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【書評ウォッチ】将棋名人制もIT革命 誕生400年目に盛り上がる

【2012年7月15日(日)の各紙から】今年は将棋の名人制度ができて400年に当たる。最近の将棋熱は、IT革命の影響がこの世界にも及んで、過去にない異色の活況を見せている。棋譜ネット配信による国際化と、なんといっても人間対コンピューターの一戦だ。この「電王戦」にコンピューターが勝ったことで、話題はいっそう盛り上がった。関連本を将棋ライターの小暮克洋さんが日経で紹介している。

人間対コンピューターの激戦

『われ敗れたり』(米長邦雄著、中央公論新社)
『われ敗れたり』(米長邦雄著、中央公論新社)

   人間対コンピューターの一戦は1月に「第1回将棋電王戦」として行われた。人間側は永世棋聖で名人経験者でもある米長邦雄さん、対するはコンピューターソフトのボンクラーズ。中盤で優位に立つも逆転負けした米長さんが「激戦」を振り返って書いたのが『われ敗れたり』(中央公論新社)だ。

   「コンピューターの棋力向上のスピードは驚異的だ」と、評者の小暮さん。10年ほど前にはプロ棋士が飛車角を落とすハンディ戦がいい勝負だったとか。それがこの勢いだ。

   1秒間に1800万手を読むというコンピューター。『コンピュータ将棋の進歩6』(松原仁編著、共立出版)は、最先端の研究成果や対戦記録をまとめてある。

   もう一つの新傾向は、国際的な広がりだ。これもネットの力が大きい。昨年10月、パリ郊外で開かれた国際将棋フォーラム。上位入賞者は皆、国際的な将棋サイトで力をつけたという。母国語に訳された日本のマンガを読んで将棋を知った入賞者もいた。

品切れ本はふつう読めないだろうに

   名人制度は1612年に徳川家康が初代名人に俸禄を与えて誕生した。明治維新後に家元制度は終焉。終身名人制から、今は実力による短期名人制へ。そうした歴史的経緯は『実録名人戦秘話』(田丸昇著、マイナビ)に。棋士の人物論としては『将棋名人血風録』(加藤一二三著、角川oneテーマ21)を小暮さんはすすめている。

   日本の伝統文化については偶然、歌舞伎や落語の「襲名」関連本を朝日が読書欄のトップ記事に扱っている。京都の芸能史家による原稿だが、「読むのもいい」とあげる中に品切れ本が。先代市川猿之助(現・猿翁)の『演者の目』(朝日新聞社・品切れ)。いったいどうやって読めというのか。

   研究者やよほどのファンなら国立国会図書館へ行くか、ネット上や古書街を探しまわりもするだろうが、普通の市民にそこまで求めるのは、ずれた話だ。だれを基準に紙面をつくっているのか、評者も編集者も無神経すぎる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)