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ワクチン「若者は打ちたくない」説の不思議 ではなぜ渋谷接種センターに大行列

   新型コロナのワクチンについて、「若者は打ちたがらない」という説が一部にあった。ところが、東京都が2021年8月27日、渋谷で「東京都若者ワクチン接種センター」をスタートしたところ、初日は早朝から若者が殺到して大行列。早々に受付が打ち切られた。

   若者はワクチンを打ちたいのか、打ちたくないのか――。

  • 多くの若者がワクチン接種を待っているようだ
    多くの若者がワクチン接種を待っているようだ
  • 多くの若者がワクチン接種を待っているようだ

2月実施の調査結果を引用

   都の「若者ワクチン接種センター」は、予約なしでワクチン接種が受けられるというのが売りだった。ところがふたを開けてみると、午前11時半の受け付け開始にもかかわらず、徹夜組も含めて朝7時半には約300人が並び、早々に受け付けが終了した。NHKのニュースで都の担当者は「接種をためらう若者が多いということだったので、ここまで並ぶとは想定できなかった」と説明していた。

   どうして都の担当者は読み違えたのだろうか。

   実際のところ、若者の一部がワクチン接種に消極的だということは、いくつかの調査で明らかになっている。しばしば引用されているのは、国立精神・神経医療研究センターの調査だ。今年2月に全国2万6000人を対象に行われ、結果が6月25日に公表された。

   「ワクチン忌避者は全体で11.3%であった。若年女性15.6%から高齢男性4.8%まで年齢・性別で大きなばらつきがあった」という結果だった。日本テレビは6月28日、「若い人ほど打ちたくないという人が多かった」とその内容を伝えている。

20代、30代に否定的な傾向

   東京感染症対策センターが7月16~17日に実施し、8月26日に公表した調査でも同じような結果が出ている。調査対象は、都内在住の20~70代の男女1000人。この調査でも年齢層によってワクチン接種への対応に差があった。

   朝日新聞によると、「おそらく接種しない」と「絶対に接種しない」を合わせた割合は、20代男女でそれぞれ19.0%、18.8%。30代男女は16.7%と19.1%。50代男性(12.1%)や40代女性(10.5%)など、40代以上の年代と比べて、若者層にはワクチンに否定的な傾向が見られた。

   接種しない理由としては、20代男性の「感染しても重症化しないと思うから」や、30代女性の「副反応が心配」などが多かった。ほかに「感染しないと思う」「効果に疑問がある」「ワクチンは有害」といった回答もあったという。

   国立精神・神経医療研究センターや東京感染症対策センターの調査結果は、大筋では同じような傾向を示しているといえる。

若者の死者は少ない

   朝日新聞は7月28日、ワクチンへの対応が年代によって差があることについて、コロナの原点に戻って解説している。

「新型コロナに感染すると、年齢が上がるほど重症化しやすい。厚生労働省の集計では、80代以上では感染者7人に対し1人が死亡している。これが、40代では約1000人に1人、30代では約4000人に1人、20代では約2万4000人に1人になる。10代以下で亡くなった人は国内ではいない」

   このため、高齢者ほどワクチンを必須と考え、若い人は距離を置くことになりやすい。一方で、ワクチン接種後には発熱や倦怠感などの副反応が、若者ほど強く出ることも知られている。

   この記事の中で、筑波大の原田隆之教授(臨床心理学)は、「20~30代は、高齢者と比べて死亡や重症化のリスクが低いためコロナへの不安が小さい」ことを指摘。一方で副反応など将来的なリスクには敏感なので、接種をちゅうちょする人が多く見られるのは「自然なことだ」と語っている。

デルタ株急拡大で状況一変

   各種調査結果によると、確かに若者は高齢者よりもワクチンにネガティブな人が少なくないが、若者全体の中では少数派だ。しかも、いずれの調査も7月中旬以前に行われている。

   その後のデルタ株の急拡大で状況は一変した。日本では、高齢者へのワクチン接種が進んだ一方で、若者への接種が遅れた結果、今では新規感染者の多くを10~30代が占めるようになっている。デルタ株は感染力が桁違いに強力だ。20代や30代でも重症化して亡くなるケースが報道され、若者たちの間では以前より危機感が高まっている。

   米国ではこのところワクチンの安全性に対する新たな指針が次々と公表されている。8月11日には、米疾病対策センター(CDC)が妊婦に対するワクチン接種について安全性が確認できたと発表した。日経新聞によると、「CDCはこれまで妊婦は希望すれば接種を受けられるとしていたが、より積極的に接種を奨励する『推奨』に勧告を切り替えた」という。

   また、米国食品医薬品局(FDA)は23日、製薬大手ファイザーの新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した。これまでは「緊急使用の許可」だった。

   ワクチンに対する考え方は、コロナの感染状況や、ワクチンへの信頼度で変わる。現時点で改めて日本の若者に調査すれば、以前よりも前向きになっている可能性もありそうだ。