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熱海土石流で分かった「災害リスク」 「都市外縁」に「盛り土」が重なる

   静岡県熱海市伊豆山で2021年7月3日発生した大規模な土石流。多数の行方不明者の捜索が続いている。県はこの土石流の最上流付近に、「開発行為」による盛り土があったとしたうえで、これを含む土砂の崩落が「被害を甚大化したものと推定される」との見解を公表している。

  • 熱海で土砂災害(写真:Abaca/アフロ)
    熱海で土砂災害(写真:Abaca/アフロ)
  • 熱海で土砂災害(写真:Abaca/アフロ)

背後の山が崩れる

   各社の報道で大規模な災害が起きたメカニズムが次第に明らかになっている。日経新聞は6日の朝刊で「盛り土に水たまり崩落」という専門家の分析を紹介している。後から盛り土をしたような地盤は水を通しやすいのだという。今回は山肌の比較的深いところまで崩落していることもあり、さらに調査の必要があるようだが、「盛り土を起点に始まった可能性」が指摘されている。

   こうした土砂災害については、『宅地崩壊』(NHK出版新書)が詳しい。著者の釜井俊孝さんは京都大学防災研究所教授。

   同書では、宅地崩壊の起きやすい場所として、まず「都市外縁」を挙げている。山裾の扇状地に住宅地が広がっているエリアだ。背後の山が崩れると被害が拡大する。2018年の西日本豪雨では、広島県内で多数の土砂災害が発生、87人が亡くなったが、広島では1999年、2014年にも同様の災害があった。

   考古学的に検証すると、広島の被災地域では15~16世紀にも大規模な豪雨災害が起きていることが分かっているという。斜面が崩れたりすることは稀だが、数百年という単位で見ると、繰り返されている。

   一般論として、今回の熱海市のような背後に山を抱えている場所のリスクがあることがうかがえる。

「盛り土マップ」でチェック

   ただし、こうした土砂災害は市街地でも起こる。これは主として「盛土」がもたらすものだ。平野部は平らに見えても元々は凸凹がある。戦後は丘の屋根部分や崖をブルドーザーで削り、谷を埋めて地ならしをして宅地化してきた。山の手の宅地造成地、あるいは郊外のニュータウンでも「基土」と「盛土」の部分が入り混じる。

   1995年の阪神淡路大震災では「震度6」のエリアで約200か所の宅地崩壊が起きた。このうちの半数が「盛土地すべり」だったという。特徴的だったのは、西宮市から神戸市に至る被災地の中で、戦前からの住宅地では被害が少なかったこと。戦後になって新たに開発された「盛土」の住宅地に被害が集中した。著者は「同じような『盛った』ブランド宅地は、東京や大阪などにも広く見られる」と警告する。

   2011年の東日本大震災で、仙台市では丘陵に広がる住宅地が被害を受け、多数の家屋が損壊した。津波ではない。谷埋め盛土地すべりが発生したためだった。

   「盛土」については「宅地造成履歴等情報マップ」がつくられている。同書ではこのマップの「自治体格差」「精度格差」がひどいことも指摘している、結論から言うと、横浜市は精密、東京都は大甘だという。

ツケは損害保険の契約者にも

   今回の災害の引き金になったのは「集中豪雨」だ。短時間に大量の雨が降るので、被害の予測が難しい。日経新聞は社説で、熱海市が「『避難指示』を出さなかったのを責めるのは酷だろう」と書いている。

   しかし最近は、全国各地で「経験したことのない雨量」や「100年に一度の増水」などが報じられ、大きな被害が発生している。『人に寄り添う防災』 (集英社新書)は「災害列島化」しつつある日本の状況を振り返り、防災対策の再考を促す。著者の片田敏孝さんは災害情報学・災害社会工学の専門家。

   片田さんは地震や噴火などの「地象災害」よりも、近年、頻発しているのは「気象災害」だと指摘する。大地震は一度に甚大な被害をもたらすが頻度は少ない。一方の気象災害は毎年のように発生するようになり、対策が追い付いているとは言えない。

   豪雨災害多発の一因になっているのが地球温暖化だ。海水温が高くなり、海水が蒸発しやすくなって水蒸気の量が増大、一度に降る雨の量も増えている。

   水害の多発は被災地以外の一般国民にも影響する。J-CASTトレンドでは、「火災保険また値上がりか...自然災害の頻発でツケが契約者に回ってくる」という記事を掲載済みだ