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ゆるさは作り込まれた作風 しりあがり寿「ユルメーション大集合!」展

   ゆるめのアニメーションだからユルメーション。しりあがり寿さんは自分の作る動画をそう呼んでいる。そのユルメーション作品はしりあがりさんのホームページでもゆらゆらと世界を見せているけれど、それが20坪ほどの会場にひしめき合っている。「ASK? art space kimura」という東京、京橋のギャラリーで今、見ることができる(1月10日まで。12月28日から1月5日までと日祝は休廊)。

「20坪」にひしめくユルメーション

東京・京橋で09年1月10日まで開催中
東京・京橋で09年1月10日まで開催中

   縄跳びを続けるオヤジたちの姿を延々と見せる作品「rope」が何種類もある。やはりオヤジたちが何かをしているシーンを見せる「piece」という作品がある。徳川15代の名前を連呼する歌(これが耳に残って仕方がない)にあわせて、ラッキー池田の振り付けで動くやはり線画のオヤジたち、同じく干支を連呼する歌と踊るオヤジたち。3000枚ものオヤジの顔がどんどん現れるメインビジュアル。まさに今のしりあがり寿さんの世界がこの風景だ。こんなにしっかりと動画でも作風が作れる彼は天才だなと思う。そしてこの世界は彼の絵としっかりつながっている。

オヤジの顔が「3000枚」

動きの振り付けはラッキー池田さん
動きの振り付けはラッキー池田さん

   ロトスコープという言葉をご存知だろうか。フィルムなりビデオなりで動画を撮影し、それを元に動きを取り込んでアニメーションに持ち込む、CGの動きに置き換える。ディズニーのあまりに滑らかなアニメーションはまさにこの手法で作られている。今回、しりあがりさんはロトスコープを使ってのチームプレイをしている。きっちり進化しているのだ。

   しかし同じ技法がしりあがりさんの手にかかると、まったく違う世界に持ち込まれる。計算ずくのいい加減さで動きはなぞられ、滑らかとは言えないぎこちなさが前に出てくる。それが味になり、作風になる。もっともここに至るまでにすでに数年費やしていることも事実で、しりあがり寿という天才のしたたかさも感じる。

   このギャラリーとしりあがりさんとの関係もゆるく深い。2004年5月の「オレの王国、ちょっと橋から見てみてよ」はきっとひとつの起点だったのだろう。ギャラリーの天井から床まで、ギャラリー自体を包み込む、ひと続きの絵。これは「王国シリーズ」となり、しりあがりさんはこの後、大きな面積で描くことに挑戦し続けた。横浜美術館の「日本×画展 しょく発する6人」(2006年7月)が最たるものだ。

   そして今回、王国ではなく、ユルメーションという新しい世界が同じギャラリーを埋めた。今回はチームプレイだ。王国は1人作業。ユルメーションは静止画をつなぎつなぎ、そこに今までの動画にない不可解な味わいを持ち込んだ。しりあがりさんはきっといい加減そうな指示をしつつ、ユルさを最大限に発揮するという、普通の人には理解できない作業を、あの笑顔で続けていたに違いない。ゆるさをコントロールするという、とんでもない天才の姿がここにある。




◆坂井 直樹 プロフィル

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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