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北海道コンサドーレ札幌・田中駿汰の「自信」 一対一の守備は五輪で、世界で勝てる

【目指せ!東京2020】

   田中駿汰選手(北海道コンサドーレ札幌)の転機は、「プロを目指してはいたが、高校卒業後にオファーがなかったので進学した」という大阪体育大学(大体大)で訪れる。

   大体大の練習は、本連載にも登場した坂本康博名誉監督が考案した特殊なもの。この出会いが攻撃的なボランチだった田中選手を、守備も出来るハイブリットなプレーヤーに進化させた。(インタビュアー・石井紘人 @ targma_fbrj)

  • 北海道コンサドーレ札幌でプレーする田中駿汰選手 (c) 2021 CONSADOLE
    北海道コンサドーレ札幌でプレーする田中駿汰選手 (c) 2021 CONSADOLE
  • 北海道コンサドーレ札幌でプレーする田中駿汰選手 (c) 2021 CONSADOLE

メンタルの成長を実感

田中:僕は特に「色」がなかったので、坂本総監督(現:名誉監督)の理論はスっと入ってきました。高校までは守備は得意ではなかったのですが、大体大は守備を大事にするチームで、対人練習を毎日やっていました。接触の技術を使って、ボールを奪うのですが、割とすぐに自分のモノにできました。大学に入って、守備はすごく成長したと思います。

――その守備力と展開力を買われて、2019年5月には東京五輪に臨むU-22日本代表に選出され、フランス・トゥーロン国際大会に出場します。同年には強化指定選手として北海道コンサドーレ札幌でJ1リーグ戦にも出場しますが、壁を感じましたか。

田中:代表チームとの真剣勝負は初めてだったので、身体能力で驚かされた部分はありました。でも、大体大でつかんだ自分の接触技術は海外でも通用するなと思いました。それで、準優勝と結果にも繋がったと思います。
 J1リーグも同じで、大学生相手からプロになり多少のスピードの違いはありましたけど、対応できる範囲内でした。

――ただ、2019年11月に行われたU-22コロンビア戦(0-2で敗戦)では「メンタルの部分が足りないと感じた」そうですね。この試合は、堂安律選手(PSV、当時)、久保建英選手(レアルマドリード、同)がU-22日本代表で初の先発そろい踏みということで、メディアの注目も高かった。

田中:すごく注目されていると感じましたし、(スタジアムは)満員でした。そういった中での試合経験がなかったので、環境に飲まれたというのはあります。
 コロンビアは強いチームでしたが、本来なら(互角に)やれる力はあったのに、半分も出せなかった。たとえば、普段であれば危険なエリアではないと判断出来る縦パスだとしても、「奪われてカウンターになったら...」と考えて、勝負のパスを出せなかった。そういう考えを持っていると、実際にも悪い方向に流れていってしまうなと学びました。
 今は多くの試合をこなしているので、メンタルの成長に繋がっていると思います。試合中は、ミスもあれば成功もあります。一つ一つのプレーや動きで、トライを忘れずにやっていけば、自然と色々なことに対応できるメンタルが出来てきます。試合後の帰りのバスでは映像を見て、客観的に、自分の視点で「見えていなかったこと」を確認し、「こうした方が良かったな」と分析し、次に繋げていく意識です。

――コロンビア戦の経験を生かしているのですね。田中選手自身は、日本と強豪国との差はどこだと感じていますか。

田中:個人で試合を決められる選手がいるかどうか。どれだけチームが劣勢でも、個人技で1点とって勝つチームは強い。どのポジションでも、最後の得失点に繋がるプレーで、それぞれが責任を果たし、チームプレーをした上で、自分の能力を出していけるのが強豪国ではないでしょうか。

