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日本「ロックダウン」の現実味 新型コロナ急拡大に「打つ手なし」

   新型コロナウイルスの感染者数が急拡大している。2021年7月28日には東京でついに3177人と初の3000人を突破した。4度目の緊急事態宣言が発令されているにもかかわらず、感染者数は増える一方だ。

   全国の感染者も9583人となり過去最大。五輪と同時進行で、コロナ感染者数も新記録を樹立した格好だ。これまでの対策を続けるだけで、いまや異次元レベルになりつつある感染爆発に対応できるのだろうか。

  • 都心からも人の姿が消える日がくるのか
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交通遮断、店の営業停止、住民は外出禁止

   諸外国がコロナに「ロックダウン」(都市封鎖)で対応していることはよく知られている。それに対し、日本は「緊急事態宣言」にとどまっている。

   「ロックダウン」になると、通常、特定の都市・地域への人の出入りが規制(禁止)される。カミユの名作『ペスト』が有名だ。

   アルジェリアの小さな港町オラン。ある日、ネズミの大量死が見つかる。ペストだとわかって町は封鎖。交通機関はストップし、電話や郵便も規制される。外部の世界から隔絶された住民たちはいらだちと孤立感を深める。医療体制は混乱し、生活必需品は高騰、そして毎日のように増えていく死者・・・。これは文学作品だが、コロナ禍では現実になった。

   コロナの発生地、中国・武漢市はいち早くロックダウン。他都市との往来が遮断され、食料品は宅配に。その後も欧州各地で類似の対策が取られた。

   ロックダウンは、一義的には、他都市との交通・交流の制限を指すことが多い。住民の行動を規制する場合は、同時に「外出禁止令」が発令される。勝手に外出することができない。英国やフランスでは一時、生活必需品の買い出しなどを除いて外出が禁じられ、違反者には罰金が科せられた。

   このように交通遮断だけでなく、店舗の営業停止や、住民の外出禁止なども含めて「ロックダウン」と称されることが多い。

規制の大半は「要請」どまり

   非常時に、公権力が一般市民の私権を法律で制限するという意味では、緊急事態宣言、ロックダウン、外出禁止令は似ている。違いは強制力。日本の緊急事態宣言は、諸外国のロックダウンや外出禁止令に比べると、規制が緩い。様々な規制の大半は、「要請」にとどまり、「罰則規定」がない。

   東京新聞によると、日本の緊急事態宣言は、改正新型インフル特別措置法(新型コロナ特措法)に基づき、首相が対象区域と期間を定めて発令する。それを受けて都道府県知事が、住民に外出自粛や、イベントの開催制限などを要請、指示することができる。「要請」は相手に対してのお願い。「指示」には法的な履行義務が生じるが、罰則はない。臨時の医療施設を開く目的で、土地・建物を同意なしに使用したり、政府への医薬品売り渡しに応じなかったりした場合には罰則もあるが、強制力がある措置は限られる。「海外のような強い強制力での抑止は法律上は難しい」のが日本の現状だという。

   法規制の違いは、それぞれの国の歴史や憲法、国民意識とも関連する。産経新聞によると、「日本も戦前の大日本帝国憲法には国家緊急権の規定があったが、現行憲法には存在しない。戦争の反省から国家の暴走を防ぐ意識が働いたとされる。このため日本では戦後、大災害など有事の際は個別の法律を新設、改正して対応してきた経緯がある」。

「切れるカードは、なくなってきている」

   東京では4度目の緊急事態宣言ということもあり、緊張感が薄れ、昼夜の人出はあまり減っていない。これまでの宣言と違って、宣言後に感染者が急増しているのが今回の大きな特徴だ。神奈川、千葉、埼玉でも一気に感染者が増えてきた。感染力の強いデルタ株が75%を占めるようになっているという。

   全国の感染者の多くは若い世代に移っている。しかし、64歳以下のワクチン2回接種率は26日現在、まだ2%台。多くの国民が、無防備のまま猛威を振るうデルタ株にさらされている。当面、全国の感染者数は急増していくことが確実な情勢だ。

   共同通信によると、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は28日、「医療の逼迫が既に起き始めているというのがわれわれの認識だ」と語り、政府に求められる対応について、「人々にしっかりと危機感を共有してもらえるメッセージの出し方と、感染状況にふさわしい効果的な対策を打つということだ」と語ったという。

   「効果的な対策」とはどのようなものが想定されるのか。これまでよりも強制力が強いものになるのか。テレ朝newsは28日、東京都の小池百合子知事は繰り返しステーホームを呼び掛けているが、手詰まり感は否めないとし、「切れるカードは、なくなってきている」という政府高官の声を伝えている。

法律がなくてもできる

   感染症専門医の中には、法律はなくても実質的なロックダウンはできると主張する人もいる。神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授は28日、幻冬舎オンラインで、著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)の一部を抜粋・再編集し、概ね以下のように説明している。

   「日本には外出を規制する法律がない。だからロックダウンはできない」。そんなことを言う人がいます。しかしそれは間違いです。法律上、「外出をするな」とか「店は閉めろ」といったことを強制できないのは事実ですが、それは重箱の隅をつつく議論で、本質的な問題ではありません。日本でもロックダウンはできます。

   「この地域に入らないでください」「この地域から出ないでください」「この地域に住んでいる人は外出しないでください」「罰則はないけれど、協力してください」。国がそう言い続けるのがロックダウンです。

   感染を終息させるという目的において、ロックダウンは最もパワフルな対策です。その効果には絶大なものがあります。

   短期間のうちに感染を抑え込むためには、できるかぎり完全に近い形で人の動きを止めなければならない。「狭く強く短く」がロックダウンを成功させる要件です。

   岩田さんの主張と、尾身会長の発言はなんとなく重なるところがある。まだ「打つ手はある」というものだ。それを政府に求めている。ただし、東京では五輪を開催中。そのことが事態を複雑にし、より強いコロナ対策を打ち出しづらくしている。

   ヤフー「みんなの意見」は、「五輪期間中に感染が拡大、政府の対策に効果はあると思う?」というアンケートを実施中だが、28日現在、96%の人が「効果はない」と答えている。