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「俺についてこい」の上司 岡本真一郎さんが明言「ついていくな」

   プレジデント(9月17日号)の「職場の最新心理学」で、社会心理学者の岡本真一郎さんが「俺についてこい」型上司について解説している。さて、ついていくべきか。

   数あるビジネス誌でも、マクロ経済の分析より人事や経営術、リーダー論などのコンテンツが目立つ同誌。企業内の人間関係も読者の関心事と思われる。

「自信満々な上司は、ことドラマや小説では格好良く描かれます。ひと昔前は、『日本男児』あるいは『姉御肌』な頼れる上司だったかもしれません」

   この冒頭からして、「黙って俺についてこい!」への岡本さんの異見、もっと言えば嫌悪がうかがえる。そんな上司に限って「口ばかりで、実績を残せず出世をしない人も多いものです」という筆者は、彼らの問題点として

(1)自分のやり方がすべてと思い込んでいる。
(2)過去の成功体験に囚われ、他のやり方に目を向けることができない。
(3)それゆえ他人の言うことを聞き入れない。

...とたたみかける。このタイプにはカリスマリーダーもいるが、それはひと握りだと。

「昨今のパワハラ上司や、日大アメフト部や日本ボクシング連盟などのスポーツ界で立場を築いた人たちの不祥事を見るにつけ、『カリスマ』という虚像は脆いものと思います」
  • 「ついてこい」とは言われたけれど…
    「ついてこい」とは言われたけれど…
  • 「ついてこい」とは言われたけれど…

自分をアップデート

   ここまで説いた心理学者は、いいいよ「オレ流」上司に決定的なダメ出しをする。

「一つの方法がいつまでも通用するような、単純な価値観で処理できる仕事はどんどん世の中から減ってきています。むしろ、複眼的に物事を捉え、仕事にあわせて自己をアップデートできる人材のほうが、今後活躍できると言えます」

   その際、大切なのは「内省的になれること」だという。たとえば、岡本さんのコラムに「自分にも直すべきところがあるな」と思えたら大丈夫、「こんな奴がいるのか」と他人事のように思う読者はかなり危険、というのである。

   内省的になれないとはどういうことか。「自己評価と、他人からの評価をきちんと冷静に分析できない。言い換えれば、他者からのフィードバックを活かせない人です...他者の考えを受け取れない人はリーダー向きではなく、上司にもなってはいけません」

   岡本さんは、あらゆるところにリスクが潜む複雑な現代社会において、「特定の誰かについていったら万事安全」なんてことはあり得ない、と強調する。

「何が起こるかわからない社会では、どの人にどう接するか、どれくらい人間関係の『幅』を持つか、きちんと自分自身で思考し続けることが大事です」

   すなわち、「俺についてこい」的な自己流はその「幅」が見えていない証左でもある。

「それだけでも、ついていかないほうがいいと言えるでしょう」

面従腹背のススメ

   上司についって行ったはいいが、振り返れば誰もいないという状況はビジネス界でもありがちだ。ただ今どき、飲んだ勢いにせよ不用意に「俺についてこい」などと言う管理職は少ないだろう。そんな「昭和型」について行く若手はさらに珍しい。

   岡本さんは、不幸にも「俺に...」型の部下になった場合の対処法も記している。それは、面従腹背しながら反面教師として糧にする、というものだ。なんというハードボイルド。

   昭和末期に駆け出し記者だった私は、以上の指南を読んで片手に余る顔を思い浮かべた。酔うたびにじっとこちらの目を見て、「君は...俺と一緒に死ねるか」という先輩もいた。幸い、夕刻までは合理的な思考をする人で、そう言われるたびに「イヤですよそんなの」と返した私も生き残れた。

   男も女も、ひとたび社会に出たら基本は孤独である。上司や部下との人間関係も、自己責任で乗り越えるほかない。とりあえずついて行くべきは、己の良心と直感だろう。結果の吉凶はともかく、後悔しないにはそれに限る。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。