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中年男2人の「白熱教室」 謎多き「資本主義」についての知的問答

   アベノミクスで景気は上向きといわれる。しかし来年度以降は、消費税の値上げなどが迫り、漠然とした不安も潜む。そんな気分を先取りするかのように、徳間書店から『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』が出た。

成長のない社会でいかに生きていくべきか

「成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか」 水野和夫、近藤康太郎著 徳間書店 1400円+税
「成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか」
水野和夫、近藤康太郎著 徳間書店 1400円+税

   ずいぶん長いタイトルの本である。数えてみたら27文字もある。内容はともかく、見出しの長さでは今年の出版物の中でも群を抜いていることは間違いない。

   著者は日本大学国際関係学部教授の水野和夫氏と、朝日新聞文化部記者の近藤康太郎氏。この2人が「経済」を軸にしながら、世の中の「根本的な疑問」について語りあっている。というか、もっぱら近藤氏の質問に水野氏が答えるという体裁になっている。

   基本テーマは、タイトルにあるように、「成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか」。アベノミクスからユーロ、国家と財政、米国や中国経済、経済学とは?などを縦横に論じる。そしてあれこれ考え出すと疑問は際限なく広がり、帯にいわく、「人類が作り出した謎多き『資本主義』に正面から思考する知的問答」へと発展していく。

経済の専門家と音楽や文学をカバーする記者

   水野氏は1953年生まれ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフエコノミストや内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任し、「100年デフレ」など多数の著書がある。経済事象を人類の長い歴史や思想潮流の中で大きく捉える分析で知られる。一方の近藤氏は1963年生まれ。「リアルロック」「『あらすじ』だけで人生の意味が全部わかる世界の古典13」などの著書があり、音楽や文学を基点に幅広く文化ジャンルをカバーする。

   たとえば、近藤氏の質問はこんな具合だ。

――ピンク・フロイドに「マネー」という曲があります。「マネーはガスみたいなもんだ」と歌っている。ガスには「すごいやつ」という俗語の意味もありますが、「気体」つまり手にはできないものという二重の意味を持たせている。ところで、水野さん、「おカネ」「貨幣」って何ですか?

   ロックの話から、いきなり経済の根本問題に切り込んでいく。「ラジカル」である。対する水野氏の答えは? それは、本書の中に縷々記されている。

   かつて坂本龍一氏が哲学者、大森荘蔵氏と対話した『音を視る、時を聴く哲学講義』が話題になったことがある。本書はそのポップな「経済」バージョンといえるかもしれない。

   トシは中年(熟年?)だが、精神はいまだ青年――そんな二人による大人の「白熱教室」のようでもある。