところで、VOCALOIDには意外な弱点があった。歌声の合成に特化しているため、人間のように「喋る」ことは苦手なのだ。ニコニコ動画YouTubeではその様子も聞くことができるが、平常の歌いっぷりからは想像できない悲惨さなのだ。

初音ミクが教えてくれた、ネットの新しい楽しみ方

   VOCALOID発売当初は、DTM(デスクトップミュージック)で、自作曲に試みにボーカルやバックコーラスをつけてみるといった用途が想定され、どちらかといえば閉じた世界の話であった。

   それが今では、多種多様な曲を唄わせて、ニコニコ動画などのネットで公開・共有、コメントなどをつけて楽しむスタイルが定着した。視聴したユーザーが新たなクリエーターになるというスパイラルが続き、その奥には著作権問題もちらつく。「初音ミク」は、イマドキのネット事情を凝縮して見せてくれる存在でもある。

   見た目は少女のようにあどけない彼女。でも、決して侮れないのだ。