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ジャーナリストはなぜ危険なところへ行くのか 取材の「重要性」と「自己責任論」

   シリアから無事解放されたフリージャーナリストの安田純平さんが日本記者クラブで会見し「解放に向けてご尽力いただいた皆さん、ご心配いただいた皆さんにおわびします」と深々と頭を下げ、今後については白紙だと述べた。危険な地域を取材するジャーナリストの重要性と自己責任論――。今回は紛争地での取材体験や危険回避の方策などを紹介するとともに、戦場ジャーナリストについて考えてみたい。

   J-CASTニュースの書籍サイト 「BOOKウォッチ(http://books.j-cast.com/)」でも特集記事を公開中。

「それでも、誰かが行かなければならない」

   2015年に起きた「イスラム国」による後藤健二、湯川遥菜両氏の人質・殺害事件は大きな衝撃を与え「そんな危険なところに行く必要があるのか」と非難が上がった。危機感に駆られたジャーナリストたちが「それでも、誰かが行かなければ」と訴えたのが『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(編・危険地報道を考えるジャーナリストの会、集英社、821円)である。

   新聞社、通信社、テレビ局やフリーランスなど立場を超えた石丸次郎、川上泰徳、横田徹、玉木英子、及川仁、内藤正彦、高世仁、綿井健陽、高橋邦典、土井敏邦氏の10人が紛争地で取材した体験を踏まえ、自己検証と危険回避の方策を提示する。

   内容は「後藤健二氏の人質・殺害事件がもたらした影響」「"イスラム国"取材、その一部始終」「戦場の人々を見つめるまなざし」「テレビの『危険地取材』はどう変わったか」「戦争報道を続けるために」「危険地報道とジャーナリスト」など。

戦地取材の魔力にはまったカメラマン

   『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』(著・横田徹、文藝春秋、1620円)は、戦地取材の魔力にはまった日本人カメラマンの壮絶な体験記である。「(中略)私はアフガニスタンでの従軍取材、そして危険が生み出す興奮に満ちた『戦場』という麻薬の虜になった。最高の幸せだった」と語る。

   カンボジアでは初めての戦場で死体の山を撮った。アフガンではタリバン、米軍双方に取材し、至近距離に砲弾が炸裂した。シリアではイスラム国の拠点取材に成功したが、国境で窮地に陥った――。「名ばかりの"戦場カメラマン"はこの人の前ではハダシで逃げ出す」と、「不肖・宮嶋」こと、報道カメラマンの第一人者といわれる宮嶋茂樹氏に「横田氏こそホンモノ」と太鼓判を押された。

   第1章の「同時多発テロ以前――タリバン従軍」から「インド洋・リビア」、「流浪の聖戦士」など全11章。1997年からフリーの報道カメラマン。2010年に中曽根康弘賞・奨励賞を受賞した。

後藤健二さんがイスラム国に向かった理由

   「イスラム国」により命を奪われた後藤健二さんが20年にわたり世界の紛争地を取材し、戦禍と人権侵害にあえぐ子どもたちに寄り添う報道を続けた動機はなんだったのか。

   『ジャーナリスト 後藤健二』(栗本一紀、法政大学出版局、1512円)は、フリーの映像ジャーナリストで志を共にした著者・栗木一紀さんがその真実を描く。

   後藤さんがジャーナリストになるまでのジャーナリズムとの出会いと歩み、私たちが知らなかった後藤さんのこと、その信仰心、イスラム国に向かった理由についても語る。このほか、映像ジャーナリストの仕事の流れ、難民キャンプでの撮影、テレビ報道の世界など「ジャーナリストという職業」や「ジャーナリズムの意義」に関しても具体的に解説している。