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長引く避難所暮らし、尽きない悩み 我慢しすぎると心身のバランス崩す

   自然災害で自宅が被災、住めなくなった人が避難し、当面生活する場として「指定避難所」(以下、避難所)がある。学校や体育館といった収容人数の多い施設で、災害対策基本法に基づき市町村長が開設。被災者は必要な期間、滞在することができる。

   ただ、一時的ならまだしも長期滞在となれば、残念ながら快適な住環境とは言えない。普段の生活に少しでも近づけるような「あり方」を、考えてみたい。

  • 避難所で長期滞在するという可能性は、誰にでもある(写真提供:ピースボート災害支援センター)
    避難所で長期滞在するという可能性は、誰にでもある(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 避難所で長期滞在するという可能性は、誰にでもある(写真提供:ピースボート災害支援センター)

改善を求めていいはずなのに

   記者はこれまでの取材で、避難所生活を経験した人々の声を聞いた。東日本大震災で自宅を津波で流された男性は、2011年3月11日の夜、避難所に向かった。ところが入り口まで人があふれ、すきま風に凍えながら一晩過ごしたのちに親類のもとに身を寄せたと話した。2017年の九州北部豪雨では、発災から2か月過ぎても避難中だった人が、地元に帰りたい胸の内を明かしてくれた。

   今夏、佐賀県大町町を襲った豪雨。過去に避難所生活の「つらさ」を経験した人からは、在宅避難を選んだという話も耳にした。

   発災後、身の安全を確保できる場所として避難所が開設される。だが同じ居住空間で他人と生活を共にする期間が長引けば、何かと不便でストレスがたまる。最近では、新型コロナウイルス感染の不安もぬぐえない。

東日本大震災での避難所生活。2011年3月31日、宮城県気仙沼市(写真:ロイター アフロ)
東日本大震災での避難所生活。2011年3月31日、宮城県気仙沼市(写真:ロイター アフロ)

   2020年7月の豪雨災害で大きな損害が出た熊本県球磨村。現地で避難所運営の支援にあたった、ピースボート災害支援センター(PBV)・辛嶋友香里さんに話を聞いた。この避難所は、同年7月上旬から約4か月間開設された。

   長期化する避難所生活で健康被害につながる原因が、実は「我慢」だ。避難者同士の気づかいは大切だが、一方で我慢を強いていない場面で、「苦痛を苦痛だと言えない人が多い」と辛嶋さんは指摘する。

「寝る場所だけでも準備してくれて助かる」
「冷たいご飯...のどを通らないけれど、もらえるだけありがたいか」

   本来なら改善を求めていいはずなのに、無理をしてしまう。これが続けば確実に心身が不調になる。

数か月生活する場の認識がない

我慢をしなくていいところで耐える必要はない(写真提供:ピースボート災害支援センター)
我慢をしなくていいところで耐える必要はない(写真提供:ピースボート災害支援センター)

   日常生活で、避難所での悩み事は絶えない。

   まず食事。菓子パンやおにぎりも、初めはありがたいが毎日は食べ続けられない。辛嶋さんは、「10年前と比べれば、改善されてはいます」と話す。半面、栄養のある食事が十分に提供できているとは言えなさそうだ。解決には避難所を担当する行政と、保健師や管理栄養士の連携が必要になる。

   プライバシーやセキュリティーの面も、課題だ。滞在期間が長引けば避難者にとっては「家」なのに、外から無遠慮に入ってくる人もいる。一軒家で同じことをすれば住居侵入だ。コロナ禍により、密を防ぐうえで個室空間の確保が進んだが、今後状況が落ち着いたら「元に戻る懸念はあります」。

   現状では、避難所で「数か月にわたり生活する」との認識を、行政も住民も持っていない。近年は自然災害が激甚化し、自宅に当面住めなくなるケースが増えている。中長期の避難生活があり得ると考え、仮に1か月なら避難所暮らしを選ぶか、別の避難先を確保しておくか、事前に検討・準備しておくのがよさそうだ。

「甘えていい」と思えるように

避難者の話に耳を傾けることが大切(写真提供:ピースボート災害支援センター)
避難者の話に耳を傾けることが大切(写真提供:ピースボート災害支援センター)
「ご経験上、避難所で多かった改善要望は、何がありましたか」

   この質問に辛嶋さんは、しばらく黙って考えたのち「感覚的なものですが」と前置きして、こう答えた。

   避難所生活初期は、多い順に「情報」「睡眠」「食事」。時間が経つと「情報」「食事」「睡眠」となる。「睡眠」とは、音や電気が気になるといった安眠にかかわる相談が多いそうだ。

   情報については、在宅避難した人からも同様に要望が寄せられるという。例えば、行政からのお知らせをプリントで渡されるだけでは、避難者は理解しているとは限らない。仮設住宅がいつできるか、支援制度はどうなるかといった重大な関心事が、審議のプロセス共有なしに決定内容だけを突如聞かされるだけでは、被災者は不安になる。

   避難所生活が長引けば、心身のバランス維持が大切になる。「音が出るのを気にして、夜間に洗濯機が使えない」「弁当の配布時間に帰宅が間に合わず、経済的に負担だ」――。ひとつひとつは小さな不満かもしれないが、「当たり前のことが当たり前にできないつらさ」が蓄積されると、心の負担も増大する。

   辛嶋さんは、まず避難者自身に相談相手がいるか確認する。仮にいなければ誰かが話し相手を務める体制をつくる。日々、その人の状況を把握するのが大切なのだ。合わせて、本人の「居場所づくり」を重視し、避難所を運営するうえでの役割を担ってもらう。「人は頼られるとうれしい。『自分はここにいていいんだ』と思えるようになります」。これにより、被災した当初は落ち込んでいた人でも、徐々に明るさを取り戻すケースがあるという。

新型コロナウイルスの感染対策も重要だ(写真提供:ピースボート災害支援センター)
新型コロナウイルスの感染対策も重要だ(写真提供:ピースボート災害支援センター)

   災害に見舞われて自宅に住めなくなり、長期の避難所暮らし。ただでさえ「緊急事態」なのに、不便な日々が続けば、その後の生活再建に向けて心身が十分に回復しない。被災前の「普通の暮らし」ができる水準を保てるようにすること、生活の建て直しができるまでの「猶予期間」として「甘えていい」と避難者自身が思えるようにすること。こういう意識を住人、市民、行政も持つことが大切だと、辛嶋さんは指摘する。

(J-CASTトレンド 荻 仁)