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【書評ウォッチ】したり顔で予測する専門家の謎 絵空事に惑わされるな

【2012年7月29日(日)の各紙から】「暑い真夏日がつづくでしょう」などと明日の天気ならある程度予測できるが、1カ月以上先の天気を正確に言い当てる気象予報士はまず、いない。ところが、未来の経済や社会となると、したり顔で予測する専門家は大勢いる。そうした予測はほとんど外れるのに、信じる人が後を絶たないのはなぜか。その謎を解明しようとした『専門家の予測はサルにも劣る』(ダン・ガードナー著、飛鳥新社)を読売が紹介している。

「その背景には不確実なことを嫌い、ランダムな状況でも理由をつけて解釈しようと試みる人間の脳の働きがある」と、評者の経済学者・中島隆信さん。

耳を傾けるべきはどちら?

『専門家の予測はサルにも劣る』(ダン・ガードナー著、飛鳥新社)
『専門家の予測はサルにも劣る』(ダン・ガードナー著、飛鳥新社)

   本には、古代ギリシャの詩になぞらえた「たくさんのことを知っていて疑い深いキツネ」と「大きなことをひとつだけ知っている自信家のハリネズミ」が登場する。

   キツネは世界が複雑で将来は不確実だと理解し、常に事実と向き合って反省し、修正する。ハリネズミは自信にあふれ、断定的に将来を語る。得意技は自己正当化。

   メディア受けするのは圧倒的に後者だと著者はいう。たとえば、1990年代初めにアメリカ経済が停滞したとき、経済学者らは「21世紀の経済を支配するのは日本」と言い、日本脅威論をあおった。その後の日本は、今のありさまだ。「絵空事とも言うべきこうした断定的予測に多くの人が惑わされた」と評者は強調する。キツネ型専門家の声にこそ耳を傾ける説得力があると受けとめている。謙虚な意見を謙虚に聞こうということだ。

神話、文学、SF、報道記事から科学論文までを

   予測といえばまず引き合いに出される気象について万華鏡風にまとめたのが『気象を操作したいと願った人間の歴史』(ジェイムズ・ロジャー・フレミング著、紀伊國屋書店)だ。天候を人為的になんとかしようと夢見た科学者、軍人、ペテン師、詐欺師ら。「歴史的、批判的に検証した一書」と、日経で東北大の野家啓一さんが評している。

   調べた事例は、神話、文学、SF、報道記事から科学論文まで。著者は、それらの多くが「行き過ぎ、うぬぼれ、自己欺瞞の悲喜劇なのだ」と釘をさす。

   現代でも地球温暖化防止策として、さまざまな「地球工学」が提唱されている。が、生物への悪影響や倫理観の欠如を、本は指摘する。「暴走は地球温暖化にも増して危険」と、評者は制御すべきは気象より科学技術の傲慢さだという。なにやら経済予測にもピタリあてはまりそうな警告だ。エコノミストらがやってきた「予測」を検証したくなる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)