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岸田首相「外遊」は「遊び」なの? 公務の海外出張に使われる言葉の裏側

   岸田文雄首相が「初の外遊」に出かけた。もちろん遊びに行くのではない。国際会議への出席だ。

   この「外遊」という用語には、以前から違和感を覚える人は少なくない。公務で行くのに遊びに出かけるようなニュアンスがあるからだ。

  • しばしば違和感が指摘される「外遊」という表現
    しばしば違和感が指摘される「外遊」という表現
  • しばしば違和感が指摘される「外遊」という表現

ただの旅行じゃありません

   時事通信は2021年10月26日、「岸田首相、COP26出席へ 衆院選直後に初外遊」と報じていた。英北部グラスゴーで開幕する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に出席し、現地時間11月2日に行われる首脳会合の一部に参加する。ジョンソン英首相ら各国首脳との個別会談も調整しているという。

   岸田首相のCOP26出席については、他の新聞社もおおむね「外遊」という表現を使っている。インターネットでは、しばしばこの「外遊」という言葉への違和感が掲載されている。

「政治家の外遊と報道されますが、外訪と言い直した方が? 何か"遊"だと税金が無駄づかいされてる気がして仕方ないのですが」(07年8月23日。ヤフー知恵袋)
「外遊という言葉はほかの言葉に置き換えたほうがよくないでしょうか? どんな言葉がいいでしょうか」(21年4月2日、同)

「他国に出る」の意味も

   メディアの側も、このことを気にしているようだ。産経ニュースはすでに13年10月22日の「編集日誌」で、「『外遊』は遊びか?」という見出しで取り上げている。

「新聞などでは、議員らの海外出張をよく『外遊』と表記するが、先日、ある大物政治家から『遊びに行っているような書き方だ』と指摘された。広辞苑で調べると、外遊の項目には、『外国に旅行すること』とある。なるほど、仕事での海外訪問を遊びの旅行と一緒にされては気を悪くするだろう」

   同じような記事は、朝日新聞が運営するニュースサイト「withnews」(17年10月28日)にも載っている。こちらは「遊びじゃないのよ『外遊』は! トップに課せられた『二つの狙い』」という見出し。朝日新聞の政治部デスクが解説している。

「首相や閣僚ら政治家が外国を訪問することを『外遊』と呼びます。『遊ぶ』という文字が入っているため、ただの旅行なの?仕事なの?と思ってしまいますが、れっきとした『海外出張』です」

   産経の記事は、「漢字の『遊』は、軍隊の遊軍や遊兵、野球の遊撃手にも使われる。いずれも遊ぶという意味ではない」と語義を説明し、広辞苑で「遊」を調べてみると、「他国に出ること」や「一定の位置や所属がなく、自由に動くこと」という意味もある、と付け加えている。「withnews」も同様に、「遊」という文字には「よその土地に出かける」という意味があり、「遊説」「周遊」などとも使われます、と念を押している。

「外訪」への言い換えは

   インターネットでは、上述のように、外国訪問だから「外訪」と言い換えてはどうか、という提案もある。しかし、この言い換えは難しそうだ。なぜなら「外訪」という言葉は、すでに金融関係などで別の意味で使われているからだ。「私は銀行で働いています。主な仕事は外訪です」などという言い回しで使われている。

   三菱UFJ人事サービス株式会社のサイトを見ると、「外訪のお仕事」についての説明があった。「銀行の支社での就労で、お取引先を訪問し、現金・有価証券・その他書類の受渡し、ご用件の取次などが主なお仕事です」。

   首相の重要な公務が、銀行員の顧客訪問と同義になってはまずい。ただし、首相の外遊と、銀行員の外訪はやや似たところもある。

   先の「withnews」の記事によると、「(首相の)外遊には『お土産』がつきもの。訪問する国で会う首脳の趣味や好みにあわせて毎回『お土産』に知恵をしぼっています」とのこと。トランプ大統領に安倍晋三首相(いずれも当時)がゴルフセットをプレゼントした例などを挙げている。