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IOC幹部の態度が鼻につく 日本でコロナ感染拡大しても「それより五輪」か

「緊急事態宣言下でも東京五輪を開催する」

   国際オリンピック委員会(IOC)幹部のこんなタカビーな発言が、日本人の神経を逆なでしている。IOCはなぜあんなに偉そうにしているのか。

  • アマチュアスポーツの祭典だった五輪は、プロも含めた巨大ビジネスに
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「ホテルは5つ星」

   IOCのジョン・コーツ副会長は、「世論の反対が強くても我々は我々の仕事をするだけだ」と記者会見で語った。トーマス・バッハ会長も、「我々は五輪に犠牲は支払わなければならない」と述べた。あとで「『我々』は『日本国民のことではない』」と修正したが、時すでに遅しだ。怒りの声はネットにとどまらなかった。

   作曲家の三枝成彰さんは日刊ゲンダイで、「今回の発言を聞いて、西洋人はやはりアジア人を見下しているのだな、と思った。日本人を、まるで奴隷か召し使いのようにしか思っていないように見える。はっきり言って国辱ものだ」と怒りをぶちまけた。

   五輪で来日するIOC幹部は高級ホテルに宿泊するということも報じられている。それだけに、「失言相次ぐバッハ会長 『ホテルは5つ星』のVIP来日に冷視線」(女性自身)などという冷ややかな記事も出ている。少なくとも多くの日本人がIOC幹部を歓迎するという雰囲気でないことは確かだ。

開催中止したら...気になる契約内容

   世界がコロナ禍にもかかわらず、どうしてIOC幹部は開催に向けて突っ走っているのか。大きな理由とされているのは、テレビの放映権料だ。中止になると、何千億円という収入を失う。できる限り開催したい、というわけだ。

   仮に、日本が開催中止を決断すると、多額の賠償金を払わざるを得なくなるとの見方もある。契約内容をめぐって様々な解説が行われているが、はっきりしたことはわかっていない。そのあたりを見越してIOCは強気なのだ、という解説もある。

   IOCの五輪収入の一部は、やや地味な競技の助成金にも回る。したがって、コロナ禍でも可能な限り五輪開催を希望する、という競技団体は少なくないとも言われる。

   19世紀末に始まった近代オリンピックは長年、アマチュアスポーツの祭典だった。しかし、大会が大掛かりになるにつれ、国家の威信をかけたものになる。

   戦後、ソ連に代表される旧社会主義国が国を挙げてスポーツ強化に取り組み、好成績を残すようになった。いわば国費育成だ。さらに1976年のモントリオール五輪が大赤字だったこと、五輪での成果をスポーツ用品メーカーが競うようになったこと、テレビから放映権料が取れるようになったこと、などから商業化が進む。92年のバルセロナ大会あたりからプロ選手の参加も広がった。

   アマチュアスポーツの祭典は、プロも含めた巨大ビジネスに。今や五輪は、大手広告代理店が何年も前から深く関わり、カネにまつわる運営全般を仕切る。

会長は130年に及ぶ歴史で9人

   時代の波に押され、変容を強いられてきた五輪だが、変わらぬものが二つある。

   一つは会長の長い任期。130年に及ぶIOCの歴史の中で、会長はたったの9人しかいない。第2代のピエール・ド・クーベルタン(1896-1925)、第5代のエイベリー・ブランデージ(1952-72)の二人は特に長い。

   さらにもう一つの特徴は会長に「貴族」が多いことだ。クーベルタンは男爵、続く第3代のアンリ・ド・バイエ=ラトゥール(1925-42)は伯爵、第6代のマイケル・モリス・キラニン(1972-80)は男爵、7代のフアン・アントニオ・サマランチ(1980-2001)は侯爵、8代のジャック・ロゲ(2001-13)は伯爵 。過去9人の会長のうち5人が爵位を持っている。

   現在のトーマス・バッハ(2013―)は貴族ではないが、弁護士として多くの大企業とビジネスをしてきた「上級国民」だ。米メディアはバッハ会長を、「ぼったくり男爵」と揶揄したが、それは歴代の会長に貴族が多いことを承知しているからだ。

   IOC幹部たちの一連の尊大発言の背景には長年、「貴族」が会長を務めてきたという特殊な歴史が投影されているのかもしれない。

ボランティアは10日間拘束でタダ働き

   こうしたIOCの特殊構造は「ボランティア」にも当てはまる。2018年刊の『ブラックボランティア』(角川新書)は、「五輪の利権構造とボランティア搾取」を取り上げている。「東京五輪のスポンサー収入は推定4000億円以上。ボランティア11万人は10日間拘束で報酬ゼロ。しかも経費は自己負担」。ちょっとブラックぶりがひどすぎませんか、と指摘する。これもトップを貴族が占めてきたIOCの歴史を振り返れば、理解しやすいかもしれない。

   5月29日には、IOCが選手らに用意している同意書の内容が報じられ、波紋を広げた。「新型コロナウイルスや猛暑で死亡した場合も自己責任」という項目が加わっていることが分かったからだ。ジカ熱が問題となった16年リオデジャネイロ五輪ですら、感染症や熱の項目はなかったという。

   さっそく「コロナで死亡も自己責任! 五輪参加同意書が世界で大波紋『これは生死同意書』」(東京スポーツ)と報じられている。