「金メダル」信じて応援してほしい

DFで活躍する田中選手 (c) 2021 CONSADOLE
DFで活躍する田中選手 (c) 2021 CONSADOLE

――コロンビア戦は満員だったとのお話でしたが、東京五輪が開催された場合は無観客試合になる可能性があります。

田中:無観客でも満員でも変わらないですね。無観客はJリーグで慣れています。

――東京五輪代表に選ばれたら、どのようなプレーを見て欲しいですか。

田中:僕は後ろの守備のポジションで出ることが多いので、予測、一対一の守備で負けないところ。あとは、後ろからボールを繋げて、前に運んでいくのですが、その後ろのパスの組み立ての中から、縦パスを出すプレー。僕からパス一本でゴールが生まれることもあるので、注目して欲しいです。

――東京五輪に臨むU-24日本代表チームに必要な、ファンのサポートはありますか。

田中:マイナスなことを言われると燃える選手が多いチームなので、悪い時はブーイングがあっても平気です。ただ、金メダルを目標にしているので、そこを信じて応援してもらえると力になります。試合前にSNS見ている選手も多いので、応援メッセージは試合へのモチベーションになると思います。

けが「もう治っています」

東京五輪メンバーでの選出を目指す(写真左が田中選手) (c) 2021 CONSADOLE
東京五輪メンバーでの選出を目指す(写真左が田中選手) (c) 2021 CONSADOLE

   今年3月に行われた東京五輪U-24日本代表候補合宿ではけがで離脱になり、東京五輪前、最後となる今月の親善試合(vs日本代表、vsU-24ガーナ、vsジャマイカ)の選出は見送られてしまった。「今回は特に連絡はありませんでしたし、選出されなかったのは最近の自分のパフォーマンスから考えると妥当です」と本人は冷静だが、東京五輪出場を諦めたわけではない。J1リーグ戦でのパフォーマンスは向上しているし、元々はけがに強い選手。「もう治っています」と、今回のインタビューで明かした。

「2008年の北京五輪から『五輪』という大会(でのサッカー競技)は知っていましたが、注目して見ていたわけではないです。自分が選出されるまで、意識していなかった」

   この時はひょうひょうと話していた田中選手だが、取材の最後には「もちろん金メダルを狙いますし、チームの共通認識でもあります」と力強い言葉を残してくれた。

   田中選手が招集されなかった6月5日の日本代表戦では、東京五輪U-24日本代表は0-3で数字以上の完敗となってしまった。試合後、専門家の間では「縦パスを入れられる選手がいなかった」と田中選手待望論が上がっていた。

   東京五輪まで残り42日、日本代表経験もあり、東京五輪U-24日本代表の課題も解決出来る田中選手に期待したい。


田中駿汰(たなか・しゅんた)
1997年5月26日生まれ。
幼稚園生からサッカーを始め、北斗サッカークラブからガンバ大阪ジュニアユースに入るものの、ユースには上がれず履正社高等学校サッカー部に。プロ入り希望もオファーはなく、大阪体育大学学友会サッカー部に入部、ここで才能が開花する。
大学3年次の関西学生リーグ1部優勝に貢献すると、2019年5月には東京五輪を目指すU-22日本代表に選出される。トゥーロン国際大会に出場し、銀メダルを獲得。以降、東京五輪を目指すチームの中軸として選出され続ける。
同年6月にはユニバーシアード日本代表に選出され、優勝。12月にはEAFF E-1サッカー選手権2019に出場する日本代表に選出され、A代表デビューした。
2019年7月から北海道コンサドーレ札幌の特別指定選手として、大学生ながらJ1リーグでプレーし、卒業と同時に北海道コンサドーレ札幌に加入した。
鋭い予測に加え、スピードもあり、周囲との連携もしっかりと築ける。センターバックやボランチなど守備のスペシャリストでもある。FIFAワールドカップは、「見始めたのは2006年ドイツ大会から」と話す。目標とする選手はモドリッチ(レアルマドリード)。

文:石井紘人(いしい・はやと)
ラジオやテレビでスポーツ解説を行う。主に運動生理学の批評を専門とする。著書に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)『足ゆび力』(ガイドワークス)など。 『TokyoNHK2020』サイトでも一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、「静寂から熱狂そしてリスペクト」などを寄稿。
株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作した『審判』、日本サッカー名シーン&ゴール集『Jリーグメモリーズ&アーカイブス』の版元でもある。