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コロナ「クラスター発生」が止まらない それでも「非公表」に不安と批判

   コロナ第4波が進行する中で、相変わらず各地でクラスターが発生している。中には多数の死者が出ているのに当局が公表していないケースもある。風評被害などとの関連もあり、クラスターの公表や報道には難しさが付きまとうが、コロナの拡大が収まらないだけにインターネットには不満の声が寄せられている。

  • 施設での感染拡大は今も(写真と本文は関係ありません)
    施設での感染拡大は今も(写真と本文は関係ありません)
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読売新聞が独自取材で公表

   読売新聞は2021年5月6日、神戸市長田区の高齢者施設で、入所者ら100人超が新型コロナウイルスに感染するクラスター(感染集団)が発生、このうち10人以上が死亡したことがわかったと報じた。4月14日に最初の感染者が確認されたが、市内の病床が逼迫し、患者の多くは施設内で療養していたという。

   市はこのクラスターを公表しておらず、「クラスターを精査する業務が遅れていた。近日中に発表する」というコメントが載っていた。

   市は7日夜になって、同市長田区の介護老人保健施設「サニーヒル」で、入所者97人、職員36人の計133人が感染する大規模クラスターが発生し、70代以上の入所者25人が死亡したと発表した。感染者も死者も、読売新聞の報道時よりさらに増えていた。

   同紙は5月7日にも、大阪府門真市の高齢者施設で4月中旬以降、少なくとも入所者と職員の計61人が新型コロナウイルスに感染するクラスターが発生し、このうち入所者の男女14人が死亡したと報じた。4月11日に入所者2人が発熱し、PCR検査で陽性と判明。その後、施設内で感染が拡大し、入所者39人、職員22人の感染が確認された。入院先が決まらず施設で療養中だった入所者を含む14人が死亡したという。亡くなったのは施設定員(44人)の3分の1に相当するという。

   この記事も「市などへの取材でわかった」「市関係者などによると」と、独自取材をうかがわせる書き方になっている。

あふれるいら立ち

   コロナ禍のクラスターは、大手メディアの独自報道を通じて発生を知ることが少なくない。今回も、ネットには報道でクラスターを知った人から3000以上の膨大な数のコメントが寄せられている。

   目立つのは、多数が死亡しているのに、公表しないのはおかしいというもの。「ありえない」とあきれる声が多い。ほかにも重要な情報が隠蔽されているのではないか、と政府や自治体などの発信する情報への不信を口にする人もいる。

   こうした「感染情報の隠ぺい」については、もはやあちこちで常態化しているという声も多い。学校で感染者が出ても一切公表しない、かつては学年だけは公表されていたが、今はそれもなくなった、父兄同士の口コミでしか伝わらない、学級閉鎖なども含めてかん口令が敷かれているという指摘だ。

   感染の公表は風評被害、誹謗中傷などにつながりかねない。このため関係する自治体は慎重な対応をするところが多い。しかしクラスターについては、公表のプラス面を主張する人がネットでは圧倒的だ。公表されることで、多くの人が身近なところで感染が拡大していることを実感し、警戒心を高めることが可能というわけだ。

   「高齢者施設」でクラスターが発生しやすいことは明らかなので、ワクチン接種は、こうした施設の職員を優先させるべきではという提言もあった。

   施設の職員からは、施設で感染者が出た場合、入院できずに施設で看病しなければならないので「怖い」という現場の切実な声も。医療のひっ迫で高齢者の入院は後回しにされがちなのだ。

   また、多くの施設は、収益をあげるためデイサービスやショートステイを併設しており、職員だけ感染予防を徹底しても、利用者やその家族からの感染は防ぎようがないという訴えもあった。

   発生から二年目に入っても、相変わらず迷走しているコロナ対策に対する様々な立場の人のいら立ちがネットにあふれている。

19世紀のロンドンよりも劣る

   コロナの感染者数などはどの自治体も公表しているが、細部にわたってきちんとした公表基準があるわけではない。

   東京都の場合、なぜか当初は市区別の感染者数が公表されなかった。23区のどこで感染者が多く発生しているのか、さっぱりわからない。昨年4月1日、読売新聞が「独自ニュース」として、「歌舞伎町で十数人感染」と報じたころから急に市区別情報が公表され、区によって感染者数に相当の差があることが判明、繁華街規制の話が浮上した。

   『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)によると、19世紀のロンドンは衛生状態が悪く、しばしばコレラが流行した。このときロンドン市は、コレラ死者に対し精密な調査をした。「死亡週報」には、死者の年齢、性別に加え、居住地の標高や、飲料水をどこから得ていたかも記入して公表した。

   いわば、「疫学的」データが蓄積された。当時としては画期的な情報公開だ。医者の一人が、コレラ死者の居住地と井戸の関係について詳細な地図を作成し、「飲料水原因説」が有力になる。コレラ菌の発見は1883年だが、その前の1850年代半ばには飲料水に注意する必要があることが突き止められていた。詳細な「死亡週報」がコレラの原因究明に役立ち、「公衆衛生」の角度からの究明が奏功した。

   日本では今も全国で情報公開の対応がバラバラ。最近も札幌市で5日、プロ野球・北海道日本ハムファイターズのクラスターがわかった。同市保健所は、市内のプロスポーツチームで選手7人、スタッフ3人の計10人が感染したことが確認され、行動歴などからクラスターと認定したと発表したのみ。チーム名は非公表としていたが、読売新聞によると、球団側がクラスターと認定されたことを明らかにしたという。

   東京では変異ウイルスが拡大する中で保育施設のクラスターが急速に増えており、保護者にとっては一段と情報公開が気になる状況になっている。