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人を癒す「チョコレート」の魅力 チョコジャーナリストが2021年の流行を語る

   【識者が大予想!2021年】

   2020年は、新型コロナウイルスによって人々の生活が大きく変化した。在宅時間が増え、張り詰めた空気が世間を覆う中で、甘い「チョコレート」に癒された人も多いのではないだろうか。

   筋金入りのチョコ好きで、テレビ・雑誌などで情報発信するチョコレートジャーナリストの市川歩美さんに、新型コロナを踏まえて今後流行しそうなチョコレートについて聞いた。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・宮崎くる澪)

  • チョコレートジャーナリスト・ショコラコーディネーターの市川歩美さん(写真は市川さん提供)
    チョコレートジャーナリスト・ショコラコーディネーターの市川歩美さん(写真は市川さん提供)
  • チョコレートジャーナリスト・ショコラコーディネーターの市川歩美さん(写真は市川さん提供)

日本で独自の盛り上がりを見せるBean to Barチョコレート

――まず、ここ数年流行っているチョコレートについて教えてください。

市川 ここ2~3年は、「カカオ」自体に注目が寄せられています。とくにカカオ豆からチョコレートになるまでの工程を一貫して手掛ける「Bean to Bar」という製造スタイルが盛り上がりを見せていますね。2000年代初頭にアメリカで生まれたムーブメントで、例えばワインやコーヒーのように「ブラジル産はこんな風味」など、カカオそのものの個性が楽しめます。現在日本にも120以上のブランドがあります。

――日本のBean to Barチョコレートに特徴はありますか?

市川 日本人好みの「お菓子」に昇華させている点でしょうか。Bean to Barチョコレートはカカオの個性を生かすため、カカオを70%以上にすることが多いんです。アメリカでは加工されたものは少なくて、文字通り「チョコレートバー」がメインです。でも日本人は苦みや酸味があるものより、もっと甘くておいしいものを好みやすい。そのため、ガトーショコラやプリン、シュークリームなど独自の工夫でお菓子にしたものが多く出ています。また、板チョコ1枚2000円には手を出さないけれど、ケーキやお菓子になったら2000円でも手を出す人が多い印象です。日本ではチョコレートバーだけではまだハードルが高いのでしょう。違いが見られて面白いですね。

キーワードは「個性が楽しめ、健康的で、ホッとする」

――では、2021年は日本でどんなチョコレートが流行ると予想されますか?

市川 まず、いろんな産地のカカオを楽しめるBean to Barチョコレートは主にチョコ愛好家を中心に今後も流行ると思います。次に、健康志向のチョコレート。新型コロナの影響で、皆さん健康意識が高まっているかと思います。カカオは健康効果が期待できる食べ物のため、とくに70%以上のハイカカオのものを選ばれる方は今後も増えそうです。最近はカカオ70%以上でも各メーカーの努力によって苦みや渋みの少ないおいしいものが出ていますよ。そして、「心がホッとするようなお菓子的チョコ」。コロナ禍で緊張感のある中、チョコパイやクッキーのチョコがけなど、なんとなく心温まる要素のあるような、チョコ菓子みたいなものを求める人は引き続き多くなるのではないでしょうか。

――なるほど。ホッとするようなチョコとは、具体的に?

市川 賞を取ったから、世界一だから、など外の評価とは関係なく「私が気に入っているから」、「私が食べるとホッとするから」といった「私基準のチョコ」でしょうか。日本人基準のチョコ、といってもいいかもしれません。私自身、今年は新型コロナの影響で渡航もすべてキャンセルに。在宅時間が増え、海外のエッジの効いたチョコレートより馴染みのある味のチョコを求めた時期がありました。人が新しいものにチャレンジできる時は余裕があるときで、そうでない時は「安心・安定」を求めてしまう傾向は、やはりありますよね。心の状態とチョコの選び方は関係していると思うんです。

チョコレートは「元気や夢を与えてくれる」

――新型コロナの影響によって、選択される商品にも変化が生まれるとの見立てですね。コロナが猛威を振るった2020年、チョコレート業界にはどういった変化が見られましたか?

市川 オンラインショップを強化するブランドがとても増えました。商業施設が閉まっていた時期もありましたし、店頭ではなく家でチョコレートを購入する方がすごく多かった。各ブランドもオンラインショップの商品数を増やし、ページレイアウトを工夫し、ウェブ上に広告を出すなど試行錯誤しています。ただ、需要の変化については、一概には言えません。スーパーで買える大袋のチョコレートや板チョコは需要が増えています。しかし、デパートにあるような高級店や専門店は閉店を余儀なくされ、厳しかったと聞いています。

――単にチョコレート業界、と一括りはできないのですね。

市川 ローカルな店は地元の人が買いに来て逆によく売れた、という話もある一方で、いろいろ大変なブランドもありました。観光地が全滅してご当地チョコなんかも売れなくなりましたし。チョコが売れないとカカオの単価が安くなって、世界のカカオ農家は貧しくなってしまいます。ただ、それでも今はオンラインショップが一般的になりつつありますし、チョコレートは根強い人気です。これからも盛り上がっていってほしい、と心から思います。

――どうしてチョコレートは人気なのでしょう。ずばり、魅力は何だと思いますか?

市川 チョコって、一見すると茶色い塊じゃないですか。でもそれが作り手によって、美しい見た目、味、香りに仕上げられる。チョコだけでなく、商品パッケージ、ショッピングバッグ、直営店であればインテリアや制服も含めてすべてがそのブランドの「世界」になっています。私たちは、こだわり抜いて表現された「最高のもの」に、少し手を伸ばせば触れられるんですよね。それに、日本のマスマーケットのチョコも本当に安くておいしいですから。そうした最高の体験は、人を豊かにすると思うんです。私はチョコレートジャーナリストとして情報を伝えることで、今後も業界全体を応援していきたいです。人に元気や夢を与えてくれるものですからね、チョコレートは。

○プロフィール
市川歩美(いちかわ・あゆみ)
チョコレート愛好家。日本で唯一のチョコレートジャーナリスト・コーディネーター。幼少期からチョコレートの虜になった。民間放送局に入社後は番組企画・制作に携わり、本業をこなしながら2003年にペンネームでブログをスタート。次第に得意分野のチョコレートに特化した情報を発信するように。今ではテレビ、雑誌、イベントなど各メディアで365日チョコレート・カカオの情報を届けている。また、番組や記事の監修・企画・商品プロデュースも手掛ける。