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第3の照明「情感を呼び起こすライティング」とは 高い技術力とプロのテクニックで空間を演出するモデュレックス

   都内百貨店屈指の年間売り上げ2600億円を誇る伊勢丹新宿本店。この巨大商業施設の照明を担うのが、照明メーカー「モデュレックス」だ。照明器具のハードウェアと、空間を効果的に照らすテクニックのソフトウェアを組み合わせることで「情感を呼び起こす」という同社の仕事ぶりを曄道悟朗(てるみち・ごろう)社長に聞いた。

人の感情を演出する光

モデュレックス・曄道悟朗社長
モデュレックス・曄道悟朗社長

――なかなか照明メーカーというと一般読者の方はイメージができないかと思います。

   「まず申し上げておきたいのは、単に照明器具をたくさん売ることが私たちの目的ではありません。私たちが提供したいのは『情感』を呼び起こす照明環境です」

――情感を呼び起こす照明とは何でしょうか。

   「光は3つの分類ができると考えています。1つは太陽や月の自然光。2つ目は『見えていればいい、明るければいい』という、いわゆる電気を付ける『ライト』です。最後が空間を演出する照明。それを当社では、単なるライトと区別して、情感を呼び起こす『ライティング』と呼んでいます。そのためには照明器具を取り付けておしまいではなく、どうすれば来た人にお店側が持ってほしいイメージを訴えることができるのか。最適な空間を演出する照明を総合的に組み立てるのが私たちの仕事です」

――これまでどんな仕事を手がけられましたか。

   「伊勢丹新宿本店さまでは食品やレディース、メンズと幅広いフロアを担当しました。当初は各フロア、エリアごとに照明はバラバラでしたが、来店した人にどんなイメージを持っていただきたいかや、どんな気持ちでお買い物をしていただきたいかを企画段階からミーティングに参加しながら、お客さまの感情を演出する照明を提案いたしました。

   そのほか、商業施設ではエキュート品川さま、エチカ表参道さまにも当社の照明を選んでいただいています。気づかれていないかもしれませんが、意外とみなさんの身近なところで仕事をしているんです」

その時々にふさわしい情感を呼び起こす

――商業施設以外にもさまざまな施設で仕事をしています。

   「大変喜んでいただいたのが、恵比寿のステーキ店ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京さまです。美しいインテリアや内装との調和、どうすればお食事がおいしそうに見えるかということはもちろん、時間帯やお客さまの入り具合や各テーブルの状況に合わせて照明が変えられるように設定しています。

   10分くらいかけてゆっくりと照明が変わっても人間の目は気づきません。夕方から夜になる時、お客さんの構成が変わった時など、その日その時のお店の様子に合わせて少しずつ雰囲気が変えられるようにしています。いつ来ても単一的、同じではない空間には、その時々にふさわしい情感を呼び起こせる照明を意識しました。こうした設計はさまざまな人が行き交うホテルなどでも高く評価していただいています」

――細かな設計に応えるには、かなりの技術力がいるのでは。

   「当社はもともと産業用のハロゲンランプを、舞台照明のテクニックを応用して商業空間で使うところから始まりました。そこでは舞台が主役であって、照明が目立つ必要はありません。どのランプが点いたり消えたりしているか、お客さまに意識させない技術力をそこで培いました」

――冒頭で照明器具をたくさん売ることが目的ではないとおっしゃいました。

   「当社が追い求めているのは情感を呼び起こす照明だからです。テクニックの技量が古いと大量の照明器具を投入する乱暴な環境となってしまい、本来求められる情感は生み出せません。必要なところに効果的に光を配置するために、プロの技術力をプロのテクニックで演出する。これが当社の仕事です」

シンガポールの国立美術館の照明も担当

――曄道社長はもともと照明畑の出身ではありませんね。

   「学生時代から職業経営者になりたいと考えていました。銀行勤務で財務や経営について学びながら、常に『世の中が素敵になる仕事』を探していました。その中で、大手電器メーカーと単純に価格面や技術力で勝負するだけではないこの会社に魅力を感じました」

――社長に就任してから積極的に海外進出しています。

   「学生時代に留学をしていたので海外や英語への抵抗はありませんでした。ですから物を売りに行くというよりも、『照明は明るいだけじゃない。情感を持って来よう、そうすれば照明の数は減らせる』など照明のあり方についてさまざまに議論しに行ったんです。それが海外のカルチャーにフィットして、『面白いからやってみて』という話になりました。

   2008年ごろから積極的に議論をしに打って出て、アジアやアメリカに進出。今年の夏にはヨーロッパに支社を構えます。一昨年に現地法人を設立したシンガポールでは、国立美術館に照明を納入させていただていています」

――進出には困難も多いのでは。

   「私自身、大儲けが目的ではないんです。海外の成功者みたいに、余生はバハマでのんびり暮らすとかね。世の中がもっとよくなった方がいいよね、という考えでいつも仕事をしています。その中で、日本の会社として仕事をすることで貢献していきたい」

――日本の会社としての仕事とはどんなことですか。

   「まず丁寧であること。そして、話を聞く技術を大切にすることです。ハードウェアだけで勝負するのではなく、ソフトウェアを組み合わせることによってお客さまのニーズに対して最適なソリューションを提供する。これこそがメイドインジャパンの仕事だと考えています」

   『情感を呼び起こす』モデュレックスの照明が採用されているのは、大型商業施設やレストラン、ホテルだけではない。学校や病院、オフィスなどにも広がり、そこで過ごす人たちにとって欠かせない空間を演出している。国内外で評価を高める仕事ぶりは、今後さまざまな場面で注目を集めていきそうだ。