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「ボサノバっぽい」心地よい揺らぎ感 ナミノート「声の力」で波を味わう

『Blue Vacation』
『Blue Vacation』

naminote
『Blue Vacation』
OMCA-1169
2000円
2013年7月24日発売


   プロデューサーでもありプレイヤーでもあり、中川翔子の「フルーツポンチ」などのコンポーザーとしても、既に実績を積んでいる小林治郎と、新星堂が開催したオーディション「Chance!」の2009年度ファイナリストErikaのユニット=naminote(ナミノート)。

   きょう7月24日(2013年)にデビューアルバムがリリースされた。

「海の香り」と「潮風」を送る

デビューアルバムをリリースしたnaminoteの2人
デビューアルバムをリリースしたnaminoteの2人
「ユニット名の"naminote"は、波の音?」

   インタビューを受けるのが、初めてというヴォーカルのErikaにそう質問すると、間髪入れずに「なんのひねりもなく、その通りです」と、笑顔で答えた。

   「あ、この答え方は紛れもなく対話の上手な人のもの」と、そこそこに長いインタビューの経験から割り出して、安心してインタビューを開始する。

   前回この欄でインタビューさせてもらった今井亮太郎は、ブラジリアン・ミュージックの専門ピアニストと言うスタンスだったが、今回のnaminoteもまた、ブラジリアン・テイスト。

   ただ今井とは掛け離れて、ずっとずっとフレキシブルなブラジリアン。

   ただ、naminoteは、今年の日本の夏に間違いなく心地よい「海の香り」と「潮風」を送る。

広い意味のトロピカル・サウンドですか……

   新星堂のオーディション「Chance!」のファイナリストであるにもかかわらず、「Chance!」に出場してからもErikaの歌い手としての生活は、それまでと大差なかったという。

   Erika「人前で歌うこともなく、部屋で歌っていました」

   だが決定的に違ったのが、思いと行動。

   Erika「人前で歌うにはどうすればいいんだろう? そう考えてネットの掲示板で一緒に演ってくれる人を探して。そこで小林さんと出会ったんです」

   Erikaは「本当のところジャズ・ヴォーカルを演りたかった」という。ネット掲示板での小林は、「ジャズ・ミュージシャン風だった」とErika。

   申し分のない相手と思った。

   だが、実際に会ってみるとボサノバをフィールドにしているアーティスト。

   Erika「正直、ジャズじゃないのかよ! と思いました」

   だが、信頼できた。

   小林のサウンド・メイクは、確かにメインのサウンド・テイストはボサノバだが、むしろトロピカル・サウンドと呼んだほうが似つかわしい。これがErikaの声質にマッチした。

   小林「ボサノバっぽいと理解してもらえれば……。むしろサンバの方が近いかもしれないし、ハワイアン的なものもある。広い意味のトロピカル・サウンドですか……。エキゾチックといってもピンとこないし、ボサノバといっておけば理解してもらえるかなと(笑)」

波のイマジネーションが全編に

   このアルバムに関して一つだけ言えば、と小林。

   小林「カヴァーアルバムですが、波のイマジネーションが全編にある」

   聴いていて感じるのは、確かに70年代のティンパンアレイ系の音へのオマージュ。

   小林「そう捉えてもらってもかまわない」

   だからこその、この選曲!! オリジナル・アーティストへの限りないリスペクトが込められていて、60~70年代の青春を謳歌していた親父も、胸をぐっと締め付けられるわけだ。

   だが、アルバムに収められた音は、確かにカヴァー曲なのだが、どこをとってもnaminoteのオリジナルと言って良いほどの完成度。

   それはまさにErikaの歌の力、声の力の賜物。そしてトロピカルな新しい装いを与えた小林の音、アレンジ力。

   Erika「20歳代前半の知り合いに聞くと、今回のアルバムに収めた曲を1曲も知らないんです。ビックリでしたが、逆に未知なる音としてそうした若い人たちに聴いてもらえれば嬉しいですね」

いつの時代にもある都市生活者の孤独を歌いたい

   日本には、naminoteのようなイメージを与える男女二人組みのユニットは、意外に少ない。今年の上半期、有線で話題になったsalley、ラブ・サイケデリコや、元もとのスーパーフライ、今のドリカム……。二人組みユニットがないわけではないが、naminoteの作品は、言ってみれば「なんだか、色っぽい」のだ。

   「イパネマの娘」の頃のアストラッドとジョアンが夫婦だったように、作品を作り上げていく時の縦糸(男)と横糸(女)の関係は、単純だが複雑な絵模様を描き出す力になる。

   小林「僕ら二人の関係性を誤解してくれるくらいが良いですね。それは作品制作のコンビネーションが良いからだと思いますし。逆にそれくらいじゃないとユニットとして成立しません」

   アルバムの中に2曲、オリジナル曲がある。2曲目の「常夏の池間― Ikema―」と最後の「夕暮れの横顔」。この完成度がすばらしい。ことに「常夏の池間―Ikema―」は宮古島と橋で繋がれた小さな池間島をモチーフにした、まさに夏の歌であり、曲として最高に楽しめる申し分のない1曲。

   デビューのカヴァー・アルバムで、すでに次の可能性を体現して見せている。

   小林「いつの時代にもある都市生活者の孤独を歌いたい、それが永遠のテーマですね。哀愁、孤独、出会いと別れ……」

   naminoteのサウンドからは、大きな可能性とセンスを感じ取ることができる。このアルバム、すでに、今年の夏中、僕の耳元で鳴り続ける事が決まっている。

加藤普

【Blue Vacation 収録曲( )内はオリジナルアーティスト】

1. カナリア諸島にて(大滝詠一)
2. 常夏の池間― Ikema―
3. 横顔(大貫妙子)
4. 素直になりたい(ハイファイセット/杉真理楽曲)
5. 夏のクラクション(稲垣潤一)
6. Don't Know Why(ノラ・ジョーンズ)
7. MIDNIGHT LOVE CALL(石川セリ/南佳孝)
8. 曇り空(荒井由実)
9. Batucada(Brazilianポップススタンダード)
10. てぃーんずぶるーす(原田真二)
11. 夕暮れの横顔

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。