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【書評ウォッチ】悪を助け弱きをくじく 「ブラック士業」は恥を知れ

   働く人を食いつくすブラック企業は、社会悪だ。ところが、悪を助けて労働者に悲鳴さえあげさせないことを仕事にするヤカラが今、はびこっている。『ブラック企業ビジネス』(今野晴貴著、朝日新書)は、どす黒い現状を告発した一冊。周辺に群がって稼ぐ弁護士、社会保険労務士。ブラック企業が増え続けるのには仕掛けがあった。【2014年1月12日(日)の各紙からⅠ】

抵抗をあきらめさせて報酬を得る

『ブラック企業ビジネス』(今野春貴著、朝日新書)
『ブラック企業ビジネス』(今野晴貴著、朝日新書)

   職を求める若者を囲いこんで、こき使い、むさぼりつくして辞めさせる。常識的には許されないはずなのに、ブラック企業はいっこうに減らない。そのわけが、この本でよくわかる。「背景には、決まって彼らがいる」という第一章のタイトルだけでピンとくる。え? 暴力団でも雇っているのか。そうではない。だからこそ、もっと悪辣だともいえる。

   ひどい職場実態に抗議し、あるいは正当な処遇を要求する人たちの前に立ちはだかる用心棒みたいなのがいるということだ。法律や制度の知識を武器に立ちはだかり、抵抗をあきらめさせて報酬を得る専門家を著者は「ブラック士業」とよぶ。

   知的用心棒といったらきれいすぎる。知的暴力団といったら言いすぎだろうが。弱い人の足を引っ張るブラックぶりは、「法と正義」のイメージからほど遠い。

人材を食いつぶす企業への対策は?

   違法スレスレの労務管理を悪徳経営者に入れ知恵し、ときには若者相手に訴訟の脅しをかける。行政の実態調査を阻むような動きもあるという。屁理屈をこねる前に恥を知るべきだ。

   国や自治体は「電話相談」あたりでお茶を濁しているかに見える。対策が進まない間にブラック「企業」とその用心棒「士業」がはびこっていく。若者たちの相談にのる著者自身がその種のヤカラから「脅し」を受けたことも、本は企業の実名入りで明かしている。朝日新聞の評者は詩人・水無田気流さん。ビジネスとは別論理の専門知識と対抗策が重要と強調しているが、この書評はなぜか「脅し」の部分には一切触れていない。

   『ブラック企業は国賊だ』(薗浦健太郎著、中央公論新社)は、元新聞記者の自民党衆院議員が日本の人材資源を食いつぶす企業への対策を論じる。日本型終身雇用の功罪から新しい雇用環境にまでを意欲的に考えている。読売の評者は無署名。

   ただ『ブラック企業ビジネス』で名指しされた企業の経営者が自民党議員の中にいる現実。これに著者はどう向き合うのか。個人と党は関係ないでは、まさか、すまないだろう。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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