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新しい老い方 鎌田實さんは病を得て「鎌田らしさ」を究めようと

   週刊ポスト(8月20日号)の「ジタバタしない」で、医師の鎌田實さんが自らの病と「新しい老い方」について書いている。まずは「前回までのあらすじ」が必要だろう。

   鎌田さんは数年前から不整脈のひとつ、心房細動の発作を抱えていた。脳梗塞のリスクも高まるという侮れない症状だ。そこで今年6月上旬、自らが名誉院長を務める諏訪中央病院に4日間入院。下半身の太い血管からカテーテルを入れ、細動を起こしそうな心筋を電気で焼灼する手術(カテーテルアブレーション)を受けた。

   絶対安静を経て退院した筆者は、地方講演やラジオ出演などの日常をとり戻しつつある。落ち着いたところで術後の調子を診るべく、ホルター心電図を装着し、不整脈の出現を24時間態勢で観察した。今回は、その結果から書き起こしている。

「主治医が、慌てて電話をかけてきた。夜間の睡眠中に6秒間、心停止しているというのだ...自分でも少し驚いた。そのままこの世とオサラバということも、可能性は低いが、無きにしもあらずである」

   主治医はペースメーカーの使用を勧めた。服薬治療をしても4~5秒の心停止がある場合は有力な選択肢らしい。しかし鎌田さんは断る。

「ビビっていたら、何もできない。大事をとって動かないでいたら心房細動の発作は起こりにくいが、筋肉は減り、老化が進んでしまう。長期的にみれば、マイナスのほうが大きくなってしまうだろう」

   主治医には「そのまま心臓が止まったとしても、先生を責めないよ。生きている間はピンピンしていたい。生きる長さにはこだわっていない」と伝えた。

  • 医師としては受け入れられない、でも患者の気持ちは分かる
    医師としては受け入れられない、でも患者の気持ちは分かる
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次世代へのバトン

   鎌田さんは、かつて月刊誌で対談した橋田壽賀子さん(2021年4月没、享年95)が「認知症になったら安楽死したい」と語っていたことに触れ、こう続ける。

「医師としてはとうてい受け入れられない。けれど、橋田さんの気持ちはよくわかった。『自分らしさ』を失ってまで、無理して生きたくないということなのだ。『死』の覚悟よりも、自分の一部を一つひとつ失っていく『老い』の覚悟のほうがはるかに難しい」

   筆者は当面、抗不整脈薬と無呼吸を抑える睡眠改善の両輪で様子を見るという。

「今の時点では安易に大がかりなことはせず、自分で確認しながら、微調整を繰り返していきたい。それが、老いを受け入れる準備になる...自分を休ませる時間もとって、がんばったり、がんばらなかったりを行き来したいと思っている」

   鎌田さんは長らく、医師や院長の仕事の傍ら、イラクなどでの医療支援、地域医療の向上、さらには執筆や趣味のスキーなど多方面で活動してきた。自覚しないまま蓄積した疲労やストレスは相当なものだろう。不整脈は身体からの警告かもしれない。

「これからは次世代へバトンを渡すことを意識しながら、本当に自分がやりたいことに的を絞っていこう...老いと向き合っていくということは、今まで以上に『鎌田らしく』なっていくことでもある...老いから何を学ぶのか。『新しい老い方』を探るのが楽しみである」

自らセカンドオピニオン

   先ごろ73歳になった鎌田さん。「予想外のことに直面しても打ちひしがれず、生きる情熱の灯は大切にともし続けたい」と、どこまでも前向きだ。ひと安心である。

   病気になったとき、医者は何を思うのか。症状や検査数値をドクター目線で吟味しながら、一人の高齢者として来し方行く末を想い、より良い治療法を取捨選択することになるのだろう。「念のために」と遠慮がちにペースメーカーを勧める後輩の意見を、鎌田さんは「確かに」と認めつつ、やんわり退けた。「家族にも伝えているから大丈夫」と。

   自らセカンドオピニオンを示しているようなものだ。主治医はこれで助かるのか、やりにくいのか微妙なところだが、連載を読む限り、患者としては優等生にみえる。

   これまで、医療と健康の専門家として幅広い読者を獲得してきた鎌田さん。これからは老いのエキスパートとしても「鎌田らしい」発信を続けてほしい。初対面の時、風貌から「弟」認定された当方、8年遅れで追いかけさせてもらいます。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。