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「略奪文化財」欧州で返還の動き 仏、独、オランダ・・・日本にも波及?

   西欧諸国が植民地などから入手した文化財を、元の国に返還する動きが強まっている。2021年、オランダは返還を公表し、独では返還を容易にする法案を可決した。仏は実際に返還を始めている。

  • 大英博物館
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収蔵品の半数が植民地から

   大英博物館のロゼッタ・ストーン、ベルリン新博物館にある古代エジプト王妃・ネフェルティティの胸像・・・これらは「略奪文化財」と呼ばれることがある。西欧諸国の博物館には、旧植民地などから持ち帰った文化財が大量に保管されている。

   オランダ国立世界文化圏博物館には43万6000点の収蔵品を持つ。そのうち、約半数が旧植民地由来だという。特に多いのは旧植民地のインドネシアに関連する収蔵品で17万4000点もあるそうだ。

   『美術手帖』(2021年2月6日)によると、オランダ政府は今年に入り、植民地支配下や戦争で占領された国家から、略奪や盗掘などによって不当に持ち出された文化財について、本来あるべき国へと返還することを公表した。

独仏も返還に前向き

   独でも新しい動きが出ている。日経新聞(10月10日)によると、今年6月、連邦議会(下院)はアフリカなどへの美術品返還を容易にする法案を可決した。

   独のベルリン新博物館には、ネフェルティティの胸像が収蔵されている。ツタンカーメンの黄金マスクに匹敵するともいわれる有名な古代美術品だ。長年エジプトが返還を要求しているが、独は応じていない。これからどうなるのか、世界の注目が集まる。

   朝日新聞によると、仏は11月上旬、植民地だった西アフリカのベナンから129年前に戦利品として略奪した26点の美術品を返還した。マクロン大統領は以前から、「アフリカ諸国の文化遺産がフランスに保管されていることを受け入れることはできない」と略奪美術品の返還に前向きだった。

   同紙によると、仏の美術館や博物館にはこうした収奪品が推計4万6000点以上もあるという。

   欧米の有名美術館や博物館に収められている「略奪美術品」には、実際には合法的な売買によるものもあるとされるが、まとめて「略奪品」と呼ばれることが多い。長年、大英博物館に陳列されているロゼッタ・ストーンについても、エジプトが以前から英国に返還を要求している。

日本にも未返還品が残る

   日本にも、中国や朝鮮半島由来の文化財がある。『文化財返還問題を考える――負の遺産を清算するために』(岩波ブックレット)によると、日本は戦後、韓国から約3200点の返還を要求された。戻したのは約1400点。東京国立博物館などにまだ多数が収蔵されたままだ。

   中国関係の文化財も多い。皇居内にある「鴻臚井(こうろせい)の碑」もその一つ。高さ1.8メートル、重さ90トンの巨石碑だ。713年に唐が渤海王を冊封した事績が記されている。かつては中国遼寧省の旅順にあったが、日露戦争で旅順を租借地とした日本軍が1908年、この石碑を搬出して天皇に献上したため、皇居内にある。2015年に中国の民間団体が宮内庁に返還を求める訴えを中国で起こしたことがある。

   日経新聞(10月10日)は、日本に残る中国や朝鮮半島関連の文化財を念頭に、「列強としてアジアを戦火に巻き込んだ過去があり、今は民主主義陣営の柱となった日本も、この流れが国際的に広がれば無視できなくなるかもしれない」という記事を掲載。西欧諸国の文化財返還の動きと、日本との関連に注意を促している。